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闇金融で極悪無双

性悪男とポンコツ悪魔の第三話です。

今度の相手は闇金融! どんな無双を繰り広げるのか! 想像を裏切る展開が貴方を待っている!

主人公の無慈悲さをたっぷりお楽しみください!

 朝食を済ませ、着替える跋人はつひとに、リリルは待ちきれないと言った様子で絡む。


「ねーねー、今日はどんな悪事をやるのー?」

「強盗だ」

「やったー! やっと悪事らしい悪事だー!」

「はしゃぐなポンコツ。とっとと行くぞ」

「うー、ベンジョコウロギじゃなくなったけど、リリルって呼んでよー」


 リリルの抗議を無視して、跋人は自宅を出た。




「どこをおそうのー? 銀行ー? お金持ちー?」

「街中で物騒な事を言うな。もうすぐだ」


 しばらく進んだ跋人は、ぴたりと足を止めた。


「ここだ」

「えっ……」


 それは街中の雑居ビル。跋人が指差した看板には、『安心安全! あなたを助けるまっさらローン』の文字。


「えっとー、あのー、ここはー……」

「闇金融業者だ。ここは暴力団とも繋がりが深く、警察も手が出せないでいる。その為金を相当に溜め込んでいるそうだ。恰好の獲物だろう」


 酷薄な笑みを浮かべる跋人と対照的に、リリルのテンションが著しく下がる。


「あのー、やる気になってるとこ悪いんだけどー、こう言うとこって悪と不幸の元みたいなとこあるからー、悪魔的には手を出したくないなー、なーんて……」

「悪魔と言うのは存外怠惰なのだな」


 跋人は、夏休みの宿題を「やってません! 休みですから!」と胸を張る生徒に向ける教師の目でリリルを見る。


「人間が勝手に生み出す悪や不幸で満足するのか? 自ら手を加えて新たな悪を生み出そうとはしないのか? それが悪魔の生き方なのか?」

「ご、ごめんなさーい! あたしが間違ってましたー!」

「時間が惜しい。さっさと行くぞ」

「う、うん。分かった」


 跋人は階段を上り、闇金融業者のドアの前に立った。リリルも慌てて追いつく。


「ここだねー。で、どうするの? やるなら派手なのが良いよねー。身体を強くして無双する? それとも電撃を飛ばす力で人間スタンガン? 重力操作ではいつくばらせるのも良いよねー」


 目を輝かせるリリルは、次の瞬間跋人の無慈悲さに戦慄した。


「部屋の中にいる全員の、呼吸器関連以外の随意筋肉を硬直させろ」

「た、戦わないのー!? チート能力でスカッとぶっ飛ばさないのー!?」

「制圧が簡単に出来るのに、わざわざ非効率的な戦闘をする必要はあるまい」

「で、でもでもー、やられ役の見せ場っていうのもー……」

「人間に気遣いとはお優しい事だな」

「そ、そういうつもりじゃー……」

「いいからさっさとやれ」

「……はーい」


 不満たらたらでリリルは力を行使する。


「ぐっ!? なんじゃこりゃあああぁぁぁ!」

「身体動かれへんやんけワレェ!」

「どないなっとんねんコラァ!」

「おっけー。全員動けなくしたよー」

「入るぞ」


 二人はドアを開けて事務所の中に遠慮なく入る。


「い、いらっしゃいませぇ! 借入のご相談ですか!?」

「い、今少々立て込んでおりまして、また後日改めてお越し頂けると有り難いのですが!」

「ぷっ!」


 営業スマイルを浮かべる厳ついおじさん達に、リリルはつい吹き出しそうになる。


「金縛りにあっていながら気丈な対応、大したものだな」

「なっ……、何でそれを……!?」

「まさかオドレの仕業かゴラァ!」

「そうだ」

「オドレ何しくさったんじゃコラァ!」

「とっとと元に戻さんかいワレェ!」

「馬鹿な連中だ。身体の自由を奪った奴が目の前にいるのだぞ。……命乞いが先だろう?」


 跋人の圧力に、歴戦の男達も思わず口をつぐむ。


「……何が、目的や……」

「金。おいポンコツ。金庫を開けろ」

「だからあたしはー!」

「強盗してるのに名乗るな」

「あー、そうだねー」


 リリルが金庫に手をかざすと、頑強な扉があっさり開く。


「うお! 何したんやワレェ!」

「て、手品か……!」

「わー、お金がいっぱーい。それと借用書? それもいっぱーい」

「全部持って行け。力を使えば簡単だろう」

「えっ? 全部?」

「全部だ」

「お金だけじゃないのー? それともはつ」

「名前を呼ぶな」

「あわわ……。えーっとご主人様が取り立てするのー?」

「そんな面倒はしない」

「えー!? 借金をチャラにしてあげるってことー!? ダメダメそれは良いこと……」

「本当にポンコツだなお前」


 跋人は「1+1=たんぼのた」をテストに書いた子を見る親の様な目をリリルに向ける。


「金と借用書を奪い、電子データも全て消せば、この闇金はお終いだ。そうなると借金をしている連中はどうなる?」

「えっとー、借金なくなってー、ばんざーいってなるんじゃないー?」

「ならない」

「何でー!?」

「金利は不当とは言え、借金は事実だ。それが突然取り立てが無くなり、返済先も無くなる。返して終わりだと思った恐怖から、終わらせる手段を奪うのだ。得体の知れない恐怖が、今度は一生刻みつけられるのだ」


 跋人の言葉に、リリルは尊敬の眼差しを向ける。


「す、すごーい! 天才ー! 悪魔ー! 悪魔より悪魔ー!」

「分かったらさっさとやれポンコツ中のポンコツが」

「うぅー、ポンコツのランクが上がっていくー……」


 リリルは力を使って謎の空間を開き、現金と書類を放り込んでいく。


「次に電子データを全てそこにあるハードディスクにまとめて、その後消去しろ」

「あいあいさー!」


 跋人はデータの入ったハードディスクを取り外し、手に持った。


「それどうするのー?」

「中身次第だが、大物の情報があれば脅迫に使える」

「すごーい! さっすがはつひ」

「黙れポンコツ」

「ごめんなさーい」

「待てやオドレら……」


 一番奥の先に座っている男が、ドスの効いた声を上げる。この闇金のトップだろう。


「この『まっさらローン』が火獣組かじゅうぐみのシマだと知ってのカチコミかゴルァ……」

「そうだ」

「どこの組のもんじゃ。名前聞いといたるわ……」

「組と名の付くものに所属したのは、高校の3年A組が最後かな」

「ふざけとんのかゴルァ!」

「当然だ」


 跋人は身動きが取れない男の正面から見下ろす。


「たった二人に抵抗もできず金も借用書もデータも取られ、今お前が火獣組から何かの支援を得られると、本気で思っているのか?」

「ぐっ……」

「むしろ急いで次の就職先を探した方が賢明だろう。ここまでの無様な失態を晒した連中が、裏の世界で生きていけるとはとても思えない」

「うぅ……」

「お前みたいな能無しに付いて来た子分も哀れだなぁ」


 嬲る言葉に、動かないながら男達が声を上げる。


「何やとコラァ!」

「叔父貴に何抜かしとるんじゃボケェ!」

「叔父貴は俺達みたいなクズにも生き様を教えてくれたんじゃダボがぁ!」

「何も知らんと勝手な事抜かすなやアホンダラァ!」


 熱に包まれる空気を跋人は、


「道に迷った哀れな奴を、ヤクザな道に引き込んだ時点で、コイツは下衆な詐欺師だ」


 あっという間に凍らせた。


「生き様と聞こえの良い事を言いながら、やらせているのは犯罪の片棒担ぎ。しかも暴力や高圧で、弱い奴から搾り取るだけの簡単なお仕事。更には警察の手が入れば、便利なトカゲの尻尾に早変わりだ」


 誰も反論できない跋人の独壇場。


「真剣に将来を考えるのなら、堅気にしてやれば良かった。それでも道に迷うなら、自分も堅気になって一緒に導いてやる事だって出来た。それをしなかった時点で、こいつにとってお前らは駒に過ぎない。それでもまだこいつを慕うのか? 慕えるのか?」


 重い沈黙。


「そ、それでも、俺は、叔父貴に付いて行きたい……!」


 一人の若い衆の言葉に再び空気が熱を帯びる。


「せや! ワシらは叔父貴への恩がある!」

「火獣組から切られたって、叔父貴と一緒ならどこでも平気や!」

「叔父貴! 何でも言うてくれ! ワシらたこ焼き屋台やろうがリンゴ飴屋台やろうが何でもしますぜ!」

「お、お前ら……」


 跋人はその熱気を嫌う様に、はたはたと手を振った。


「今ならこいつに全部なすりつけて逃げられるって言うのに、馬耳東風、馬鹿に付ける薬はない、か。行くぞポンコツ」

「うぇ!? あ、は、はい」


 出口に向かいながら、付いてくるリリルに指示を出す跋人。


「あぁ、こいつらの硬直、三時間後に解いてやれ」

『えぇー!?』

「……おしっことか、大丈夫、かなー?」




「何か感動の最終回みたいになってたけど、これ大丈夫ー?」

「ドラマならこれでめでたしだ。だが現実は違う」


 跋人の目が遠くを見つめる。


「あいつらはこれから先も人生は続く。火獣組へ戻るならけじめをどう付けるか、堅気になるなら激減する収入でどう生きていくのか、どちらを選んでも楽な人生は有り得ない」

「わー……。思ってた以上にヘビー……」

「私の知り合いがあそこで人生を狂わされたからな。まだやり足りないところだ」

「こ、これも仕返しー!? そういうの早く言ってよー!」

「……何ならあの叔父貴とやらが、火獣組に頼りに行く前に組ごと潰すのも悪くない」

「そ、それも悪いことー?」

「分かって来たじゃないか」


 わくわくするリリルに極悪な笑みを浮かべる跋人。


「火獣組ははみ出し者の掃き溜めでもあった。そこが潰れれば、ヤクザな仕事しか知らない連中を社会に解き放つ事になる。治安は悪化し、街は混乱。警察とハローワークの職員が過労で倒れるかもな」

「すごーい! やろー! すぐやろー!」

「いいだろう」


 跋人は火獣組の本家に足を向ける。踊る様に歩くリリルがそれに続いた。




 翌日。

 指定暴力団『火獣組』は、公式に解散を宣言した。

読了ありがとうございました。

無双:世の中に肩を並べるものがないほど優れている人物、物事などのこと。

つまり金縛りで誰も抵抗できなければ無双です。私は何も間違っていない。でもごめんなさい。

ここで手に入れたお金や書類が今後新たな悪事に役立ちます。拡大再生産とか戦利品が次のキーアイテムとかわらしべ長者とか良いですよね。

次は公的機関に乗り込んで無双します! お楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ところどころに入る親目線。 リリルがぽんこつだから仕方ないですね。 うっかり名前を二回も言いかけるし。 動けないのに営業スマイルを浮かべるところにプロ根性を感じました。 まぁ、尊敬できる…
[一言]  拝読しました。  いいですね。  進撃感(ナウでヤングな方たちなら無双感と称するんでしょうか?)が出てきました。  戦場に立つターミネーターみたいです。  善と悪の捉え方の、興味深い…
[良い点] やった!! ついにやったぞ!! ヤツの弱点(誤字)を見付けた!! [一言] わ〜〜っはっはっはっは! これでヤツの、なっなんだお前たち! なっなにを! あっやっやめ!あっあっあ〜…
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