第9話:絶望へのカウントダウン
『――締め切りです。成果が認められませんでした。ペナルティを実行します』
無慈悲な宣告と共に、大気が震えた。
ビリビリビリッ! と、逃げ場のない紫電が
佐藤の全身を真っ向から貫く。
「がああああああぁぁぁっ!!」
佐藤はのたうち回った。
数秒前の自分を殴りたい。「静電気程度か」と高を括っていた過去の自分を。
今の衝撃は、間違いなく「命」を削りに来ている。
『――次回締め切りまで、残り3時間です』
アナウンスは淡々と響くが、佐藤には聞く余裕すらなかった。
白目を剥き、地面に這いつくばったまま、
ただただ荒い呼吸を繰り返す。
「い、痛ぇ……痛ぇよ……クソ……っ!」
どれほどの時間が経っただろうか。ようやく指先が動き、なんとか椅子に這い上がる。
打たれた経験などないが、直撃の落雷とはこれほどの苦痛なのだろうか。
しかも、タイムリミットが短くなっている。
前回は6時間あったはずが、今回は半分。
(……これ、クソ仕様すぎるだろ。ペナルティのたびに威力が増して、時間は短くなる。だとしたら、もう『次』はない……)
逃げ場のない死の予感。
だが、その絶望の淵で、佐藤の脳裏に浮かんだのは家族の顔でも、幼馴染の笑顔でもなかった。
(……せっかく、次の夏コミで、壁サークルの人から『合同誌』に誘われてたのに。俺の人生、
こんな森の隅で終わるのか?)
違う。そんな終わり方は認められない。
佐藤は震える手で、スキルが吐き出した
羽根ペンを握りしめた。
「……もし、いつか誰かが俺の死体を見つけたら。
俺がここで生きていた証を、日本に持ち帰ってくれ。……いや、違う!」
佐藤の目に、猛烈な「作家」の光が宿る。
「無事に帰るんだ。帰って、これを夏コミで出してやる。タイトルは……『異世界迷子(仮)』だ! これで絶対、
壁サーになって、天下を獲ってやる……!」
もはや「生存本能」ではなく、「締め切りへの執念」が彼を突き動かしていた。
残り3時間を切ったタイムリミット。
一分一秒が寿命そのもの。
佐藤は、異世界に召喚されてからのすべてを、
魂ごと原稿用紙に叩きつけ始めた。
――壁サークルの一員として、華々しくデビューする。
その歪で強すぎる目標だけ糧にして、
少年は狂ったようにペンを走らせる。
死神の足音が近づく魔の森で、世界で一番熱い「執筆」が始まった




