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マイツェン子爵への報告

マイツェン子爵家へと向かうクラウスの心は重かった。


鱗のない自分をアメリアはどう思うだろうか。

馬車の中で俯いたクラウスの目に自分の右手が映った。鱗のない右手。

クラウスは自嘲するように笑った。


ドラゴンの呪いを愛してくれるアメリアはクラウスの救いだった。

しかしアメリアの目に映っているのは自分ではなくドラゴンの呪いだけなのかもしれない。それに気付いた時ドラゴンの呪いはクラウスにとってアメリアの心を奪うライバルにもなった。ライバルがいなくなったのならば喜ぶべきかもしれない。けれど、そのライバルはクラウス自身でもあったのだ。

アメリアが愛してくれた自分の一部が欠けてしまった。

そんな自分をアメリアに見せることがクラウスは怖かった。

しかし覚悟を決めるしかない。

クラウスは大きく息を吸うと、息と共にゆっくりと不安を吐き出した。



 **



クラウスを見たアメリアが、一瞬息を止めたように感じた。

アメリアがカーテシーをする。


アメリアの目が伏せられたのはカーテシーのためで、決してクラウスから目を逸らそうとしたわけではない。

そう思っても、クラウスは胸が重くなるのを感じた。

アメリアの目に寂しさが見えたのは自分の思い込みだろうか。顔を上げたアメリアの表情は落ち着いて見える。

クラウスはアメリアに笑い掛けた。

アメリアに右手を差し出す。手を重ねようとしたアメリアが、一瞬躊躇したことにクラウスの胸が痛む。

手袋のない手を差し出したことに驚いたのだろう。クラウスは自分にそう言い聞かせる。


アメリアが例えどう思っていようとも、クラウスに鱗が戻ることはないのだ。

だから鱗があってもなくてもクラウスに出来ることは今までと同じだ。

アメリアを大切にする。

それだけしか出来ないことをクラウスは歯痒く感じた。



 **



マイツェン子爵夫妻とアメリアに解呪を伝え終えたクラウスは、マイツェン子爵と向き合っていた。

子爵夫人とアメリアには退出してもらった。


クラウスが父や兄から聞いた現状を説明すると、マイツェン子爵が戸惑ったように聞き返す。

「は?クラウス様へ縁談ですか?」

「いや、それほどあからさまでもないと思うが…父や兄の元にそういったことを仄めかす話が来ている」

「…」

マイツェン子爵は考えるように言葉を途切らせたが、クラウスの顔を見て恐る恐る口を開いた。

「…クラウス様は…その、アメリアとの婚約を…」「もちろん私はアメリアと結婚するつもりだ」

慌てて続けたクラウスの言葉を聞いて、子爵は胸を撫で下ろした。

「…アメリアにはクラウス様しかおりませんから…。安心いたしました」

そう言う子爵に、クラウスは苦笑を返した。


「私の解呪で騒がしくしてしまうだけでなく、このような面倒な話が出て申し訳ない。

婚姻まであと2ヶ月ない。こちらで対処するつもりではいるが、何かあればすぐに知らせてくれ」

クラウスはそう伝えると子爵家を後にした。


子爵はこの後、アメリアにこの話をするだろう。

アメリアはそれを聞いてどう思うだろうか。

それを直接見る勇気がなかった自分に、クラウスは気が付いていただろうか。

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