そのときは日本だった
あまり釈然としていないので思いついたら改稿すると思います。
彼は走っていた。
荒波にもまれた船から彼は勢いよく飛び降りて、人間に汚い怖いと罵られ悲鳴を上げられてもそのようなことはどうでもいいといわんばかりに一直線に駆け抜けた。
ただその場から離れるために、その一心で走り続けた。
海を渡り、自分の家と呼べる場所から遠く離れたその土地で。
どうしてこんなことになったのだろう。
一直線に森の方へ駆け抜け、一心不乱に森を抜けたその先が崖だった時その彼はへたりと座り、何もできない自分を呪った。
彼は長生きだった。
彼は理解していた。
彼は禁忌を破った。
あれだけ言われていたというのに彼はとある女人にあこがれて、禁忌を使ったのだ。
300年生きた彼はその女に仕え、重宝され、そして化けていたことが明るみになった末に追放され生きる糧を失った。
来世は、来世はきっと。
あこがれのあのひとに。それなのに妖というこの身が空へ逝くことを許してもらえない。
そうして彼はどうにかして死ぬ方法を模索した。
あやかしは死ねない。そう簡単に死ぬことができない。
この身を縛り付けるおもりを解く者を探さねばならないと、そうぼんやりと思い立って身をおこした。
そうして彼が見つけたのは小さな神社だった。
その神社の森には妖がたくさん住み着いていた。
妖たちはきつねにここの管理者は優しいのだと話していた。
彼は神社の戸を開いた。
そこの神主は優しかった。本当に優しかった。妖にも耳を傾けるような神主だった。
彼は言った。
死にたいのだと。
身の上話を静かに聞いていた神主は急に大きい声を出した。
それはいけないと。
この世に未練があるままなのに強制的に切り離すのはとてもつらいことなのだよと。
神主はたくさんの妖を祓ってきた。その時の妖の悲鳴はとてもではないけれど辛そうなのだと。
君は確かに人に化けたが悪いことをしていないじゃないかと。
彼はこころをうたれたような気がした。
こんなにも苦しいのにとも思った。
だが話していくうちに自身以上に心を痛めてくれる神主をみてどうすればいいかわからなくなった。
神主は言った。
私ともう少し生きてみないかと。
この世に未練がなくなるくらい一緒に楽しい思い出を作ってやると言った。
彼は
それで死ねるのならそれもいいのかもしれないと思った。
彼は生きた。
彼のために生きた。
第二の生活を送り、彼が死んできつねも死んだ。
よい一生だったと死ぬときそう思ったのだった。
それなのに彼は目覚めると知らない部屋に佇んでいた。