三年と、八か月後
♦♦♦♦♦
あれからの、成長速度は目を見張るものだった。
そのことをアトリは喜んでいたが、朱鷺は素直には喜べなかった。
小さかった主にも成長期が来て、ぐんぐんと身長が伸び、朱鷺よりも十二センチ高くなった。
あんなにくりくりとしていた、藍眼は切れ長の目になり、体格もがっちりとしている。
いわゆる、細マッチョになったのだ。
これをすべて掛け合わせ一言でいうと、容姿端麗。
ここまでは、執事としてもうれしい限りなのだが…。
12センチ…、はぁ……。
朱鷺が自分より、まだ小さかった主がすごく大きくなり、少なからずショックを受けていたのだ。
はっきり言って、これ以上朱鷺の身長が一気に伸びる、という可能性は皆無=主の身長を越せない、
という式が成り立つのだ。
「おはようございます、主。」
「あぁ、はよ」
アトリの声は低かった。男らしい首元からは、ポッコリと喉仏がでている。
最近になり、声が低くなった。その為、その声にいまだなれない朱鷺はまたひそかにショックを受けていた。
あんなにかわいかったのに……。
実は朱鷺、かわいいものはつい愛でたくなるのだ。
だから、つい昔のころの主を求めてしまうのだ。
だが、最近はようやく現実を受け入れ、今の主になれてきたところだ。
「朝食の準備ができております。」
「ん。ありがと」
朝食もまた、屋敷に住む全員でとっている。
食事の時が一番賑やかになるときだろう。
朝は、アトリはあまり食べないため周りの人より一回り少ない。
それであの身長なのだから、朱鷺はいつも思っていた。
量が少ない分、早く食べ終わるアトリは、ポケットから朱鷺自家製の英語単語帳を取り出し、時折口ずさみながら勉強している。
それがとてもかっこいいと、密かにメイド内での一つの楽しみとなっている。
♦♦♦♦♦
「行ってくる」
しっかりと制服を着こんだアトリは、学園へと向かった。
もちろん安全のため、車で行く。
「行ってらっしゃいませ」
アトリを見届けた後、朱鷺も準備した。
何の準備かというと、学園へ行く準備である。
朱鷺も、主であるアトリが不在の今、屋敷の中にいても仕方がない。また、勉学だけではなく、人と人との関わり方をを学ぶためにも、学園という場は朱鷺にとってはメリットしかなかった。
「それでは私も行ってきますね。」
「「行ってらっしゃーい!」」
アトリの時とは違い、皆軽い返事だった。
朱鷺が通っているのはアトリと、ある意味同じ学園に通っているといえる。
何せ、小等部から高等部まであるエスカレーター式の学園にアトリが中等部、朱鷺が高等部に通っているのだから。まぁ、あと数か月で卒業だが。
補足 アトリと朱鷺は生徒会長をしている。
朱鷺とアトリの学園生活は後程、その時が来たら……。
♦♦♦♦♦
少ないけど、ストーリーはしっかり考えてあります。