⑳媛鉄西宮駅-2「線路沿いの小さな家で」
⑳西宮駅2
ここが桜川の家か…
綾の家より轟音はましだが伊予鉄が長くて4両に比べ
ここは短くても6両の電車が行きかっているみたい.
しかし窓から見えるその電車は小豆色…臙脂色という感じの高級そうな車両で
オレンジ一色の伊予鉄やシルバーにピンクの媛鉄などより渋い.
窓の外にすべてが臙脂色の車両が来た.
綾はうえに白い線が入っている電車よりこっちのほうが好きかな.
やっぱり轟音. 白い線が入っていないとうるさいのかな?
「綾奈どうしたの? さっきから外を見て. 電車でも気になった?」
「気になるって言うか… この電車,品があるなぁと思って」
「品はあるでしょ.あの色で.阪急は昔の電車でもきれいだもんね」
「あの臙脂色一色のやつと白い線が入ったやつ違うの?」
「白い線? あぁ,ハチマキのこと? 車両によって違うかな.
綾奈のいう臙脂色の車両は3000系. 今,阪急で一番古い車両だよ.」
「そうなんだ. じゃああれ以外は上に白い線が入った車両ばっかり?」
「この路線はそうなってしまうかもしれないけどまだ京都線のほうに行ったら」
「へぇ. また行こうよ.」
「綾奈が電車に興味持っていてくれてなんか嬉しいな.」
興味持ったのかな? 媛鉄のあのシートには感動したけど…
いつも伊予鉄の椅子にしか座らないからね~
愛媛を出るといろんな発見があるもんだ.
「そういえば伊予鉄と比べて阪急は轟音じゃないなと思ったけどさっきの…
あ,3000? はなんでうるさかったの?」
「鋼鉄製だからでしょ. 最近の車両はアルミ製が多いからね音がかなり静かなんだよ.」
「じゃあ伊予鉄は鉄?」
「うん. 新しい車輌以外は.」
「へぇ~同じに見えても違うんやね」
「そうだね. 最近は炭素繊維でできた車両もあるし」
美波の電車好きをドン引きしていた綾だけどなんかわかったような気がする.
すると後ろで話し声が聞こえてきた.
「綾奈ちゃん,洗脳されたのかな?」
「洗脳… いや自発的でしょ. 松山を出て新たな世界を綾奈は知ったんだよ.」
こそこそ話していても丸聞こえだ.
「お~い.聞こえているよ」
「きこえちゃったか~」
わざとか…
もう日が沈みそう. こういう風景好きだな~
「綾奈. そろそろご飯作って. おなか空いた」
あ,忘れてた.
「OK. 台所借りま~す」
「あ,冷蔵庫のプラグ挿してない.」
「そんなすぐ冷えるもんじゃないでしょ冷蔵庫って. 別に冷食ないからいいけど」
「ごめん. 電子レンジもつかうときはコンセント挿してね.」
桜川は節電主義すぎる.節電をお願いする電力会社もありがたい話だろう.
あ,でも使ってもらわないといけないか.
福井県の原発も建設から50年ぐらいたったから廃炉になって
どんどん電気代も高くなっているってニュースがいってたし…
でも桜川の場合は節電主義じゃなくてけちなだけかな.
コンセントを挿すと冷蔵庫がすごい音を出して動き始めた
電車よりうるさいんじゃないか?
「綾奈.手伝うことある?」
「野菜切ってほしいな」
ケチだけど気配りは惜しまない桜川. いい奴だな~.
っていうか. すごい器用だな…
そんなに早く野菜を切る男子は始めてみた. アナログ野郎.
「綾奈. 美波もなんか手伝おうか?」
美波は桜川やっているから来てくれたのかな…
まぁいいけど~.
いつの間にか桜ちゃんも手伝いに来てくれて
超狭い台所は身動きが取りにくい.
でも桜川の包丁の動かし方が気持ち悪いほど速い.
キャベツの千切りとか得意そうだな~.
お好み焼きやとんかつのときは超便利じゃん.
「綾奈,きり終わったよ. 他に何かある?」
「ありがとう. 今はないかな? ここはもういいよ.」
「じゃあお風呂でも洗ってくるや.」
お風呂って自動で洗ってくれるもんじゃないの?
未だに旧式使ってるのかな?
風呂掃除を終えた桜川が戻ってきて言った.
「綾奈ん家の風呂の後に見るうちの風呂はすごい汚い.」
まぁうちも古いけどここはすごい歴史を感じる. 壁が特に.
壁はおいといて床やモノはすごい綺麗だから
桜川はマメに掃除しているんだろうな.
壁も掃除したらいいのに.
まぁお風呂はどれだけ汚いのか楽しみにしておこう.
夕食のほうはみんなでやったからすごく速く出来た.
ここの台所が使いやすいというのもあるかも.
片付けもみんなでやってあっという間に終わったし楽だった.
「さ~て.誰からお風呂に入る?」
「昨日と同じ順番でいいんじゃない?」
桜ちゃんの提案でまた桜川から入ることになった.
「お客さんを差し置いてすいませんね.」
と桜川は笑いながらお風呂に行った.
「ねぇ.桜川がお風呂汚いって言っていたけどどう汚いんだろう.」
「んー. 部屋は掃除されているから古いってだけかな?」
「まさかの木製浴槽とか.」
「いつの時代だよ.」
「木製でかびているとか?」
「さすがに木製はないって. でもカビだらけはあるかもしれないね…」
「換気扇べとべととか.」
「台所じゃないんだから~ それはないって」
桜川は潔癖症だなんてこのときは知らなかった.
綾の順番が来たときちょっと警戒して扉を開けたけど
別に狭いのと昭和の経済成長期を思わせるデザインが気になるだけで汚くはない.
しかし狭い. 浴槽で足が伸ばせないのはきついな~
「綾奈の家の風呂は広すぎるんだよ」
「浴槽で足が伸ばせないのは普通のことだよ」
「あと,お風呂汚いって言ってたけど狭いの間違いじゃない?」
みんながお風呂から出たら風呂話に花が咲いた
「ところで2人はいつまで兵庫に居れるん?」
「ん~ せめてあさって?」
「私もあさってまでかな…」
「じゃあ,明日どうする? どこに泊まる?」
「ここは駄目?」
「駄目じゃないけど. 2泊もこんなところでいいのかなと思って」
「いいにきまっとる. っていうか泊めてください. 宿代浮くし」
「OK. じゃあ明日は何をする?」
「んー. あ,そうだ. あの桜川の友達が言っていた競馬は?」
「阪神競馬場?」
「おぉ~ どんなところか行ってみたい!」
「綾奈も1万円を使う?」
賭け事は絶対したくないから馬を見るだけでいいよ.
「じゃあレースがあるときに競馬場行こうか 他は?」
「宝塚大劇場も行きたいかな. あ,中に入らなくていいよ」
美波の宝塚発言は意外だった. てっきり駅とでも言うのかと思ったから.
「じゃあ明日は競馬場とタカラヅカということで.」
桜川がささっと明日のプランをまとめて布団を出した
「うち狭いけど布団4セットあるんだ.横一列なら敷けるよ」
けちなのに布団は4セットあるんやね. 関係ないか…
久しぶりの布団だ~. 座布団・床と2連続布団で寝ていないのでありがたい.
「あ,大学の友達とか誘ったときに使ったりするものだから少し嫌かもしれないけど」
「いや,布団があるだけ十分.」
「そう? よかった.」
桜川は気にしていたけどその布団は臭くなくむしろ洗剤の匂いがする.
押入れに入れたままで干されてはなさそうだけど全然大丈夫.
まだ早いけど4人とも布団に転がった.
修学旅行みたい
「桜三里にいたことがずいぶん前のような気がする」
「今日は1日が過ぎるの長く感じたよね」
「快適な座席に座ったのはよかったね.」
「桜川,財布が寂しいんじゃない?」
「まぁね」
4人とも今日一日は長く感じている.
「財布が寂しくても大学卒業したら稼ぎまくるから.」
「あと3年あるよ?」
「まぁ綾奈は競馬で稼ぐかな」
「1・2・3着全部当てたら100円が23000円になって帰ってくるよ」
「え!? じゃあ1万円賭けたら…」
すごい想像をしてしまった. 1・2・3着なんてそんな簡単に当たるものではない
しかも外れる可能性のあるものに一万円も賭けられな…
「230万円か. すごい金額だな がんばれ綾奈ちゃん」
みんなの話を聞きながらお金の事情はいろいろなんだなと改めて思った
競馬も18歳かららしいし. 100円賭けてみようかな.
そんなことを考えていたらいつの間にか寝てしまった.