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オルビア市庁舎

昼休憩を挟み、午後の早い時間にはオルビアに着いた。

ベアちゃんと私はギルド本部へと急いだ。


と言っても、ここで私に出来る仕事は待機くらいだ。


ベアちゃんは、ギルドに着くなり奥の会議室へ人を集めた。

私も同行したけれど、発言する必要も無かった。

私の仕事は、もう少し後。

イブレア村の採集権手続きになるまでは出番がない。


ベアちゃんは優秀な上司だった。


部下に任せられるところはきっちり任せてしまい、その報告時間をきっちり伝える。

部下は決められた時間までにベストを尽くす。


そうやって自分の時間に余裕をつくると、私を連れてオルビア市庁舎へ向かった。


「昨日言ったと思うけど、今から行くのは資源庁だ。サーラは資源庁のことは知ってる?」

私は首を振る。

「だと思った。まあ、冒険者にはあまり関係のないところだよね。資源庁はクルタス王国から輸出する資源全体について管理しているところだよ」

「へえ、そうなんだー」

「サーラ、興味無さそうだな」

「そんなことないよ。イメージが湧かなかっただけ」

「輸出入の税金関連が主な仕事なんだけど、知っての通りクルタスは魔石の輸出量が桁外れに大きいからね。加えて海外の企業に魔石採集権を与えているところでもあるんだ。冒険者ギルドは、そういった場合に採集権を奪われる立場になることが多いんだ」

「冒険者ギルド管理の土地が減っているってこと?」

「一応そうなる。一般の冒険者は、何処で魔物を倒そうが関係ないって思っているだろうけど、本当は冒険者ギルド管理地での討伐のみ許可されている、というのが正しいんだ。ただ、その範囲がかなり広いという事実と、冒険者ギルドで依頼を出しているものは、当然ギルド管理地での討伐依頼か、正式に私有管理地から依頼のあったドラゴン討伐だけだから、問題にならないわけだよ」

たしかに。


冒険者は基本的に魔物討伐依頼を受けて魔物を倒しに行くわけだし。その際にはフィールドが指定されている。

そこで得た魔石は自由に売却できるけれど、そもそも依頼を受けずに魔石を売却することは正式には出来ないことになっていた。

なるほどねー、冒険者が知らないだけで、ちゃんとルールが成り立っていたんだねー。

「で、ここからが本題だけど、イブレア村周辺は、元々はコラード・ディ。オルビア卿の私有魔石採集地だったんだけど、半年前の事件後に冒険者ギルドに採集権が移管されたんだ。その際にギルドは現地調査を行い、管理計画を資源庁に提出したんだよ」

「えっと、それはベアちゃんが?」

「そう。もちろん中身を書いたのは私一人ってわけじゃないよ?ギルド長の役割は意見のとりまとめとかだから。ともかく、正式に採集権はギルドにある。変更されているならギルドに資源庁から通達が来ているはずなんだよ。けど、今の今まで誰も聞いてない」

「つまり?」

「採集権は未だギルドにあるってことだよ」

「でもイブレア村の奥の森には泥ゾンビ発生装置が置かれていた、それって採集権なしで出来ること?」

「常識的に言ったら、駄目だと思うよ。知らずに踏み込んだ冒険者に犠牲者が出かねないからね」

「じゃあ無許可でやったってことになるのかな?」

「まあ、それを調べに来たってわけだよ」


資源庁はオルビア市庁舎の中にあった。

オルビア市庁舎は白い壁の3階建ての建物だった。

ロマネスク風のデザインだけれど、適度に窓が大きく建物の中に日が届く。比較的シンプルなデザインで装飾は少なかった。

その1階の一角に資源庁があった。


ベアちゃんが近づいていくと、カウンターの向こうにいた一人が気付いて挨拶をしてきた。

「いつもお疲れ様です、ベアトリーチェ様」

「お疲れ様です、ダンテさん」

ダンテと呼ばれた男は中年の事務員だった。

忙しそうに書類をかき混ぜながら、必要な用紙を探し当てた。

「イブレア村の件でしたよね?ギルドからの連絡は貰っています。採集権の確認でしたね」

そう言いながらダンテさんは、書類を手渡してくれた。

「なるほど。土地所有権はコラード・ディ・オルビアのままか。採集権は所有権移転まで冒険者ギルドに移管、となっている。ダンテさんも間違いないな?」

「ええ。間違いございませんよ」

ベアちゃんは芝居がかったように首を振った。

「だが、実は本日イブレア村から帰還したのだが、何者かがイブレア村周辺で採集活動、もしくは調査活動を行っていた形跡がある。それについて何か聞いてないか?」

ダンテさんは腕を組み、ひとしきり考えるような仕草をした。

「ふーむ、記憶にはありませんが・・・」

「そうか。では、別の質問をいいかな?おそらくは外国籍、ラインラント共和国あたりの開発調査について最近何か変わったことなんかはないか?」

「イブレア村でですか?」

「いやクルタス王国全域で、かな」

「そうですね・・・」

ダンテさんは一層考えるような仕草をした。

ベアちゃんを上から下までじっくりと観察しているようにも見える。それから私の方を見ると、少し目を細めた。

「そちらの連れの方は助手か何かで?」

「ん?ああ、後ほど要件があるんだ。いわば証人、だな」

「まあ、いいでしょう。これはあんまり言い回らないでもらいたいんですが、ベアトリーチェ様は冒険者ギルド長である上に、オルビア家のご出身。そのうえ騎士団経験者ですからね。そして、なによりも美人でいらっしゃる。あなただから話すんですからね」

「・・・ああ」

ベアちゃんの目がわずかに嫌そうに歪んだのを私は見逃さなかった。

「ラインラントの企業連合がクルタス王国での採集権拡大の要求をしてきています。王国政府は見返りについて検討中ですが、おそらく近いうちに大がかりな国家間契約が成立するようです」

そう言うと、ダンテさんは周囲を見渡した。

「下手を打てば、俺の首だって飛びかねない話だ。今夜、何処かで話したい。場所は後で連絡をする。帰りに寄ってくれ」

ベアちゃんの口元がほんの少し引き攣ったのを私は見逃さなかったよ。


資源庁を後にすると、国税庁に向かう。

国税庁は王都にあるが、オルビアにも出張所がある。

ここでは各種手続きが出来るようになっているんだそうだ。


「ギルド長、ベアトリーチェ・オルビア様。お待ちしておりました。オットリーノと申します」

さっきから苗字じゃなくて名前でばかり紹介されるけど、クルタス王国では普通だよ。

貴族を除いて、一般庶民は苗字を持たないんだ。せいぜい、何々村の誰、とかって感じ。オルビア出身の平民にとって、名前というのは個人識別が出来ればいいくらいのもので、あえて言えば「国税庁窓口のオットリーノ」というのがフルネームかもしんない。

「さっそくだが、イブレア村の相続権について確認したい」

「はい、連絡をいただいて書類を用意しております。故コラード・ディ・オルビア公から養女であるサーラ様へ所有権移転をするように王国政府から直々に通達が来ておりましたが、サーラ様はイブレア村壊滅事件以来の行方不明でありまして、所有権移転が保留になっております」

「なるほど。では、その手続きは速やかに行ってもらいたい。ここにいるのがサーラだ」

そう言うと、ベアちゃんが私の背中をドン、と押した。

「は?その・・・お子様が?」

「お子様じゃないよ、私は14歳、れっきとした冒険者だよ」

「ああ、そうだ。サーラはAランク冒険者だ。身元についても私が保証しよう」

Aランク?いや、私Cランクだったような・・・

ベアちゃんが片目をつむる。

あれ?今、昇格した?

「これは失礼いたしました。なるほど行方不明だった方が現れたわけですから、手続きが続行されます・・・あ、追加の指示がありますね、ちょっとお待ちください」

そう言うと、オットリーノさんは席を立ち、奥の席に座る人の方へ行ってしまった。

奥の席の人は少し年齢が高そう。

オットリーノさんの話を聞くと、こちらを眺め、すぐに立ち上がった。

「お話はお伺いしました。お時間よろしければ会議室までいらしていただけますか?ギルド長」


会議室は机1つと椅子4脚だけの殺風景な部屋だった。

「あらためまして、私、国税庁オルビア出張所長のパオロ・マコメルです」

「これはご丁寧にありがとうございます。ベアトリーチェ・オルビアです。冒険者ギルド長を拝命しております。よろしければベア、とお呼びください」

「ありがとうございます。それではベア様、さっそく要件につきましてお伺いいたしますが、そちらのお連れの方がサーラ様ということでお間違いないでしょうか?」

「ええ、その通りです。身元については私の方で確認済です。今朝までイブレア村にて確認調査を行い、本人である確証を持っております」

「かしこまりました。それではお手続きを・・・と申し上げたいのですが、この件につきましては王国政府より追記事項がございます。諸手続きを行う前に、王国政府からの確認が必要になります。書類などにつきましては私が責任をもって行います故、今しばらくお時間をいただきたく存じます」

ベアちゃんがにっこりと微笑んだ。

「差し支えなければ、確認事項についてご教授願えませんか?」

パオロさんが書類を差し出した。

「ベア様であればお見せしても差し支えないでしょう。そちらに記載のある通り、サーラ様の安否につきまして王国政府から特別に報告するように通達があります。ご本人と思しき方がいらっしゃった場合は、必ず報告と王国政府の使者による確認手続きが必要とされます」

ベアちゃんが私の方を見て苦笑した。

「なるほどな。サーラ、王国の誰かが心配してくれているみたいだぞ?」




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