少しだけ、休息です。
大変申し訳ございません!!!!!!! 更新がクソほど遅れてしましました。
仕事やら、YouTubeやら、あとはプライベートの時間も欲しく、なかなか櫃が進まず。
安心してください。生きてますよ。
これからも、よろしくお願いいたします。
もはや、懐かしささえ感じる私の部屋の匂いに、私は少しの間だけ体を預けた。心が癒されるというわけではありませんが、長く家から離れていると妙に落ち着くのと同じです。
この瞬間だけ、私は私としていられている気がします。
「……さて、そろそろ蒼井さんのところへ行きますか」
今回の報酬をもらいに行くついでに、ムードメイカーという男の存在、魔女のポルカの意味、本の崩壊が起こらなかった現象。そして、私の失われた記憶と、この物語の関連性。
「私は、あの物語を、知っている可能性がありますね」
私自身は覚えていません。が、しかし、妙な居心地の良さや見たことない光景のフラッシュバック。そしてムードメイカーの言葉。関係ないと言い切ることは難しいでしょう。
ですが、物語の性質上が“そうなるようになっていた”のだとしたら、私がそう感じただけで、実は全く無関係だということも、やはり可能性としては拭いきれない。
「蒼井さん。まほさんの依頼が終わりました」
「おう、そりゃお疲れさん」
皆が働いているなか、勤務時間に堂々と休憩室を占拠してたばこの煙をまき散らす蒼井さんには、ある意味尊敬しています。よく、このような人間が経営している店が潰れずにいられるなと。客からは見られなくとも、従業員にはバレバレですからね。皆さんが辞めていかないのが不思議でなりません。え、私も辞めていない?
私はよいのです。皆さん一般従業員ではできない仕事を、ここでやらせてもらっていますので。
「休憩中に申し訳ないのですが、いくつか調べて欲しいことがあります」
「帰ってきて早々にそれか、仕事に熱心だな。おまえは」
半ば呆れたような、半ば引いているような、そんな感じのシワを眉間に作り、皿に大量に盛られたポップコーンを休むことなく口へ放り込んでゆく。ふむ、わかりましたよ。私と同年代のあの子が、また問題を起こしたのでしょう。
まぁ、それはさておき。
「私には、これしかありませんから。それに……、今回はいろいろと伝えなければならないこともありましたので」
「言いたいこと? なんだ。なにかあったのか」
彼の目が、一気にやる気のある色に染まる。蒼井さんは、カフェの仕事よりも私の仕事のサポートをしている時のほうが、仕事に前向きです。彼の性格上、私の力になれているから好きなわけでもないでしょう。彼はおそらく、隠された真実や、設定、規則、そういうものをのぞき見るのが好きなのでしょう。
「――何かがありすぎて、目玉が飛び出るところでした」
「はいはい。それを真顔で言われてもな」
淡白にそう言うと、キャラメルのカスで汚れた手をパンパンと払う。その床に散ったカスを掃除するのは、ほとんど私です。ただ、これだけは訂正しておくと、蒼井さんも結構な綺麗好きで店の外観管理はほぼ自分でやっています。もう十年ほど経営しているそうですが、家具も建物自体も新築と変わらないほどきれいに保たれています
「ま、何があったのかはハッキングルームで聞かなきゃ何もできねぇし、さっさと移動するぞ」
「……かしこまりました」
こういう時に、“例の瞬間移動”が発動すればよいものを。
あっ、でもあれは場所の指定などはできませんし、使えるならば眼鏡の能力の一つである瞬間転送がいいですね。あれは自分でも場所を指定できるので。
「そんなことしてると、運動不足で太っちまうぞ」
「余計なお世話です」
くだらない言い合いを交えつつ、中庭の見える花たちを横目に部屋を移動する。いつも思いますが、裏路地の小さいところに構えたカフェのわりには敷地は大きいように思います。しかし、その半分以上がお客様が入れるスペースではなく、景観を少しでも華やかにするためのものだったり、従業員のためのスペースだったり、私のお仕事に関係するためのものです。
「――で? なにがあったんだ?」
「蒼井さんは、ムードメイカーという人物を知っていますか?」
「…………まぁな」
蒼井さんにしては、歯切れの悪い返答。恐らく、多くは分かっていないのでしょう。しかし、知らないよりはましです。少しでも、ムードメイカーについて知っておきたい。
「どんな人かご存じで?」
「いや、あんまり詳しくねえよ。まぁ、そうだな。影みたいに見えねえ奴だってことと、あいつは物語のあらゆるものを無条件で覗き見できる上に、何をしても物語に干渉もしない。そして、三人組の探偵事務所をやっているって事ぐらいだな。他は何もわからねぇ」
「まさに、謎多き男ですか。……その男に、信用性はあるのでしょうか」
「信用性はある。たまに俺の客として来ることがあるんだが、内容はぶっ飛んでるけど嘘は吐いたことがない」
「そうですか」
それは安心しました。彼が嘘つきであれば、私が気にしていることの八割は嘘ということになりますので。
「そいつが、何か言ってたのか?」
「ええ。私の失った過去は、本を救済することで分かると」
蒼井さんの動きが、分かりやすく止まる。まるで、一瞬にして石像になったかのように。
「……あー。そればっかりは俺の口からは何も言えないな」
「支配人に聞いても同じでしょうか」
「どうだろうな。あいつなら何か知ってるかもしんねぇが、知ってるからって教えてくれるようなやつでもないぞ」
「そうですか」
まぁ、そうですよね。たまたま街の片隅で私のことを見つけた蒼井さんが、私の過去を知っている可能性などほぼありませんよね。
「ここからは、LOST BLUEのことなのですが。いくつか申し上げてもいいですか?」
「それは、ハッキングが必要そうな内容か?」
蒼井さんの目の色が変わる。それは仕事の目ではなく、明らかに好奇心のそれだ。やはり、彼は頭もよく冷静で物事の判断も良い人間ですが、彼の原動力は『自分がしたいことか否か』というところに留まります。
「本が、私のことをウイルスと認めたうえで、世界を維持し続けました」
「おいおい。そりゃないだろ。ありえねえ」
「いえ、ありえたのです。現に私は、物語りの人間のうち何名かに疑われていました。それに、私自身も大胆な動きを取ってましたが、それさえも影響なしです」
「へー。…………なるほどね」
頭を少しだけポリポリと掻く。これは、彼の中で難読な問題に直面したときに出る仕草です。支配人に私のことを雇えと言われた時も、この仕草をしていました。
「あの【湯賀レイ】ならあり得るか。そういうふざけたセキュリティを、本に埋め込むこともできるだろうよ」
まぁ、俺の仮説にすぎねえが。
左手の人差し指で机の上をトントンとたたきながら、パソコンを立ち上げる。『いらいらしている』と思うでしょう。いいえ、ハッキングとなれば話は別。難読で、理解不能で、可能性が薄いがインパクトがあるものこそ、蒼井さんは執着する。
「今からちょっとハッキングするから、待ってろ」
「ありがとうございます。では、そのついでになるのですが……」
「おう、なんだー?」
もう、私のことなど見向きもしない彼は、半ば意識が宙ぶらりんな声のトーンで返事をする。まさに、集中するための前段階と言ったところです。
「魔女のポルカ。という詩を知っていますか?」
「あ? なんだそれ。初めて聞いたな」
画面に目線を噛り付かせたまま答える彼に、何か隠している素振りはない。ええ、元より彼が私の質問の返答に、嘘を吐く理由もないわけですが。
ですが、なぜか感じてしまったのです。『ひょっとして、嘘を吐いているのでは』と。いけませんね。まだ、思考が潜入時のままです。
「――まぁ、それもまとめて調べといてやるから、なんか分かったら言うよ」
「はい、ありがとうございます。では、私はこれで失礼します」
既にこちらに見向きもしない彼の背中に一礼をして、私は部屋を出る。さて、私も通常業務の方を手伝いに行きましょう。きっと、『何かしらの問題』が出ているでしょうから。
「――詩織、今帰りました。何か手伝えることはありますか?」
「おお、やっと帰って来たん? お帰りー」
「これは花さん。私にできることはありますか?」
彼女は、この店のシェフ。名前は右京 花。彼女の腕にかかれば、どんな料理も一級のものを作り上げる。特に、彼女の作るビーフシチューとオムライスは絶品です。
「あるにはあるけど、あっちの仕事で疲れ取るんじゃないん。今日くらいゆっくり休みよ」
「お気遣いいただきありがとうございます。でも、私、じっとしておくのが嫌いな性分のようで、そわそわするのです」
私は、行動こそ活発ではありませんが、近くで誰かが働いている空間で、一人休むというのはどうにも心が落ち着かないのです。だから私は、定休日の水曜日以外はすべて店に立っている。それは、今日みたく、私だけのお仕事が終わった後だとしてもです。
「そこまで言うなら、百合愛ちゃんが結構バタバタしとるけん、手伝ってあげてもらえる?」
「わかりました」
なるほど、今日の出勤情報を見るにウエイトレスは百合愛がたった一人でやっているようです。いくら狭い店だといっても、お昼時になれば満席近くにはなります。それを一人で賄うのは少し厳しいでしょう。
「――百合愛、忙しそうですね。なにか手伝いましょうか」
「いつも言っているでしょっ。ないわ! へとへとの体のアンタにはねっ!」
「ふむ…………。おや、こんなところにオーダーミスの紙が」
「嘘つくな。ミスなんかしてないから!」
「おやおや、そんなに騒ぐと、お客様の耳にまで届きますよ」
「じゃあ、部屋で大人しくしてろッ」
「――…………………………」
強制的に、部屋へと戻されてしまいました。いつもは、ぶちぶちと文句を言いつつも、私に仕事を渡して来るというのに。今日はなにか、絶対に私を店の前へと出したくないという意思すらも感じるほど頑なでした。
「さて、どうしましょう」
働かせてもらえないならば、自分なり何か出来ることを探さなくては。
「そういえば、今日はシルビアさんは来ているのでしょうか」
今日は雨。そのうえ、蒼井さんが近日花に水を上げたので雨水で花が痛まないように透明のビニールをかぶせてあり、水がかからないように花壇は守られている。
基本、彼女は花に水を与える日以外はこの店に来ません。
「私のこと、呼びました?」
「……シルビアさん。来ていたんですね」
驚きました。ええ、それはもう驚愕です。どんなホラーよりも、気づかないうちに誰かがいることが一番怖いです。心臓に悪い。
「はいっ! 今日は、蒼井さんに用事があって来ました」
目の前の、狐のお面が揺れる。これは、彼女のトレンドマークと言っても良いでしょう。理由は話してくれませんが、彼女はいつも顔を隠していて、その日の気分でお面のデザインを変えてくる。この間はひょっとこだったような気がします。
「――そうだったんですか。そうとは知らず、私さっき仕事を頼んでしまいました」
「あっ。いえ、もう用は済んだから帰ろうかと思っていたところなので、全然大丈夫ですよーっ!」
えへへ。と笑う仕草は、天使のようです。妙ちくりんなお面をしていても可愛いというのは、もう罪以外の何物でもありません。『可愛いは正義』と昔から言われていますが、逆だと思います。可愛いは大罪です。人の思考を一瞬にしてバカにしてしまうのですから。
「いつかは、お客様としてゆっくりできる日に来てください。花の世話は心配しなくとも、蒼井のほうがやっていますので」
「えへへ、ありがとです。じゃあ、また来ますね」
彼女は、半ば駆け足にその場を去った。彼女は、いったい何をしているのでしょう。おそらく、ここにきているのは何か理由があってのことなのでしょう。なぜなら、お客様として来たことは、一番最初の来店の時だけ。他は、花の世話や従業員に個人的な用事。彼女がビジネスとしてここを利用しているのは、内容を知らない私でもわかります。
「まさか、支配人の知人……」
いえいえ、そんな筈はありません。厳かな雰囲気の支配人と、あのシルビアさんが並んでいる姿など、想像もできません。きっと、提携している他店の看板娘か何かでしょう。
「おう詩織、そんなところで何ボーっと立ってんだ」
「蒼井さんこそ、もう終わったんですか?」
「いや、まだ途中だ。分かったのは魔女のポルカって歌のことくらいか」
頭を軽く掻きつつ、手に持った資料を私に押し付けてきた。それには、魔女のポルカについてと書かれている。
「随分と早いですね。そんなにセキュリティが甘いところに情報があったのですか?」
「セキュリティもくそもねーよ。ガラクタのようにデータが野ざらしだった。まぁでも、ちと俺も読んでみたがよくわからねえ詩がつづられているだけで、大したものでもない気はしたけどな」
まったくもって楽しくない情報収集だったからか、蒼井さんの表情はまさに『くだらね』という感情そのものです。しかし、私には読めばわかることもあるかもしれません。何せ、私はこの歌の魔女に似ているというのですから。
「とりあえず、読んでみます。今日はどうやら、店のほうは手伝わなくても良さそうなので」
「ああ。お前は働き過ぎだ。ちょっとは休め」
「すみません。ありがとうございます。では、お言葉に甘えて……」
蒼井さんに軽く一礼をして、私は自分の部屋へと戻った。ふわっと香る芳香剤の匂いは、私が本の世界にいる間も従業員の誰かがこの部屋を掃除してくれていた証拠です。おそらく、花さんでしょうね。大和撫子というのは、彼女のための言葉といっても過言ではないでしょう。
「それにしても、彼女は無事にイヤリングを付けることができたのでしょうか……」
私が東郷さんに渡したのは、あくまで偽物。歌錬さんからのプレゼントではありません。それを東郷さんが『歌錬さんからのプレゼント』と言って渡すのか、それともAに渡すいますイヤリングを私のイヤリングとすり替えたのでしょうか。
「…………………………」
――まぁ、答えは分かり切っています。
偽物のイヤリングをまほさんに渡しているでしょう。彼女のイヤリング奪取の目的は、首謀者Aに“効果付きのイヤリング”を渡すこと。それを効果のないただのイヤリングに変えても、Aにばれてしまうことは明白。しかし、まほさんに偽物を渡したとしても、彼女自身は『全ての効果を受けない』つまり、彼女の嘘や偽りは誰にも見抜けません。人の感情を感じ取れる『単純な直感』も、嘘を見抜ける『人狼眼鏡』も彼女の前では無意味です。
「……ええ、これでよかったのです。彼女の魂が救われたならば」
しかし、いろいろと心にモヤモヤが残る形となってしまいました。彼女は、恋人に渡されたイヤリングが研究のために争奪されているとは知らないでしょう。そしてそれが、彼女の人生を狂わせてしまったこと。きっと、この他にも様々な闇と陰謀が渦巻いています。
「なんだか、とても可哀想ですね」
私だって、たまには同情もします。それも、あそこまで人間関係を知ってしまえば尚更です。
「――詩織ちゃん。ちょっとええ?」
ドアの向こうから、少し小さめの声で花さんの声が聞こえる。何でしょうか。厨房から抜け出してまで来るなんて。
「どうぞ、入って構いませんよ」
そう言って間もなくしてドアが開いて、花さんがひょっこりと顔を出した。
「ごめんね。休んでてって言ったのに。今、詩織ちゃんだけのお客さんが来る部屋を掃除してたら、こんなんが見つかって。詩織ちゃん宛てに書いてあったから、渡しとこ思ってね」
「これは、手紙? 送り主は…………」
そうですか、ええ、はい。これは、非情に驚きです。極稀に、依頼人が何かを残していくことはあるのです。ええ、そうです。これもその一つだと思います。それが、『五十嵐まほ』の名前ならば。
この手紙の送り主は、なんと『東郷万里』だった。
「花さん。ありがとうございます。仕事中だというのに」
「ううん。ええんよ。それが何なんかは知らんけど、きっと大事なもんじゃろって思ったけん」
じゃあ、私は仕事戻るね。そう言って、彼女の足音は急ぐように遠のいた。そして何も物音が聞こえなくなった頃、何故か私は人目がないことを確認するように辺りをキョロキョロと見回す。まるで、見られてはいけないものを預かったかのような感覚です。
この手紙の内容はいったいどのようなものなのでしょう。私は恐る恐る封を切る。
『――こんにちは、詩織さん。貴女がどのようにして、どこから来たのかは私にはわかりませんがこの手紙が届いていることを願います。さて、ここからは貴女がこの手紙を読んでいるという前提で書かせてもらいます。イヤリングの件、ありがとうございました。おかげでまほは何事もなくイヤリングを付けることができています(ただ、学校内ではつけてはダメ)というルールの元ですが。妹への薬の供給も止まることなく続いています。そして何より、Aを出し抜くことができました。これら全てを実現できたのは、Aに監視されていない部外者である貴女がいたからこその事です。非常に感謝しています。ありがとうございました』
これで文章は終わっている。少し、警戒し過ぎていたのかもしれません。何故、まほさんの残留品ではなく東郷万里からの手紙だったのかは分かりませんが、それよりも、私は非常に驚いています。手紙の内容が、私には恐ろしくてたまらない。ええ、他の人からすれば変哲もない礼文でしょう。しかし、この手紙の送り主はこの世界の住人ではない。そう、本来私のことなど知ることもない、生きている世界すら違うのです。そんな彼女が送ってきたのは、事件を解決した後の手紙。つまりは、私が知る由もない時間軸からの手紙なのだ。彼女は覚えている。今も、いえ、物語が終わりを迎えたその先も。彼女の魂がある限り。
そして、ある仮説がふっと私の思考によぎった。ほんの一瞬だけ、その仮説と、そうだと思った場面が急速にフラッシュバックし、入り混じる。
――いえ、そんなこと、あるはずありません。
私はそう言い聞かせ心が一気にストレス信号を脳へ送り、そのことについて考えることを無理やり遮断した。
「……なんだか、急に疲れがどっとこみ上げてきましたね」
私はまるで、永遠の眠りにつかのようにゆったりと瞼を閉じた。
ごめんなさい。謝罪の言葉しか見当たらず、書くことが思い浮かばないです。
とりあえず、更新遅れて申し訳ありませんでした。




