小人姫と巨人たち
これまでのサブタイトルを変更しました。
私がここに来た経緯は話したし、ここでの役割(?)も聞いた。
だから今度はこの世界についてもう少し教えてもらおう。
「質問です!この世界に国はいくつあるんですか。一年は何日ですか。魔法はありますか。国主って国王のことですよね、貴族とかはいるんですか。というかまず、皆さんどんな立場の方ですか。」
「…少し落ち着け。ちゃんと質問には答えるから。」
「この世界にある国はねー、今は五つだよ。それで一番でかいのがグレイン!」
「一年は三百六十日だよ。『始まりの日』を基点としているんだ。ちなみに十二の月に別れていて、それぞれ色の名前がついているよ。」
「魔法ってお前…いくつの子供だよ。そんなもん物語の中でしかお目にかかれねーって。」
「国主は国王のことだな。この国ではそう呼ばれているだけだ。貴族は昔はいたが、今はいない。」
おお。皆さん律儀に返してくれたよ。そっか、なんだかこの国は日本によく似ているのかもしれない。 というか今更だけど、言葉が通じて良かったー!魔法がないのは残念としか言えないけど…。
「それから僕たちは、ミネハルア学院の四年生です。年は皆十六ね。首都にある寄宿学校で、優秀な人材を育成するために国中から集められた精鋭たち、っていうのが売りなの。馬鹿そうに見えて、ピートだって地元では神童とか言われてたらしいしね。」
「らしいじゃなくて、実際言われてたんだけど?!俺を貶めて自分の株上げようとしてるだろ!」
「…そんなことないよ。まあとにかく、そろそろ夕食の時間だ。ミホもお腹すいたんじゃない?食堂に行けば先生方もいるだろうし、今後についても相談した方がいいと思う。」
「安心しろ。ここにはお前に危害を加えようとするやつなんていない。」
そう言って優しく頭を撫でてくれるバスクスさん。ちょっとキュンとしたのは秘密です。
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只今食堂へ移動中。ちなみに小物入れに入れて運ばれてます。誰か(選択肢はマルリさんかバスクスさんの二択だけど)の肩に乗って行こう!とか思ってみたけど、実際やってみたら服で滑るは予想以上の揺れだしで、泣く泣く諦めるしかなかったという。
なるべく揺れないように気を使ってくれているのがわかる。マルリさんありがとう。
一階の奥にある食堂に近付けば、大勢の人がいるのかがやがやした雰囲気を感じられるようになってきた。…どうしよう、緊張するー。だって聞けば全学年(この学院は六年制らしい)プラス先生方が皆集まって食事だって言うんだもん。およそ二百五十人…耐えられるかな、私のハート。
とりあえず姿勢を低くして、なるべく見つからないようにしよう。
そっと周りを確認すると食堂へいつの間にか入っていたようで、食事が乗ったトレーが置かれた長テーブルと、長椅子に座った生徒たちがたくさんいるのがわかる。今日のメニューはシチューか…あったかそう。
私を連れた四人はテーブルの間をすいすい進み、窓際の少し年上に見える男性陣のところへ向かっているようだ。きっとこの人たちが先生なんだろう。
コワイ。運よくこの四人は害がない、というか親切だったけど、これから会う人たちが皆良い人とは限らないわけだし。私これからどうなるんだろう…。
そんなシリアスになりそうな私を引き戻したのは、少し固いマルリさんの声だった。
「先生方、食事前で申し訳ありませんが少しよろしいでしょうか。」
「なんだマルリ、俺に相談なんて珍しいじゃないか。おう、いいぞー悩める青少年たち。どーんと話してみろ!」
「(…なんだか相談相手を間違った気がする。)まずは実物を見ていただくのが早いと思いますので、どうぞ。」
そう言って私のいる小物入れをテーブルの上に置くマルリさん。いやいや早いって!心の準備が!
恐る恐る上を見上げると、髪がライオンのような人と目があった。…喰われるかもしれない。
こちらが固まったのと同時にあちらも同じような状態になったのか、しばらく見つめあったまま。怖いよー誰か助けてよー。
漸く意識が復活したのか、目の前のライオンさんがゆっくりと私を指さし…「こここれ、これ、まさか『幸せの小人姫』か?!」などと食堂中に響き渡るだろう声で吠えてくださった。途端に静まる食堂。大声にびびってバクバクの私の心臓。ものすごい勢いで集まった先生方に囲まれて、非常に居心地の悪い思いをすることになった。…マルリさん、初めに声を掛ける人はもう少し選んで欲しかったよ。
そうこうしているうちに、生徒たちも周りに群がるように集まってきた。なんだろう、きっとパンダが初めて公開された時ってこんなんだろうな、と思って小さくなっていると、突然誰かに持ち上げられた。
「こいつは俺が最初に見つけたんだからな!あーほらほら、こいつが怖がってんだろ!全員座れって!」
…アレイだった。なんだ、こいつ結構良い奴じゃん。
周りが落ち着いたのを確認し、私がアレイの手の上に座ったところで、バスクスさんが説明を始める。
「今日の授業が終わって自室に戻ったところ、アレイが彼女を見つけました。少し話を聞きましたが、これまでの小人姫と同様、光る水流に運ばれてきたようです。小人姫が現れた場合、国主に報告しなければなりませんので、申し訳ありませんが先生方にお願いしたいのです。子供だと舐められて彼女を奪われたりなぞしたくありませんので。」
なに今の。バスクスさんはいちいちキュンとさせてくるなー。
「よしわかった。連絡は学院長に頼むか。あの人なら大丈夫だろ!…というわけで、俺にも抱っこさせてくれ!!」
「ミホに触っていいのは僕らだけですよ、パイアー先生。寝言は寝て言ってくださいよ。」
「ずるい!俺だって小人姫と仲良くしたいんだ!お前らだってそうだろう!」
そう言ってパイアー先生と呼ばれた先生が周りに呼び掛けると、「そうだそうだ!」「お前らだけずるいぞ!」「俺にも抱かせろ!」などの野次が返ってきた。正直怖すぎる。忘れていたが、ここは男子校。もともと自分の十倍以上あるかという人間たちに囲まれるだけでもきついのに、これで順番に抱っこなんて…どんな辱めだ。ちょっと怖くなって、アレイの指を強めに握ってしまう。
「だーかーら、さっきも言っただろ!最初に見つけたのは俺だ!ミホは俺のものだから勝手に手出すんじゃねえぞ!!」
食堂に響き渡る宣言をしたアレイ。どうしてくれるのこの空気。
「私、アレイのものになった覚えないけど。」
小さく呟いたつもりだったけど、静まりかえっていた面々にはしっかり聞こえていたようで…待ってよ、なんで不思議そうな顔で私を見るの。
「ミホ、言い忘れてたごめん。小人姫はね、最初に出会った人のところで過ごすことになるんだ。一説では、小人姫にとって一番適当な人間のところに現れるとも言われているからね。」
…なんですって!!
「アレイみたいな短気な人やだ!」
半分本気の訴えは、アレイの(だいぶ手加減したであろう)デコピンによって流された。
前途多難だな…。
*人物紹介*
笠原美保
中学三年生。十五歳。水泳部副部長。
部活動後プールの点検をしていた時、光る水に飲みこまれ異世界にやって来た。
『幸せの小人姫』と呼ばれる存在。
アレイ・マッカーソン
ミネハルア学院四年生。十六歳。赤目金髪。
短気で少々俺様気質。ミホを最初に見つけた人。
マルリ・ディエスター
ミネハルア学院四年生。十六歳。碧目黒髪。
みんなのまとめ役。時々くろ…グレー。
バスクス・トレイル
ミネハルア学院四年生。十六歳。金目赤髪。
頼れる兄貴。
ピート・ブライト
ミネハルア学院四年生。十六歳。黒目青髪。
お調子者。愛される馬鹿。