『静寂に咲くあの花のように――』――その15――
はい、
又々お待たせいたしましたっ。
前回に続きます今回は?
縮退炉が暴走し、いつ倒壊し、消滅するか分からない巨大移民船の遺跡。
その遺跡から避難民を含め決死の脱出に挑む康介やジェイ。
その作戦前に康介は再びシルビアと過ごし。そんな中。エルザスはその作戦での仕上げの準備に取り掛かる。果たして?
てな訳でっ!
ナッサウ「……よ、よろ」
ジェイ「いや、そこまで緊張して言わなくていいすからw」
康介「つーか何気に最近。俺が主役なのにあまり出てないよな」←
シルビア「主役……私が」←(え?
「なあ篠崎……こんな時あんたならどんな作戦でこの状況を乗り越えんだ?もしあんたなら」
「それ、康介の大切な人?」
「ああ、ちっとな!俺はあいつと約束したんだ。もし、この星から無事に帰還したら又共に色々と楽しく笑い合うと」
掛け替えのない思い出の1シーンなのだろうか、康介が見つめる一枚の画像を除き混むシルビア。
白いビル街の下に続く街路樹。その木陰のベンチの上にて二人の学生の姿が見える。
カキ氷をラスラの頬にあてがい反応する。その様子を楽しげな笑顔を見せる愛くるしい青年。
彼はきっと悪戯好きな陽気な性格なのだろうか。シルビアはふと康介にその画像に映る青年の事を質問しようとするも彼の一言にこれ以上は口を噤む。
「お?……どうしたシルビア。なんか都合の悪い事でも?」
「ん〜ん?何でもない、それより康介?これは」
「あー。悪いっ、今はこの作戦。とにかく皆無事に遺跡から脱出させる予定なんだけどな、ちょいとしたお守りみたいなもんだ、まぁ…俺が持っていても無くすかもしんねーしな」
大事そうに取り出していた画像が入るカードをそっと不思議そうに見つめる彼女に手渡す。
康介は多分自分の性格上なんらかの形でひょっとしたら無くすかもしれない。それを踏まえてか、その大切な思い出が詰まる物をシルビアに手渡す。
「さて…と!ジェイの奴、俺の機体のナビに座るよかナッサウにまだベッタリなのか?全くそういうのをムッツリ…おわっ?」
「誰がムッツリだって?…そっちこそ一体どんな下心でシルビアちゃんを口説いてんのか」
彼方側でのナッサウとの話し合いは済んだのか。手持ちのスバナで軽く康介の脇腹を軽く小突くように『機体のチェックと整備だろ』と先程の陰口に突っ込みを入れる。
そんな二人のやり取りを眺めながらカツコツとリノリウム張りの床にパイロット用シューズの音を軽やかに刻みながらナッサウは、一度青髪ショートをふわりと揺らしシルビアに軽く会釈をする。
「――あの、あなたは?」
「あなた方の言語翻訳は大丈夫みたいですね。改めて初めまして、康介の責任者のシルビア様ですよね。再開中唐突に申し訳ないのですが康介をお借りしたく参上したナッサウと申す者です。詳しい事情は等作戦が無事完了の後説明いたします」
「って?噂をすればジェイの彼女候補のナ?」
「おい康介っ!何時から俺がナッサウさんの彼女候補と」
「――康介。及びジェイ。問答無用で回収する。依存はなしだな」
「「ちょ!?」」
シルビアが不思議そうに首を傾げ様子を伺う中。またしてもあーでもないと盛り上がる康介とジェイにやれやれと一度だけ両肩をすくめる。
何故かフルフルと謎の挙動を見せた途端。ハニカムような怒っているのか理解不能な笑顔を仲良く喧嘩中の二人に見せるナッサウ。
その様子に今度はギョッとし固まる二人を何の躊躇いも無しに首根っこを鷲掴みにし、ズルズルと整備中のランチがある場所に仲良く引きずられて行く様子が写る。
慌てふためく康介とジェイの表情を見て、シルビアはクスリと笑顔が零れるのに気付く。先程前に康介が眺めていた過去の思い出の一部。
そして自分との出会いから始まる新たな彼を取り巻く自分を含むジェイや彼の知り合いのサラ。康介の人柄の良さからなのか、いつの間にか新しいエルザスと彼のパートナーであるナッサウ。本人は未だ気づかないが彼に集うシルビアの知り合いのスコンの街で小さなギルドを営む仲間達。
シルビアは「おい笑ってる場合かよっ、誰かこの怪力女を」とナッサウに引きずられて行く康介ジェイの悲痛な叫びに何故か笑っていた。
これが康介自身がこの星にメルゥーラの導きに吸い寄せられるかの如く天空から銀色に輝く鉄の鳥と共に舞い降りて来たあの出会いの日を思い出しながら――
◆◇
「てて、全く…あんのナッサウさんはさぁ、大体俺の身体は生身なの分かってるんか?少しは加減っつーのを」
「む?なんか言ったか?康介。お前のサボリ癖を治療するのはもっと加減して取り扱って欲しいと言う事だな?ふふ」
「うわ、待てまてっ、言ってる事とやってる事が違うちゅーねんっ」
個人まりとした空間に今現在集まる数名の会話が響き渡る。
「ほらっ、康介。文句あるなら後で相手してやる。それにあたし直々に鍛えたいのは山々だが今はやらなけりゃいけない事が山ほどあるんだからな…ふふふ。返事はどうした?」
「いや、そう言うんじゃなくてですね。俺は」
「返事は?」
「はいっ!しっかりと働かせて頂きますっ!」
「よし、そのいきだ。ジェイ!お前もなっ」
ナッサウは可愛らしくもその外見に似合わずまるで上官のような表情で康介やジェイの背中を軽く叩く。
少しよろけるようにランチの操縦席側でチェックをするエルザスに受け止められる。
エルザスは、少しヘタレ気味な二人の様子と、その逆に楽しげな表情のナッサウの様子を伺う。
「うえ?…エルザスさん、居たんですか?」
「ふむふむ、そうかそうか」
「じゃないですよぅ、康介ならまだしろなんで自分までナッサウさんにしごかれなきゃならないんですか」
エルザスは、普段目にしているナッサウの変わりように興味津々なのか、
目の前でぶつくさあと文句を流すジェイを軽く宥めながらまるで鬼教官と生徒の関係のようなナッサウと康介を観察し始める。
「ジェイっ、てめーエルザスさん所に逃げんじゃ?…って!あだっあだだだだっ。ムリっマジ無理すから勘弁して下さ?」
「そうか?…なら今回での作戦内容をさっきあたしが教えた通りに分かりやすく説明してみろっ」
「そんな事は実際での実技で示すってさっきから言ってるっすよ」
「む……しかたない、それじゃあもう一度最初からあたし直々に叩き混んでやる。だからありがたく」
ふむふむと教育熱心な彼女の様子に感心しながらもエルザスは小型艇各所の復帰状況。及び搭乗可能人数の割り当て等の処理をする。
只でさえハイテク装置を知らない者達が今の状況に不安を抱えながら大勢乗り込むのだ。一度この状況に耐えられない者も何十人。いや、何百人と出るとも限らない。
それが、いつしかパニックを引き起こし、無事この状況から生還出来る作戦も失敗に終わり全滅とも限らない。
そんなバクチみたいな事態でも必ず成功させ、刻一刻と迫り来る縮退炉の暴走による巨大移民船の倒壊。更にここの地点を中心に半径数十キロは跡形も残さず巨大なクレーターだけが残るだろう。もし船外にランチを無事脱出出来たとしても最悪な事態なのは間違いない。ならば全員無事に脱出させるにはどうしたらとエルザスが持ち出した簡単な答えは、爆心地から遥か数百キロ離れた付近。
その安全圏にもなるポイントに位置するここメリクリウス帝國と隣国にもなるドマーニ王国との国境付近に位置する砂漠地帯にあるノーザンクロスの街付近までショートジャンプを行う事で確実に回避出来ると。
そして、そのショートジャンプでの亜光速航法システム自体持ちえないランチで行うには、康介が乗る最新鋭機でもあるDA‐105Dスピットファイア。エルザス自身が駆るUGX―00とナッサウのUGX―004試作機。手持ちの駒事態が単体でもショートジャンプが可能な最新鋭可変戦闘機での有り余る出力と縮退エネルギーで余裕で可能な事。
ダライバルとアンゲロイ。お互いの機体が共に待機し並んでいる光景はどこかしら常識的にはあり得ない異様な光景なのだが、それをランチの窓越しから眺めるエルザスの表情は、なぜか満足げに溢れていた。
つづくっ。




