悪役令嬢はヒロインを探す
ミーガンは、私が自身の攻略対象だった男子と飲んでいることが、許せなかったのだろうか。本来のゲームのシナリオでは、カーチスの二十歳の誕生日を祝い、そこで初めてヒロインは、彼と乾杯してワインを口にするのだ。既に二十歳になっていたヒロインであるが、お酒解禁の操を、カーチスに捧げた――これが正しいゲームの流れ。ところが。
飲んじゃっていた。
しかもいきなり初めて飲むお酒なのに、アルコール度数は40もあるオレンジ・キュラソーのカクテルを、ヒロインは一気に飲み干したのだ。それを飲んだ後、「ふんっ」という顔付きで私を見た。
明らかに私への敵対行動のようだ。
今さらだけど、もう断罪確定なのよね、私。だからそんな挑発行動には乗らないことにしたけれど……。そういえば、ヒロインいじめを悪役令嬢であるレイジーはしていたけれど、それって全部、あっちが仕掛けてきたのよね。今みたいに。レイジーはプライドが高いから、そんなことされるとカチンときて、やり返すから……。
ああ、前世記憶を取り戻すのがもう少し早かったら。そんな子供だましの挑発に乗らず、やり過ごしていたのになぁ。でもカーチスルートの断罪はまだ優しいから。大勢の前で恥をさらすのに耐えれば、なんとかなるから、頑張れ、自分!
そんなことを思いながら、私はワインをちびちび飲んでいる。もはや昭和のおでん屋台で、大根をつまみに、日本酒をちびちびするおやっさんみたいな状態。
一方のヒロインであるミーガンは、ぐびぐび二杯目のカクテルも飲んでいる。リキュールを使ったお酒は甘い。それはジュースみたいでもある。つまりお酒に慣れていない者は、甘いカクテルをジュースのごとき勢いで、飲み干してしまうのだ。
その結果は……。
はい。きもちわるーい!
「 ッ」となるのですね。
これからカーチスの誕生日パーティーなのに。しかも私の断罪の場でもあるのに。
ヒロインは何だかとんでもなく、グロッキーに出来上がってきている。
大丈夫なのかしら?
あれでちゃんと断罪できるのかな?
そう思っていると、ヒロインはラウンジを出て、なぜか庭園の方へ向かっている。庭園と言ってもここは断崖絶壁の高台に建てられた別荘で、庭はそこまで広くない。すぐに雑木林があり、その先は多分、断崖絶壁の行き止まり。
酔っ払いがふらふらと出て行き、断崖絶壁まで行っては、危険だろう。
私はそこで騎士団の団長の息子、宮廷画家の息子に、ミーガンを止めるよう、頼もうとした。ところが! 団長の息子は、令嬢グループに声をかけられ、奥のソファ席へ移動してしまった。宮廷画家の息子は、トイレにでも行ってしまったようだ。
カーチスはどこへ行ったと思うが、見当たらない。まだ誕生日パーティーは、始まっていなかった。それに本日の主役なのだ。登場は満を持してからということか。
こうしている間にも、ミーガンはふらふらと庭園を歩いている。
もしかしてこのまま無視したら、断罪イベントも起きないのでは!?
そんな気持ちになったのは事実。
でも、私は根っからの悪人というわけではない。
放っておけなかった。
結局私が、ミーガンを追いかけることになる。
なんでこれから私を断罪する相手を、助けに行かなきゃならないの?
なんだろうなー。前世でも私、こんな感じだった。
いつも損な役回り。
でもさ、そんな私を陰ながら見守り「よく頑張ったね」と一声かけてくれる人がいたのなら。損な役回りでも報われるというもの。でもそんな神みたいな人間、実際いないから!
!
まだ日没前で、いい雰囲気の庭園には、結構人がいたのよね。
そこにはなぜか私の、つまりはレイジーの両親もいて、手をつないで散歩をしていたの!
両親のこういう姿を見るって、複雑よね。でもこの二人の間から自分は生まれたわけなので、ここは温かく見守るべきなのだろう……。
それよりもミーガン! どこへ行ったのよ、ミーガンは~~~!