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詩織さんの微笑みは天使のように冷たい。  作者: 綾峰 はる人
Mの遺言
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私には、死への保証がありません。

かなり短いですが、投稿したくなったので投稿しておきます。ちょっといいところで区切ると、次が楽しみになるでしょう?w

 あの瞬間、私は今まで感じたことのない恐怖を感じました。それも、手に汗を滲ませるほどの。

「昔の私は、湯賀レイの作品にどんな感情をもって見ていたのでしょうか」

 分かりません。何もかも、答えの見えない自問自答です。

「…………………………」

 私は大きく深呼吸をする。そして、口元に弧を描く。

「らしくないですね。記憶は記憶。取り戻せるときはあっけなく私の手元に返ってきます。焦らずとも、それは元より私のものですからね」

 あの物語以来、私の心が乱れ続けていた気がします。知らないうちに私のほうが物語りに浸食されてしまうとは、因果が強い証拠でしょうか。

 まぁ、何はともあれ。蒼井さんに依頼を話に行きましょう。


「――蒼井さん。今回も依頼を受けることにいたしました」

「そうか。んで、物語りの詳細は?」

「物語りの名前は【Mの遺言】依頼主の名前はリリィ。依頼内容はとある施設に収容された少女の救出。依頼主はどうやら複数人の団体で行動していたようです。皆さん依頼の目的である少女と同じ施設に収容され、脱出を試みていたようですが程なくして全員が死亡。物語り全体の世界観としては、生れつき体に『ある特定のウイルス』を持った人間を秘密裏に保護している地下施設で、そこに収容されていた数人が外の世界を望んで脱出するという様な感じでしょうか」

「なるほどな。前回の物語りほどイカレた世界観じゃなくて良かったな」

 キャラメル味の飴を口の中で転ばせながら彼は言う。蒼井さんは、根っからの甘党です。たばこか甘いお菓子か、この二択です。

「…………ハッキングポイントだが、かなり過酷になるかもしれねぇな。かなりアウェイだ」

「ふむ。それは困りましたね。……でも、大丈夫です。今までもアウェイな立ち回りは経験していますから」

 最高の微笑を蒼井さんに向ける。そうです。むしろこちらに有利な状況でのスタートなど、はっきり言えばほとんどありません。知らない世界に行く時点で、他の条件など些細な違いにすぎませんから。

「そこまで言うなら、任せるぞ。ただ、毎回言うが危険な依頼でどうなっても保険とか下りないからな。用心しろよー」

「分かってますよ。では、行ってきます」

 蒼井さんに小さくお辞儀をして、部屋を後にする。自室に戻りつつ、私は中庭の花々を眺める。

 もし、物語の中で死んだらどうなるのか。もちろん、私はこの世に戻ることなく物語の世界で骨となり消えてしまいます。もっと厳密に言うならば、物語りで重度の外傷または病気に侵されると、データによる自己修復機能が追いつけず治癒されることなくこの世に戻されてしまいます。もがれた腕は戻らないし、縮んだ寿命も伸ばせないということです。当然の摂理でしょう。

 ただ、私のお仕事は当然、(おおやけ)にできるものではありません。だって、誰が信じてくれるでしょうか。本の世界に入って、その中の人々を救済していますと言って。信じてくれそうなものなど、戦隊ヒーローやおとぎ話が好きな少年少女ぐらいでしょう。保険も保証もないというのは、そういうことです。ちなみに、カフェの店員として業務していた時の怪我にはキチンと保険がついているそうです。この話を蒼井さんに初めてされたときに確認しました。

「――さて、今回は私の異常な身体能力も機能している状態で行ったほうが良さそうですね。私自身の命の危険もありますし、なによりターゲットの悲涙の魂と呼ばれる少女の命も狙われています。場合によっては防衛しなければなりません」

 今回は、バックの中に前回と同じセットに加えポケットナイフも持っていきましょう。私の、唯一の武器と呼べるものですからね。

「では、参りましょう」




 ―――物語へのハッキング開始―――

 ―――ベースデータ読み込み中―――

 ―――すべてのプロフィルを解凍―――

 ―――自我精神文学化―――

 ―――肉体スリープモード―――




暴風雨は、僕らの叫びも涙もさらってしまう。僕らは、なんともちっぽけなのだろう。

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