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魔石はエネルギー資源、冒険者は第一次産業なのです

返却かあ・・・うん、返却しよう。なんかそれがいい気がしてきた。

「ギルド長、提案があります」

ジャンニさんが手を挙げた。

「なんだ?例の大型魔導具はそう言う事情だからいったん保留だぞ?」

「ええ、それはそうだと思っておりました。それではなくて、明日の予定なのですが、ギルド長はサーラ様とともに一度オルビアにお戻りいただいた方がよろしいかと。この件、冒険者ギルドよりも上層で何かが起きていると考えます」

「確かに、そうだな。ラインラントの企業が無許可でイブレア村に大型魔導具を設置したとも思えないし、何をやっているにせよなにか大きなプロジェクトが進行しているようにも思えるな。魔石関係で許認可をやっている部署といえば、クルタス王国資源庁か」

私は聞きなれない言葉に問い返した。

「資源庁?魔石関係?」

「ああ。クルタスの魔石取引を管理している役所が王国資源庁だ。それからラインラント共和国と言えば、魔道具開発、魔石利用ビジネスの先進国だ。深刻化しているのが魔石不足による生産制限とコストアップだろうな。なので、今回の一連の事件は魔石絡みで起きたこと、と推測する」

そこでようやくベルナルドさんが手を挙げた。

「あの、よろしいでしょうか?」

「うむ、許可するよ」

「魔石関係で、ラインラントの企業ということでしたから、おそらくはヘルダーリン物産あたりではないかと推察いたします」

「ヘルダーリン物産?」

そう言ったのはベアちゃんだったが、全員が同じことを思っていた。聞いたことがない会社だ。

「わが祖国ラインラントではそれなりに名の通った大企業です。しかしながら資源開発や商社同士の大規模取引などをする会社なので聞き覚えのない会社かもしれませんね。しかし古い会社で莫大な資産を背景に輸送船を何百と持っています」

ベアちゃんが頷くと私を見た。

「総合商社ってわけだな。ベルナルドは冒険者ギルドに雇われる以前は、商人として貿易をしていたんだ。魔石を輸出する仕事だ。魔石の研究ばかりしていて事業が行き詰ったんだったな」


ベルナルドさんが苦笑しながら簡単に説明をしてくれたところによると、

クルタス王国は、もともと魔素濃度が諸外国に比べ高かったそうだ。それが近年は異常に魔素濃度があがり、魔物から採れる魔石が増大、つまり魔物が大量発生しているそうだ。

そして極めつけが「ドラゴン」の発生で、貴重な色付き魔石が馬鹿みたいに流通しており、バブル景気と言っていい状態になっているんだそうだ。

とはいえ、クルタス王国は後進国。

自前で魔石を活用して魔導具を作ることには限界がある。

というか、そもそも資源に頼りすぎているところがあって、新規魔道具開発に国家予算が振り分けられていなかったんだそうだ。

それゆえに、魔石輸出は大企業から個人レベルまで多くの会社や個人が関わっている一大ビジネスなんだそうだ。輸出側はクルタス王国人だけではなく、外国から来た人がクルタス王国内で許可を得て輸出業をしていることも多々あるし、そういう人の中にはレアな魔石ばかりを取り扱っている変わり者もいるとのこと。

ヘルダーリン物産は、潤沢な資産を背景にクルタス王国で魔石採集を大規模に行っているということだ。

ふと疑問になって私はベルナルドさんに質問した。

「魔石採集は冒険者の仕事ですよね?」

「そうとも限らないんだ。クルタス王国内の魔物発生地はとてもたくさんある。その土地の採集権を誰が持っているか、という話だよ」

「採集権?」

「そうだ。個人所有や会社所有の土地というのもあるからね。これまでクルタス王国では、個人所有の山なんかで魔素濃度があがり、魔物やドラゴンが頻繁に発生するようになると、冒険者ギルドに管理を一任してしまうケースが多かったし、そもそも国有の山や森が多いから、冒険者が魔石を採集するというのが常識みたいになっているけどね」

ベアちゃんも頷く。

「イブレア村も半年前まではギルド管理では無く、イブレア村管理地だったよ。村周辺の所有者はコラード・ディ・オルビア公、採集権もオルビア公名義になっていた。所有者死亡で管理については冒険差ギルドに仮移管されていたはずなんだけど。ベルナルド、何か情報はある?」

「いえ、私も同じ認識でした。しかしコラード・ディ・オルビア公には王都やオルビア都市に成人したご子息がおられますし、そちらで権利の移譲が行われた可能性はありますね」

「うむ。クルタス王国の慣例では、権利者死亡の場合、同居の家族が最優先相続権を持っている。次に採集権管理者があらかじめ指定した地域の人物が次の相続権を持つ。だが、今回サーラが現れるまでは、同居の家族は死亡または行方不明となっていたし、指名されていたイブレア村の人物も死亡していたからな」

「血縁関係よりも同居の家族の方に優先権があるの?私、たぶんお父さんと血が繋がってないんだけど」

「ああ、法的にはサーラに採集権があるはずだな」

ベアちゃんが説明してくれたところによれば、財産なんかの相続と違い、魔石採集権というのは、その土地の魔物討伐とも密接に関係しているので、遠隔地の親戚なんかに採集権が移管されたりすると、その手続きの間に魔物の退治が出来なくなったりして大変都合が悪いことになるからだそうだ。

つまり、相続問題で揉めたりしたら、その間に魔物が増えて村が襲われたりするってことだ。

「イブレア村周辺の土地の所有権については、コラード様のご子息に相続優先権がある可能性がありますね。サーラ様は血縁関係がないとはいえ、戸籍上はコラード様のご息女となっていたはずですが、こういう状況下での行方不明ですから実際にどうなっているかをきちんと確認した方が良いかもしれません」

「そうだな。しかし仮に土地の所有権があったとしても採集権は地元が優先される。今回は冒険者ギルド管理になっているはずだが・・・この地区の管理は・・・アルダラ支部か。人口密度の低い地域を広く管轄している支部だからな。幸か不幸か周辺に人の住む村が無いわけだし。実際は放置状態という可能性もある。とすると、土地所有者側で管理計画なんかが出たりすると採集権も移管する可能性があるな」

ベアちゃんはジャンニさんに向き直った。

「ジャンニの言う通り、オルビアに戻ることにしよう。本来ならば実質2日間の調査の予定だったし、全員で帰還したいところだが、例の大型魔導具の件がある。ここはサーラと二人、最低限の装備で途中の村まで移動、そこで駅馬車を使って最短でオルビア冒険者ギルドに戻り、こちらへの応援を出す。大型魔導具の移送についても手配する。ベルナルドはその移送便で戻ってくれ。一刻も早くあの魔導具が泥ゾンビを操っていたことを証明したい。ジャンニにはイブレア村に冒険者ギルドの仮拠点を作ってほしい。必要な物資と人員は手配する。何が起きているかはっきりするまではイブレア村を明け渡してはならない」


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