血の異空間
――
「……っ! はぁ…はぁっ……!!」
目が覚める。
目の前の階段は真っ赤に染まっていて、元々人らしかった物の肉片がぐちゃぐちゃになって山になっている。
「………おえっ…」
すごい匂いがする。
この場所にいたくない…
真っ赤に染まった階段を駆け足で昇り、廊下にでる。
辺りを見回しても、今は、あの首無しはいなかった。
でも、またいつ出てくるは分からない。
逃げ道があるところを移動しながら、なんとか出口を探さないと…
私は再び出口を探して暗闇の廊下を歩き始めた。
――
「………」
やっぱり、全ての扉には板が乱暴に打ち付けられていて、開けられる扉はなかった。
1つの階をじっくり歩くだけで1時間弱かかるから、疲れも溜まっていき、精神的にもキツかった。
2階はもう諦めて、3階への階段を上る。
そして、階段を上りきった時…
どがああぁぁぁん!
「!?」
また、とてつもない音とともに、すごい震動が響いた。
1回大きな揺れがした後は揺れる気配はなかったので、様子を見に、行けるところまで階段を降りた。
そこには、大きな穴が空いていた。
1階から2階に上った時と同じように、階段の前半部分があった場所はぽっかりと抜けていた。
これでまた、下に降りることは不可能に…
やっぱり、どんどん上に上っていくしかないのかもしれない。
でも、探索をしないで上ってしまったら、もし、あるかもしれない出口を逃してしまうかもしれない…
ということはやっぱり、1つの階をじっくり見回ってから上るしかないのかも…
でも、あまりゆっくりと回っていると、首無しに殺されるかもしれない…
「……はぁ…」
何か方法はあると思うのに、それらしきものは全く見つからない。
もう2階回って疲れた足を無理矢理前に出し、私は3階の廊下を歩き始めた。
――
「………」
疲れた。
ここも、何も変わっていない。
相変わらず扉という扉には板が打ち付けてあり、入れない。
そもそも、1階のトイレや玄関の出口のドア以外の客室以外らしき扉を見ていない気がする。
2階3階は全て客室だということ?
脱出のヒントは見つからず、分かったことはどうでもいいことばかり。
精神的にも、疲労がのしかかる。
…次は、4階。
こっちの世界に来てから、多分3、4時間は経ってると思う。
歩くのもやっとになり、1週して唯一の階段に戻ってくる。
そして、壁に寄りかかり、階段を利用して一休みすることにした。
緊張の溶けない、仮の休憩。
3階では特に何も起こらなかったけど、これから何が起こるかは分からない。
4階に上がったら、またあの首無しに殺されるかもしれない。
恐い。
もう、上に行きたくない……
もしここが絶対安全なんだとしたら、何か分かるまでずっとここにいたい。
死への恐怖が尋常じゃなかった。
...それは当たり前だけど、今は言葉にならないくらい...
もう嫌だ…
もう、1回も死なずに、この建物から出たい。
「………」
でも、やっぱり無理なのかもしれない。
ここを出るまでには、絶対に首無しに遭遇する。
出会ったら殺される。
そうとしか思えない。
今まで、そうだったのだから。
――
「……あれ」
気付いたら、廊下に立っていた。
何階にいるかは覚えてない。
気付いたらここにいた。
相変わらず景色は同じ。
無限に続くように見える廊下。
ずらっと並んでいる板を打ち付けられて開かない扉。
真っ黒な壁。
もう、気が狂っているのかもしれない。
…自分の行動も制御できないくらいに。
でも、今は意識がある。
今のうちに、廊下を回ることにした。
歩いても歩いても景色は変わらない。
前がはっきり見えないから、ほんとに無限に続くような錯覚に陥る。
……もう、助からないのかな。
ちゃんとしない足取りで、ふらふらと前に進む。
そのとき、体ががくんと動く。
私の歩みは止まっていた。
すぐあとに下からぼとっと柔らかいような物が落ちる音がする。
反射的に音が聞こえた方向に視線を落とす。
たった今切断された、私の左腕が転がっていた。
「…………え?」
自分でも、なんで一目で自分の腕か分かったかは分からない。
その直後、激痛が走る。
「あぐっ……!! あ゛……だ………」
切断された腕があった場所から、激しく血が噴き出す。
激痛によって一瞬覚醒した意識も、多量出血によって次第に再び機能しなくなっていく。
頭がくらくらし、意識が朦朧としていく。
重力に体を任せながら壁に倒れるように寄りかかる。
また、死ぬ。
恐怖心が一気に駆り立てられる。
「…誰か……たす…けて………」
誰もいないのは分かっているはずなのに、誰かに助けを求める。
勿論、そんなもの来るわけがない。
精神が絶望に染まる。
もう何かを考えられるほどの余裕はない。
まともに考えることができない。
そのとき、右の方から足音が聞こえてきた。
誰かが、来てくれた…
全てを諦めていたところに現れた、希望の光。
だけど、それは…
足音の主が、私の前で止まる。
こちらを向く。
そして、私の顔の高さに合わせるようにしゃがんだ。
それは...絶望を更に絶望の淵に叩き落とす首の断面。
「……………」
はぁ。
希望なんて、あるわけない。
もう既に分かっていたこと。
それを、無理矢理否定していた。
不思議と、恐怖はなかった。
もう、何も感じられなかった。
次の瞬間、視界が突然右に落ちる。
そして反転した。
―――
「……………」
目を開けた時、視界は真っ暗だった。
でも完全な暗闇ではなく、しばらくするとだんだんと目が慣れてきた。
「………うぷ…おえぇ…」
すごい血の匂い。
目の前の壁に、飛び散った血の痕。
「……?」
そして…
「ひっ! きゃああああああ!!」
右には、左腕と頭部がない死体が壁によりかかり座っていた。
断面からは、止めどなく血が流れている。
切断された左腕は死体の左脇に。
頭は、目を見開いて右手で添えられるように体の上に置かれていた。
ついさっき殺された…...。
「……ひっ……ぅあ………やだああああ…」
恐怖が心の底から際限なく溢れてくる。
座った格好のまま死体から後退りをする。
ぐちゃぐちゃと、足と手のひらに気持ち悪い感触と感覚。
そのとき、真っ赤に染まった、体に置かれていた動かないはずの頭が、ころんと左に転がり落ちる。
「うぁっ………」
見開いた目で私を一直線に凝視する頭。
がぱっという音とともに、死体の頭は血を吐いた。
「…ぇぐっ……ひっ…あ、あぁ……ああああああ!!」
すぐに立ち、階段の方へと走る。
脇目を振らずに。
駆け足で階段をのぼる。
もう、悠長に1階1階を探索する余裕なんてなかった。
もう、精神的にもたない。
「……はぁ…はぁっ……!!」
階段を何階分のぼったかなんて分からない。
明らかに最上階の7階分はのぼっていた。
普通だったら違和感を覚えるくらい、たくさん階段をかけ上がっていたと思う。
でも、そんなこと気付くはずがない。
「…はぁっ……!! はぁ… ……あ……」
ひたすら階段をのぼっていると、扉の前に出た。
この建物には似合わなそうな、鉄の扉。
学校の屋上に出るような。
下を見ると、前と同じように階段が消えていた。
多分アレに破壊された。
もう、後戻りは出来ない。
目の前の扉を開くしか道はない。
でも、もしここから外に出れれば…
この恐怖からも開放される…
ドアノブを握る。
鉄の冷たさを手に感じる。
血で回しにくくなっているドアノブを、両手で握り…
そして、回した。
扉を引く。
目の前には、暗闇が広がっていた。
でも、そこに浮かぶ、今にも落ちてきそうなくらい巨大な月。
これで……やっと、外へ。
足を踏み出す。
しかし、扉の先は…
月以外は真っ暗な闇に染まっていた。
何もない。
足を踏み出せるような、床もなかった。
「え…き、きゃああああぁぁ……!」
宙をもがき、真っ逆さまに落下する。
このまま、もし地上があったとしたら、当然のように死んでしまう。
「………………」
でも、いつまでも落ちるばかりで、地面なんてものはない。
落下死はしないとしても…この状況から出来ることはない。
ひたすら落ちる。
もう何も分からないけど、風の受け方から多分仰向けの体勢になっている。
顔だけを恐らく下の方向へ捻り、地面があるかどうかを窺う。
と、その時...一本の鋭い光が見えた、
狙ったかのように、先の尖った巨大な針が、私に向かって一直線に伸びてくる。
「!! が…......はっ………」
避けられるはずもなく、その針は私のお腹を貫いた。
私から、ぼうっと光る針が延びていた。
声にならない激痛が走る。
「…あ゛……あ゛ぁ……え゛ほっ……」
痛い。
また死ぬ。
なんで私は……
こんなに死ななきゃならないんだろう。
もう、嫌だ。
こっちの世界に来たくない。
意識がだんだんと無くなっていく。
そして、薄れゆく意識の中で思い出した。
前も、こうやって針でお腹を貫かれた気がする…
確か…あの時は……
「………っ゛…」
薄れた意識の中で思い出しかけている時に、その思考を遮るかのように、暗闇から巨大な針が何本も姿を表した。
あらゆる方向から、たくさんの。
同時に出現したそれらは、同時に私の体を貫いた。
―――
「……えほっ、えほっ…」
また、目が覚める。
そこは、先程のように暗くはなく、窓から太陽の光が射し込んでくる。
「戻って…これた……」
私の部屋。
何も変わってない唯一安心できる場所。
何も、変わってない…
その言葉の通り、変わって欲しいことも全く変化はなかった。
里菜ちゃんは、相変わらず同じ体勢のまま眠っている。
今どうしてるんだろう…
何かが引っ掛かるような気もするけど、何かは分からない。
でも、ところどころ記憶が無いっていうのもおかしい気がする。
......あくまでそんな感じがするだけだけど。
今回のことは全て鮮明に覚えてるけど…
たまに……
と、考えてたその時。
「……!!」
とん…とん…と、ゆっくり階段を上る音。
まずい…
お母さんかな…
里菜ちゃんが一人寝ているのをどう説明すれば…
いや、そのままのことを言えば…
でも、頭にはあの機械を着けている。
「おねーちゃん? いる?」
この声は…
「…玲奈?」
玲奈。
私の妹。
小学4年の妹。
当時の私よりも頭はいいと思うけど、4年生に見えないくらい小さい。
私と玲奈で、姉妹で同学年の子より体が小さい。
無邪気で、可愛い。
小学生らしい小学生。
私は、ドアを少しだけ開けて、部屋のなかをあまり見えないようにする。
「…どうしたの?」
「さっきも呼んだんだけど返事が聞こえなかったからどうしたのかなーって。お昼寝してたの?」
「う、うん。そうだよ」
「里菜さんが来てるのに?」
「二人で寝てるの…」
「里菜さん遊びに来たんじゃないの?」
「そうだけど…」
「おねーちゃん疲れてるの?」
「…え? い、いやそんなことないよ?」
「おねーちゃん疲れてると返事が一言になるじゃん」
…無駄に洞察力が高い。
今この時に限って、目障りだと思ってしまった。
「……疲れてたからお昼寝してたんだよ?」
「ふ~ん… まあいいや~。おやつどこにあるか知らない?」
唐突に話が変わる。
無邪気さに助けられたかな…
これ以上詮索されたらいくら玲奈でもまずかったかも…
「おやつ…? あ、冷蔵庫の中にロールケーキがあったと思うけど…」
「ほんとに!? わーい!」
「………」
振り向いて、ダッシュで階段を降りる玲奈。
これで、多分しばらくは誰も来ない。
もうすぐまた向こうの世界に行ってしまうから、来られたらヤバいことになってしまう…
ドアを閉めて、ベッドに座る。
そしてタイミングを計ったかのように、あの頭痛が私を襲う。
そして、意識は次第に落ち…
「おねーちゃーん! 高くて届かない!」
「……!! ま、ず……」
玲奈が再び部屋の前に。
急いでドアの鍵を閉めようと...
でも、私はそれ以上意識を保つことは出来なかった。
―――
「? おねーちゃん?」
ガチャ
「あれ、寝てる…」
………
「あ、里菜さんこんにちは~」
毎回のことながら遅くてすいません!
モチベーションがなかなか上がらないのと、勉強と進路選択の期限に追われてモチベが削られてるのが原因です。辛いです。
正直新しい話があんま書けてませんすいません。
あまりグダグダしてるのも後ろ髪引っ張られている感じでいやなので、夏休みに頑張って完結させます。
出来れば6月にもう1話、7月にもう1話上げて、夏休みにガンガン書いて上げられればいいなぁと・・・
予定よりも話が短くなってしまうかもしれませんが、すいません、ちょっとキツイです。
あ、もし、遅くなってもいいからちゃんと話を書いて欲しいって方がいたら連絡下さい。
今後の予定も本当にどうなるかわかりませんが、最後までは絶対に書くのでよろしくお願いしますm(_ _)m




