言えた言葉
夕方。
屋敷の庭は、まるで絵画のように静かで穏やかだった。
西の空に沈みかける太陽は、橙色の光を柔らかく庭に投げかけ、芝生や花々を金色に染め上げている。
そんな光の中、サラは一人で立ち、空を見上げていた。
「……」
口元に小さくため息を漏らす。
肩にかかる風が髪をそっと揺らし、オレンジ色の光が髪の先を金色に輝かせる。
心はざわつき、でもそのざわめきがどこか心地よくもあった。
ふと、足音が近づく。
柔らかく、確かな足取り。
振り向くと、アルフレッドが静かに立っていた。
長身の影が夕日の光に重なり、庭の光景に一層の温かみを加える。
「ここにいたのか」
その声は穏やかで、しかし胸に響く重みがあった。
サラは一瞬体が強張る。
胸がドキリと高鳴るのを感じ、言葉を探す。
「アルフレッド様……」
奴隷を解放して以降、アルフレッドの強い希望でサラとサンには名前で呼ばせている。
ただしかし、その声は、普段よりも小さく震えていた。
アルフレッドは優しい表情を崩さず、静かに語りかける。
「今回の件、お前がいなければ勝てなかった」
その言葉に、サラの胸の奥が熱くなる。
「感謝している」
彼の真剣な瞳と、夕日の光に映る横顔に、サラの心は自然と引き寄せられる。
「そんな……」
口ごもるサラ。
言葉が追いつかない。
アルフレッドは一歩近づき、柔らかい風と共に、さらに心に響く声で続けた。
「これからも、ずっとここにいてほしい」
サラの目が揺れる。
胸の奥で何かが弾ける感覚。
「家族として」
その言葉が、サラの心に深く染み込む。
そして――胸の奥の気持ちが、どうしても抑えきれなくなった。
サラは深呼吸し、心臓の高鳴りを落ち着けようとする。
だが、落ち着けるわけもない。
「アルフレッド様……」
その声は震え、でもしっかりと届くように意識して言葉を紡ぐ。
アルフレッドがじっと見つめる。
夕日の光に照らされ、彼の瞳は優しさと興味で輝いていた。
サラは真っ赤になり、視線を少し逸らす。
手のひらが汗で温かくなるのを感じながら、心の中の気持ちを吐き出す。
「わ、私……」
「あなたが好きです」
沈黙が訪れる。
風が芝生を撫で、花びらが舞う音だけが耳に届く。
サラは目を大きく見開き、アルフレッドの反応を待つ。
彼は少し驚いたように目を見開いたが、すぐに口元に微笑を浮かべる。
「そうか……」
その一言に、サラの心臓は止まりそうになる。
「……嫌ですか?」
恐る恐る問いかける。
声は小さく、でも真剣だった。
アルフレッドは首を振る。
「いや」
「むしろ嬉しい」
その笑顔は、夕日の光よりも温かく、サラの頬はさらに赤く染まる。
遠くから、サンの明るい声が響く。
「姉ちゃん告白してる!」
それを合図に、クリスティーナも声を上げる。
「お父様ずるい!」
庭に笑い声と歓声が広がり、夕方の静けさが一瞬でにぎやかになる。
アルフレッドはその様子を小さく笑って眺めた。
家族の温かさ、仲間の賑やかさ。
すべてがこの瞬間を祝福しているかのようだった。
こうして、ノード伯爵家には、新しい家族が、そして新しい未来が静かに生まれた。
庭の橙色の光は、二人の心の高まりをそっと包み込み、物語は穏やかに、でも確実に続いていく。
これで完結です。
ここまで読んでくださり本当にありがとうございます。
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