⑱媛鉄新居浜駅「初めての快速特急」
⑱新居浜駅
桜川も美波のことを好きと思っていてくれた.
こんなに優しい人はこの世のどこを探しても桜川だけだと思う.
急行新居浜行きはそれなりに人は乗っていたけど
ボックスシートが1つ丸々あいていたので4人で座った.
綾奈と桜ちゃんがお酒じゃなく,お茶で祝ってくれた
ちょっと意地悪さも出ている祝い方だけど
嬉しかった. 桜川も嬉しく思ってくれているかな?
窓の外は完璧な田舎だけど
見える景色は都会以上に明るかった.
「みんな,お腹すいたよね?」
「桜川.なにかあるの? 綾におごってくれ~」
「新居浜で降りようと思うんだけどどう?」
桜川の提案は即行で受け入れられた.
まぁ新居浜が終点なのでどのみち降りなくてはならないけれど.
電車は長いトンネルを抜け,JRに乗り入れた先の
新居浜駅で降りた.
JRと媛鉄がならんで駅を構えている不思議な駅だ.
改札内売店で桜川は
4人にサンドイッチを買ってくれた
あのケチな桜川がカツサンドを!! しかも4つ!
「桜川~ どうせなら神戸牛のステーキでもおごってほしかったな?」
綾奈はいつでもちょっとふざけてわがままを言う.
いや,綾奈の場合はわがままではなく本音だと思う.
「まぁ,この後でお楽しみがあるから.」
この桜川の言葉に綾奈は目を輝かせた.
「なにそれ? 神戸牛のステーキよりもすごいもの?」
「きっとね.」
ところで綾奈は神戸牛というものを食べたことがあるのだろうか?
個人的に近江牛がいい気もするけどなぁ…
…桜川は「待ってて」といって改札横の定期券販売所に入っていった.
まさか定期券販売所に神戸牛のステーキが!?
桜川は5分ぐらいたってから何も変わった様子なしで戻ってきた.
当たり前だけどステーキではなかった.
「あれ? 桜川. 綾たちへの特別なものは?」
「これから. ちょっとまって」
再び降りたホームへと戻る.
でも…次の普通鳴門行きまであと30分以上もある
30分も待てないよ…
「ステーキレベルの楽しみは~?」
綾奈がすこしうるさくなってきたとき…
「さぁ 乗ろう?」
桜川が笑顔で乗車位置に立った.
美波は写真でしか見たことない電車に興奮を抑えられなかった.
ホームに滑り込んできた電車は2200系.
特急専用車両1200系をさらにバージョンアップして2016年に登場した
新型の特急電車. 桜川の言うステーキ級とはコレだ!
でも2人はえ~電車?という顔をしている.
「桜,綾奈. この電車すごいんよ?」
桜川に続いて乗り込んだ綾奈と桜ちゃんは「おぉ~!」と声を上げた
硬いボックスシートに座ってきたこれまでの車両とは違う
Super Seat Plas という名称のついた特別車両だ.
新幹線のグリーン車を思わせるような座席で
普通電車がガラアキの媛鉄もこの車両は予約を取るのは難しいらしい
そんな座席を4席. どうやって予約したんだろう?
魔法でも使ったのかな?
「どう3人とも? まぁ美波は興奮していると思うけど」
「ステーキじゃなくてがっかりしたけど. この電車はすごいね!」
「本当に綾もそう思った. いままでの硬い椅子とは違う!」
桜川は電車に興味ないはずなのに説明し出した
「コレは快速特急でこの先西宮まで6つしか途中にとまらんのよ.」
「へぇ~!! ちなみで普通で行ったら何駅? 美波!」
いきなり話を振られて困ったけどちゃんと答えた
「56駅,西宮まで途中に止まる」
「うわぁ~ 速いし,こんな座席で快適だし最高じゃん!」
「たしかにステーキよりいいかもね.」
綾奈はリクライニングを一番奥まで倒した.
足元にも余裕のあるこの車両は4人で向かい合って座っても窮屈に感じない.
そしてこの2200系の1号車で
いろんなことを話して盛り上がった.
満員だけど立っている人のいない媛鉄は快適!
鉄道一人旅じゃないのが何より楽しい.
しかも一緒なのがTpのメンバー.
みんなでカツサンドを食す.
JR東海を超すカツサンドは無いと思ってたけど
いろんな意味で最高に美味しい!
そしていつの間にか動体視力選手権が始まった
通過する駅の駅名表を読むことが出来るかという勝負だ
「きたきたきた!」
「何駅だろう? 美, 美?」
「馬って読めた」
「全くわからない 美波. 答えは?」
言おうとした瞬間. 綾奈が答えた
「わかった! 美波駅だ!」
「馬が入っていたって私が言ったでしょうが」
「答えは美馬駅.」
「2人よれば文殊の智恵だったな」
「3人でしょう?」
2つ次の駅で面白いことが起きた
「コレ完璧に読めたわ~」
綾奈は得意げに言ったけど
電車はスピードを落として停車した.
これ見えないほうがおかしいって.
3人に笑われた綾奈は顔を赤くして窓側を向いた.
「で? なんて書いてあったの?」
「阿に波. あ!2つ前の駅とあわせて美波駅か! 桜川喜べ!」
「阿波駅で綾奈がこんなに興奮するとは思っていなかった」
「綾奈も少しは電車が好きになった?」
「なったかも! 動体視力選手権と桜川のおかげで」
綾奈がそういって桜ちゃんは爆笑している.
でも嬉しい. 電車を好きと思ってくれる人が増えた.
桜川も電車を好きになってくれたらいいな.
美波の次に. ね?
そして動体視力大会はまだまだ続き
『徳島阿波おどり空港』駅は大変なことになった
媛鉄で一番長い駅名. 誰も読めなかった.
他にも難読駅名や似た漢字の多い駅…
みんな小学生のようにはしゃいだ.
一番うけたのは桜ちゃんが真顔で津名駅を…
「わぁ. マグロ駅だ~」
うけ狙いだとは誰でもわかるけど,大笑いした.
やがて電車は大きなつり橋を渡った
3日前. 桜川が美波を美波と気付いてくれた場所.
この明石海峡大橋は美波にとって一生の思い出の場所になると思う
桜三里駅もね. 今思えば桜川の桜が入っている
桜ちゃんの文字もある. 綾奈がないな…
「そういえば垂水で地下に入るんだよ. まぁ美波に教わったけど.」
…あの時.桜川はまだ美波だってことに気付いていなかったはずなのに覚えてくれている.
新境目での出来事も,もう何年も昔のことみたい.
もう媛鉄そのものが思い出かも.
媛鉄に乗るたびににやけちゃうじゃん!
電車は地下にもぐり大きな駅に滑り込んだ.
松山を出て6時間ほど. いろんなことがあった媛鉄のたびももうおしまい.
楽しいことって,準備とか本番はすごく楽しいけど
終わると,夢が終わったような気分になる.
ポケットから切符を取り出し,改札に入れた瞬間.
大きなブザー音とともに改札機が閉まる.
改札機が閉まるなんて初めて見た.
今まで切符を間違って買ったことなんて…
っていうかほんとうに夢から覚めて現実に戻されちゃったみたい!
「え? なに?」
あれ? 桜川と綾奈も?
「あ,しまった…」
「そうだった…」
改札から逆流してきた切符をよく見ると350円区間切符.
2人はすぐにのりこし精算機に向かっている.
よく考えると350円は松山から桜三里の運賃.
2人とも最初から桜三里で降りるつもりだったんだ…
美波を元に戻してくれるために.
この切符を2人が買ってくれていなかったら
今までの6時間. 誰もしゃべらなかったかもしれない…
そういえば,快速特急券買うときに乗車券を提示しなくて良かったのかな?
やっぱり桜川は魔法を使ったんだ.




