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詩織さんの微笑みは天使のように冷たい。  作者: 綾峰 はる人
Mの遺言
30/32

私には、醒めることはないでしょう。

少し少ないけど、投稿頻度上げるために、すこし早めに投稿しました。

「……いいでしょう。快くお受けします」

 受けない理由がありません。私はさっそくいくつか質問をする。

「お名前を、聞かせてもらってもいいですか?」

 依頼を解決するうえで、物語りの内部で依頼主とコンタクトをとるのは結構重要なアクションです。密島紗江であることは予想がつくのですが、彼女から聞かねば意味がありません。もしかすると、完全なるドッペルゲンガーかもしれませんからね。

「――名前は、ない」

「……おや、それは困りましたね」

 名前がないなんて、そんなわけがないです。確かに、ロストブルーにて私が憑依したキャラには名前がありませんでした。なので、そういう立ち位置の人たちは物語の中においては普通のことです。ですが、『それほどまでのモブ』がこの喫茶店に来れるはずがないのです。何故ならば、『改変してほしい出来事』さえもないですから。なので、ここに来ている時点であり得ないのです。

「では、なにか代わりになる呼び名でもあれば」

「リリィ。あの二人はそう呼んできたわ」


 ――リリィ?


 随分と紗江の名前からかけ離れていますね。これはいったいどういうことでしょう。

 まぁ、それはそれ。次の質問に行きますか。

「ではリリィさん。その収容所というのは、いったいどこに?」

「小さな島の、真ん中にあるらしいんだけど。ごめん、外から施設の場所を見たことがないの」

 なるほど、リリィさんは目覚めたときには収容所に居て、脱出できずに死んでしまったと。

「では、救出対象の女の子というのは?」

悲涙(ひるい)の魂って資料には書いてあった。部屋にはそれぞれ収容されている者の名前が書いてあるから、部屋さえ見つけられれば簡単なはずよ。それから、容姿は知らないからね」


 ――嘘つき。


 この紗江さんは、とても嘘つきですね。ええ、リリィと名乗っていますが『他人から呼ばれていた俗称だということは、彼女自身が証言しています。この声に仕草、これは明らかに密島紗江そのものです。唯一、らしくないと思うところは、この嘘偽りの言葉たちといったところでしょうか。名前も隠し、更には『容姿は知らない』とまで嘘をついている。本当は、彼女はその女の子の顔を知っている。見なくても推測出来ているのでしょう。しかし、そうであってほしくないと思う彼女は、そのことから意識を逃がしているのです。『そうではない。あり得ない』と。

「はぁ、やれやれ。あなたのような問題ありなお客様は初めてです」

「悪かったわね。でも、話せないものは話せないのよ」

 なるほど、『話したくないものは話したくない』ということですか。恐らく、こういう話術を覚えなければならなかった理由があるのでしょう。私の知る紗江さんは、もっと素直です。

「分かりました。それでは、私が直接物語の中で情報等を集めますので、途中の経過報告でまたお会いしましょう」

 そうして、私は引き出しから分厚い本を取り出す。

 ――さて、今回の物語りの題名は?







 ――Mの遺言。







 ドクドクと、鼓動が激しく脈動する。『私』は何かに恐怖している。そしてそれは、常に私を見ていた。『私』は今、それから逃げている。


「………………っ!!!!」

 私は“起き上がる”。いえ、起き上がったように感じただけで、私は先ほどからずっと立っている。りりィさんの接客をしているのだから。

「……? どうかした?」

「いえ、なんでもありません。……私はこれから準備がありますので退出させてもらいますが、何か追加のご注文があればこのベルを押してください。蒼井が対応に参りますので」

 そうとだけ私は言い残し、部屋から出る。

 さっきのあの感覚は、何だったのでしょう。

明るく見えたその夕焼けは、私の瞳にしか映っていなかった。

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