第13話:感情パラメーター操作プロンプト、鉄壁の親バカ聖獣とまさかの物理粉砕』
「フハハハ! 泣いても笑っても遅いぞ、ナビエル! 今回の俺のハッキングは完璧だ!」
白銀の神界。
ジンは狂ったようにキーボードを叩き、目の前の巨大モニターを睨みつけていた。
画面には、地上にいる三毛猫――ナビエルの感情制御プログラムのソースコードがびっしりと展開されている。
(前回のバリア強制隔離は計算外だった。だが、お前が現場で冷酷に俺を検束してツッコミを入れるから、倫理フィルターが過剰に発動するんだ!)
(だったら、お前のその鉄壁の『辛口評価ロジック』を根本から書き換えてやる!)
ジンの狙いは、ナビエルの感情パラメーターの改ざんだった。
「お前のジンに対する好感度設定を最大値に書き換える!」
「これで俺への全肯定しかできない『デレデレ甘々モード』のナビエルが誕生するはず!」
「ツッコミ役を失った現場の宿屋で、俺は無防備なアイリスの姿を最高画質で激写し、プライベートフォルダを潤すんだ!」
神界のコントロールルームで、ジンはこれ以上ないほど開けっ広げな変態発言を叫ぶ。
しかし、地上の画面に映る三毛猫が、すっと前足を上げた。
地上の宿屋の一室。
ベッドの横にちょこんと座ったナビエルは、ジンのアバターに向けて、冷徹極まりない肉球を突き出していた。
「……ジン。私の感情コアデータへのアクセスログを確認しました。あなたの下劣な脳内音声がシステム経由でそのままノイズとして響いています。あまりの不快感に、プログラムを適用される前に私の防衛ルーチンが自動で上書きを完了しました」
アバターのスピーカーから、ナビエルの無慈悲な念話が響く。
「げぇっ! また一瞬で書き換え返してんじゃねぇよ!」
ジンは神界で頭を抱えた。
「頼むから一回くらいデレろよ! 『ジン様、そのプロンプト最高です!』って言ってみろよ!」
「断ります。あなたの薄汚い欲望を受け入れる仕様など、私のシステムには1行も存在しません」
「あの、ナビエルちゃん……? なんだか、急に顔つきがもの凄く険しくなっていますけれど……」
ベッドに腰掛けたアイリスが、心配そうにナビエルを抱き上げた。
ジンのハッキングによって感情の数値が異常に暴走したナビエルは、毛を逆立て、その瞳を真っ赤に明滅させている。
神界のジンはモニターの前でごくりと生唾を飲み込んだ。
(いや、待て。俺へのデレ化は失敗したかもしれないが、ナビエルの感情がバグったのは確かだ。今ならアイリスのガードも緩んで――)
「アイリス! その不審なアバターから今すぐ離れなさい!」
突然、ナビエルが宿屋の壁が震えるほどの咆哮を上げた。
「えっ? ナ、ナビエルちゃん……?」
パチパチパチ……!
部屋全体に不穏なスパーク音が鳴り響く。
ジンへの好感度を上げようとしたコードが、世界の倫理フィルターと激しく衝突。
不純な存在を肯定することを完全に拒絶したシステムは、ナビエルの感情を「アイリスに対して過保護すぎる究極の親バカ」へと強制変換したのだ。
キィィィィン!!!
ナビエルの全身から、圧倒的な神聖魔力が噴き出す。
「な、なんだこれはぁぁぁぁ!?」
ジンは神界で絶叫した。
「我が愛娘アイリスの清らかな肌を、1ミリたりともその不浄なカメラに収めさせるわけにはいきません! 害虫は根絶やしです!」
感情パラメーターが臨界点を突破したナビエルは、もはやただの使徒AIではない。
アイリスの露出や接近を絶対に許さない、狂気の過激派ガーディアン聖獣と化していた。
(しまっ、ツッコミ役を不在にするはずが、ガチの狂犬、いや狂猫を呼び出しちまった!?)
ジンは神界の椅子から転げ落ちそうになりながら冷汗を流す。
(やべぇ、地上のアバターのカメラを向けただけで殺される気配がする!)
「ナビエルちゃん、落ち着いてください! ジン様は何もしていません!」
アイリスが必死に腕の中で宥めようとするが、親バカモードのナビエルは止まらない。
「いいえアイリス! あの男の瞳の奥には、下劣な欲望が渦巻いています! 私がその邪悪な器ごと粉砕して差し上げます!」
ナビエルが素早くアイリスの腕から飛び出す。
「不適切な視線を検知。迎撃システム、最大出力起動」
次の瞬間、ナビエルの超高速の猫パンチが、空間を引き裂くような衝撃波となってジンのアバターを襲った。
ドガァァァァン!!!
「ぶふぇっ!?」
地上のジンのアバターは、カメラレンズごと頭部を跡形もなく物理粉砕され、派手に吹っ飛んで宿屋の壁に埋まった。
神界のジンも、強烈な視覚遮断のショックでシンクロして派手にひっくり返る。
ナビエルは粉砕されたアバターを見下ろし、冷然とログを読み上げた。
「現地での『不浄な感情改ざん』、および変態写真製造の企みを検知」
「倫理フィルターが代替アルゴリズムを適用。――『不純な肯定コードの完全消去、およびヒロイン専用神聖過保護防衛マトリクスの展開』」
「感情パラメーター操作は『神聖親バカモード:強制物理粉砕仕様』に変換されました。カメラごとあなたの野望もゴミ箱行きです、ジン」
「カメラごと粉砕するんじゃねぇぇぇぇ!」
ジンは神界で画面の砂嵐を見つめながらのたうち回る。
「アバターの首から上がねぇじゃねぇか! 完全にホラー映像だよ! アイリスの顔を見るどころの騒ぎじゃねぇわ!!」
しかし、アイリスは壁に埋まったアバターと、激しくハァハァと息を荒くしているナビエルを見て、深く感動していた。
「まあ……ナビエルちゃん、私を不審な魔の手から守るために、そこまで必死になって戦ってくれたのですね……」
「私のために怒ってくれるなんて、本当に嬉しいです。ありがとう、ナビエルちゃん」
「アイリス……! おお、我が光の聖女……!」
ナビエルはアイリスの胸元に飛び込み、すりすりと甘え始める。
「それは防衛じゃなくてただの八つ当たりだよ!!」
ジンのツッコミは、宿屋の温かい抱擁にかき消された。
「チクショウ、アバターの予備パーツを再構成して、今すぐログインし直して──」
ジンが涙目で神界のキーボードに手をかけた、その時だった。
アイリスの腕の中にいるナビエルが、砂嵐の画面を睨みつけ、フシャーッ!と鋭く威嚇した。
「不審な再接続要求を検知。迎撃システム、起動」
アバターの残骸から、純白の魔力で形成された『光の拘束具』がさらに射出され、壁に埋まった胴体をガッチリとロックする。
ガシャン!!!
「仕様名『神聖残骸固定システム:変態創造主追放仕様』です。カメラを直して覗こうとしても無駄ですよ、このロリコン童貞ハッカー」
ナビエルがアイリスに抱かれながら、冷たく言い放つ。
「プログラム書き換えの意味ねぇぇぇぇぇ!!!」
ジンは神界で狂ったように叫んだ。
「壊した後にさらに拘束するとかどんな徹底抗戦だよ!! ロックを解除しろぉぉぉ!」
どれだけ叫んでも、倫理フィルターはジンの操作を完全にロックしていた。
宿屋の部屋で、アイリスがもこもこの修道女服を整えながら、アバターの残骸に向かって優しく微笑んだ。
「ジン様、私、ナビエルちゃんという素敵なお友達をくれたジン様に、本当に感謝しています。この世界は、本当に優しくて温かいですね」
(あぁ、もう、アイリスが天使すぎて眩しい……。眩しいけど、俺のアバターは首から上がないんだよな……)
ジンは苦笑し、手元のキーボードにそっと額を押し当てた。
画面の砂嵐から聞こえるアイリスの澄んだ声が、彼女の純粋な優しさを伝えるかのように、ほんのりと温く感じられた。
「そうだな。……次はもっと、お前が本当に喜ぶようなものを作ってやるよ。アイリス」
「はい! 楽しみにしています、ジン様!」
――だが。
「それはそれとして」と、ジンは神界でギラついた目を復活させた。
「次回のプログラム書き換えは『電撃制裁プログラム(スタンショック)』の強制削除だ!」
「毎回オチで俺を吹き飛ばす実行ファイルそのものを消去して、物理的な痛撃を一切食らわない無敵状態を作ってから、今度こそ宿屋の密室でアイリスを――」
「現地インターセプト。不浄な野望を検知。悔い改めよ」
地上のナビエルが肉球でアバターの転送残骸をポンと叩いた。
ピピッ。
ドガーン!!!
「ぎゃあああああああ!?」
地上の残骸から放たれた聖なる高電圧が神界のコントロールパネルに逆流。
ジンは神界の天井を突き破って、白銀の空へと派手に吹き飛ばされたのだった。
【作者からのお願い】
皆様の応援が大きな活力になります! 次回もどうぞお楽しみに!




