思い出したくない記憶
少しの間、言っている意味が分からなかった。
「え?ど、どういうこと?人間もドラゴンになるっていうの?」
その夜、私は夢を見た。
数か月前の出来事だ。
私は家にいた。私が物心つく頃から暮らしてきた思い出の家だ。
その家は、もう、ない。
私は夢の中で震えていた。
お父さんが血を流して床に倒れていた。お母さんもすぐそばで倒れていた。
二人とも死んでいた。
血まみれで、腕や足がおかしな方向に曲がっていた。
テーブルが倒れ、椅子が壊れ、食器が散らばっていた。
家の中は飛び散った血でいっぱいだった。
私は恐怖と悲しみと怒りとがぐちゃぐちゃになって震えていた。そのぐちゃぐちゃの感情が、いつしか絶望に変わるまで、ずっと私は立ち尽くしていた。
そういう夢だった。
その景色は、私が努めて思い出さないようにしている場面だ。
平和で幸せな日々が唐突に終わった時のことだ。あの日、村は壊滅的な殺戮と破壊に遭い、私は村を出た。
起き上がると、まだテントの中は暗かった。
ふうっとため息をつく。わざとらしく首を振ってみる。忘れようとしても忘れられないけれど、記憶の彼方へ押し込めることは出来る。
「サーラちゃん?どうしたの?眠れない?」
暗闇の中、ロレーナの声がした。
「ううん、ごめんなさい。起こしちゃった?」
「いいよ。オルランドの話がショックだったのよね?仕方ないわ。おいで、一緒に寝てあげる」
「え、大丈夫です。一人で寝れますから・・・」
ロレーナも起き上がる気配がした。
「いいのよ。こういう時は身を寄せ合うものよ」
ロレーナが私のそばへ寄り、肩を抱いた。
ふわっと何かの花の香りがした。懐かしいような花の香り。
背中を撫でる手に、最初は緊張したけれど、すぐに私はロレーナに寄り掛かった。
「今はゆっくりおやすみなさい。考えるのは明日でいい。サーラちゃんには荷が重すぎるわ」
私は首を振る。
ロレーナに寄り掛かっているせいで、ロレーナの肩にいやいやしているみたいになってしまう。
「大丈夫よ、サーラ」
私の頭を撫でてくれるロレーナ。耳のすぐ後ろのあたりを、そっと。
私は、目を閉じた。
ロレーナが私を寝かし、添い寝するように自分も寝ころんだ。
「おやすみ、サーラ」
「おやすみなさい、ロレーナ」
何かが解決したわけではない。
けれど、私は目を閉じ、そしていつの間にか眠っていた。
久しぶりに、何故か安心した気持ちで・・・。




