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大切なものを失った伯爵が奴隷のダークエルフ少女を買ったら、いつの間にか最強の領地になっていた……  作者: 積と和〝
第2章 王都防衛戦

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人工魔物軍

王都の広場は、昼の賑わいが嘘のように混乱に包まれていた。

石畳に響くのは、商人の呼び声ではなく、悲鳴と足音。

市民たちは我先にと逃げ惑い、倒れた荷車や散らばった果物が踏みつぶされていく。

空気は焦げた匂いと土埃で濁り、息をするだけでも胸が痛む。


地下水路の重い鉄蓋が、内側から弾け飛んだのはほんの数分前のことだった。

ガンッ――という鈍い衝撃音のあと、轟音とともに蓋が宙を舞い、石畳に叩きつけられる。


そこから現れたのは――魔物。


数十体。いや、次々と這い出てくるそれらは、数える意味すらないほどだった。

石と肉が無理やり混ざり合ったような異形。

岩のように硬い外皮の隙間から、脈打つような赤黒い肉が覗いている。

目と呼べるものはなく、ただ不気味な気配だけがそこにあった。


王国騎士団がすでに応戦していた。

鎧がぶつかる音、剣が石質の肉に弾かれる鈍い衝撃音。

必死に隊列を維持しようとするが、魔物の数は圧倒的だった。


「多すぎる!」

若い騎士の叫びが、恐怖に歪む。


その直後、巨腕の一撃。

彼の身体は軽々と宙に舞い、数メートル先へと叩きつけられた。

鎧がひしゃげ、息が漏れる。


仲間の騎士たちの顔にも焦りが広がる。

守るべきは市民。

しかし、その市民を背にしてなお押し込まれている現実が、心を削っていた。


――このままでは、突破される。


誰もがそう思った、その瞬間だった。


空が、裂けた。


ドォン!!


耳をつんざく轟音とともに、炎が一直線に降り注ぐ。

まるで空そのものが燃え落ちてきたかのような熱量。


魔物たちが、一瞬で包まれる。

石の外皮が赤熱し、内部の肉が焼け、黒煙とともに崩れ落ちた。


あまりにも圧倒的な光景に、騎士たちは一斉に振り向く。

誰もが言葉を失っていた。


その視線の先――建物の屋根の上に、一人の少女が立っていた。


サラ。


夜風に揺れる長い髪。戦闘服に身を包み、赤い瞳が静かに戦場を見下ろしている。

その周囲には、彼女の魔力が熱となって揺らめき、空気が歪んで見えた。


(……まだ足りない)


彼女の胸の内には、焦りにも似た思いがあった。

目の前の敵を焼き払うことはできる。

だが、それだけでは守りきれない。

守るべき人々の数に対して、自分の手はあまりにも少ない。


「ここは私がやります」


静かに、しかしはっきりとした声。

その言葉には迷いがなかった。


その隣に、軽やかな気配が降り立つ。


サンだった。


「姉さん一人じゃないよ」


少し笑うように言いながらも、その瞳は真剣そのもの。

次の瞬間、彼の足元から風が巻き起こる。

砂埃が舞い上がり、空気が唸る。


さらに後方から、重みのある足取りが続いた。


アルフレッド。


戦場の状況を一瞥しただけで、すべてを把握したような落ち着いた視線。

彼の存在だけで、場の空気がわずかに引き締まる。


「サン」


短く名を呼ぶ。


「はい!」


即座に応じるその声に、信頼が滲む。


「風で動きを止めろ」


無駄のない指示。

だがそれは、この場を一気に覆す鍵でもあった。


「了解!」


サンの魔力が解放される。

風が渦を巻き、広場全体を包み込む。

見えない刃のような気流が魔物の周囲に絡みつき、その動きを鈍らせていく。


重い足取りがさらに遅くなり、巨体がわずかに揺らぐ。


その瞬間を、サラは見逃さなかった。


胸の奥で、魔力が膨れ上がる。

熱が血管を駆け巡り、視界が赤く染まる。


(――全部、焼き尽くす)


「スパストファイア!」


放たれたのは、先ほどとは比べ物にならない規模の炎。

巨大な火柱が地面から空へと突き抜け、夜空を昼のように照らし出す。


魔物の群れが、逃げる間もなく飲み込まれていく。

石は溶け、肉は灰となり、存在そのものが消えていった。


騎士たちは呆然とその光景を見つめる。


「なんだあの魔法……」

誰かが、かすれた声で呟く。


それは恐怖ではなく、畏怖に近い感情だった。


アルフレッドは、その炎を見つめながら静かに言う。


「世界一の魔力量」


誇張ではない。

ただの事実としての言葉だった。


やがて炎が収まり、静寂が広場に戻る。

焦げた匂いと、まだ残る熱だけが戦いの痕跡を語っていた。


サラはゆっくりと息を整え、振り返る。

肩がわずかに上下し、額には汗が滲んでいた。


「伯爵様」


その声には、わずかな緊張と――褒められたいという、淡い期待が混じっていた。


アルフレッドは短く頷く。


「よくやった」


それだけの言葉。

だがサラにとっては十分だった。


「……はい」


頬が少しだけ赤くなる。

戦いの熱のせいだけではないことを、彼女自身が一番よく分かっていた。


――終わった。




広場の奥。

炎に焼かれ、崩れたはずの瓦礫の向こうで――


影が、動いた。


ゆっくりと。

だが確実に。


それは、先ほどまでの魔物とは明らかに違う存在感を放っていた。

空気が重く沈み、周囲の温度すら下がったように感じる。


――まだ終わっていない。


戦場は、再び牙を剥こうとしていた。

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