性悪男の悪魔召喚
日々拙作がお世話になっております。
正月休みに書いていた短編が完結に至りましたので、投稿させて頂きます。
前作は『千文字縛り』『全八話』と言うお手軽サイズでしたが、今作は『一話字数約3000前後』『全十話』となかなかな感じとなっております。
一気に最後まで投稿しますので、続きが気になって夜しか眠れない、なんて事はありません。どうぞのんびりとお楽しみください。
最近知ったのですが、ブックマークというのをすると、話の途中でしおりを挟めるそうですよ! 便利ですね!
一気読み出来る方はそのまま、難しい方はのんびりとお楽しみください。
光り輝く魔法陣。その真ん中に浮かぶ人影。見た目は少女だが、その背に生える蝙蝠の様な羽根と、笑みから覗く鋭い牙が、彼女が人でない事を物語っていた。
「……あんたがあたしを喚び出したのー?」
「そうだ」
「こんな時代に悪魔召喚だなんて物好きねー。ま、来たからには契約するけどさー。望みはなーに?」
「悪魔の力を全て寄越せ」
「は?」
目を丸くした悪魔は、けたたましく笑い出す。
「アッハハハハハハ! バカじゃないのバッカじゃないのー!? そんなのできるわけないじゃなーい!」
「落胆した。悪魔とはその程度のものなのだな」
「……は?」
笑いが止み、殺気が満ちる。だが男はその整った眉一つ動かさない。
「悪かったな。力の無い者に頼む事では無かった。帰って良いぞ」
「ちょっと待って」
悪魔はふわりと男の前に降り立つ。
「悪魔の力に出来ない事は無いの。でもね、悪魔の掟で人には力を渡さない事になってるのよ……!」
「分かった分かった。そう言う事にしておいてやる。他にも言いふらしたりしない。だからさっさと帰れ」
「ふざけるな!」
悪魔の怒声で部屋のガラスが砕け散る。だが男は涼しい顔を崩さない。
「そう言いたいのはこちらの方だ。高位の悪魔を喚んだつもりが、掟にも逆らえない低級だったんだからな」
「あたしが、低級……!?」
男の言葉に拳を握り、怒りに震わせる悪魔。
「悪魔とは神の秩序に逆らい、自由を求め神の元を離れたと聞く。だが自由を求めた先でも掟と言う秩序に縛られているなら、神の元を追い出されただけの雑魚だ。違うか?」
「違う……、違う!」
悪魔は目を見開き、全身から雷を走らせる。部屋の至る所が爆発し、炎が上がる。
「違うと言うのなら証明して見せろ。それとも惰弱な人間に言い負かされて、尻尾を巻いて帰るか?」
「分かった……! あんたの言葉に乗ってやる……! その代わりあんたが死んだらその魂をずっと、ずーっと苦しめてやる……!」
「では契約成立だな。俺が望む時に望むまま、お前の力を使わせて貰うぞ」
「えっ」
スプリンクラーが作動し、部屋に水が降り注ぐ。炎が消えると共に悪魔の頭も冷えていく。
「えー、あのー、ちょっとー、話がおかしくないー?」
「何がだ。私は悪魔の力を寄越せと言い、お前は悪魔に出来ない事は無いが、掟で人間には力を渡さないと言った」
「う、うん」
「だからお前が私の側に居て、願いを叶え続ければ、どちらの条件も満たせる」
「えっ!? そう言う話だった今!? ホントにー!?」
悪魔は会話を思い返すが、そうだった様な、そうで無い様な、どちらとも取れる内容だ。
「あのー、シンプルに三つの願いで魂と交換ってのが一番良いと思うんだけどー……」
「なら一つ目で掟を無視しろと願い、二つ目で悪魔の力を願い、三つ目の願いでお前に魂を諦めて魔界に帰れと願うとしようか」
「ひどーい! そんなのあたしだけが損するじゃーん!」
「どちらが良い?」
その二択で選べるのは一つしかない。
「……分かっ、たよー……」
それでも悪魔は最後の抵抗を試みる。
「で、でもでもー、あたしの力は悪い事か人を不幸にする事にしか使えないよー! それでも」
「当然だ。私はその為にお前を喚んだ」
迷いのない言葉に、悪魔は奥歯を噛み締める。
「……地獄に、落ちるよ……!」
「そんなつまらない脅しは結構だ。さぁその力を私の悪の体現に捧げろ」
悪魔は唇を震わせながら膝をついた。
「……仰せの、ままに……」
「ではまず部屋の修復だ」
「にゃ!?」
悪魔の間抜けな声に、シリアスな空気が砕け散る。
「早くやれ」
「えっ、ちょ、聞いてたー!? あたしは悪事か不幸にする事しか」
「この部屋をこのままにしておけば、修理が必要になる」
「えっ、あー、まぁそうよねー」
「内装業者、家具業者、工務店、様々な者が入り、そこに収入が生まれる」
「と、当然じゃなーい」
「それをお前が奪うんだ。収入と言う人間の重要な幸せを奪う事に悪魔の力を使って何が悪い?」
「えっ、あれー? そう言われればそう、なのかなー?」
悪魔は何が何だか分からず、頭を捻る。
「そうか。それ程人間の幸福に手を貸したいのか。ならば今すぐに内装業者を呼んで」
「待ってー! 直すー! 直すからー!」
悪魔が手をかざすと、まるで早戻しの様に部屋が破壊される前に戻っていく。
「どうー!? これで良いでしょー!? この部屋は完全に私が壊す前に戻したよー! 悪魔の力の凄さを思い知」
「次からはぐずぐず言わずに従えこのポンコツが」
「えぇー!? ひどーい!」
「酷くはないだろう。他者を褒めるのは善行だ。悪魔のお前にそうした方が良かったか?」
「えぇー? あれー? 確かにほめるのって良い事、かー……。うー、でもでもー……」
悩む悪魔を尻目に男は部屋を出る。
「ど、どこ行くのー!?」
「決まっているだろう。悪事だ。嫌ならそこに居ていいぞ」
「うぅー、行くよー!」
「外に出るなら、その目立つ羽根と無駄に露出の多い馬鹿みたいな服を何とかしろ」
「えー!? これお気に入りなのにー!」
こうして丸めこまれやすい悪魔と根性のねじ曲がった男は、悪魔の力で無双を始めるのであった……。
読了ありがとうございました。
何となく方向性は掴んで頂けたのではないかと思います。
……次の話を読んでから判断しても遅くはないと思いますよ? 短い連載ですが、どうか長い目でお楽しみください。
1/7追記
四月咲 香月さんから頂いた、机に座るリリルの絵を掲載させて頂きました!
この時はまだ悪魔っぽかったのに……(笑)。




