小人姫とご対面
「ここ、どこ?っつーか生きてたとか自分どんだけ悪運強いんだよ。」
起き上がって、まずは外傷の確認。…よし、とりあえず異常なし。続いて周りの状況を見ようと、部屋を見回してみる。
うん、薄々感じてたけど、でかい。何もかもが。
ベッド、タンス、椅子、机、床に落ちているシャツ、コップ。どれもこれも巨人が住んでいるとしか思えない大きさだった。なにこれドッキリ?そうだよね、きっとあのドアあたりから「ドッキリでしたー!」とか言って家族か友達が出てくるんだよ。そうに決まってる。もう十分びっくりしたから早く出てきてくれないかな。そしたら「やりすぎ!」って文句言って、たぶん首謀者だろううちの部長を思いっきり叩いてやるんだ。まったく…。
なのにどうして誰も来てくれないの。もういいでしょう?これ以上待たせないで。お願い、誰か。誰でもいいから助けて―――――――。
不安に押しつぶされそうになっていると、今までになかった音が聞こえた。思わずその方向へ顔を向けると、ドアを開けたまま固まった男が。…まずい展開?
声を上げるでも隠れるでもなく、ただベッドの上に突っ立ったままの私と、そんな私を凝視したままの男。二人の視線がゆっくりと交わった時、そこに恋が生まれ…るはずもなく、勢いよくドアを閉められ、またしても部屋には私一人が残されたのだった。
どうしようやっぱりここは巨人の国なのかもしれない。…だって、今の人明らかに私の十倍くらい大きかったもん!!しかも金髪に目が赤いとか!なにこれ。下水コースじゃなくて、もしかしてもしかして異世界ってやつ??!!
またしてもパニックに陥りそうになった時、扉の向こうから先程の男と思われる怒号が響いた。
「おい誰だよ!俺の部屋に『呪いの人形』なんか置いた奴は!!!」
もはや人でもなく人形かい。しかも呪いって…。
言葉では言い表せない脱力感に襲われそうになったが、よく考えろ美保。今の声で巨人の仲間が集まるんじゃないか?もしそうなったらやばいよね。確実に襲われるか売られるか襲われる!!
仲間が来る前に隠れなきゃ!と焦りながらわたわたしていると、「ほら見ろ!」と言いながらさっきの男と仲間と思われる男数人が部屋になだれ込んできた。
終わった。私の人生ここで終わった。
もう一ミリも動けそうにない緊張感が両者の間に漂い、ああこれが走馬灯ってやつね…と遠い思い出が頭を巡り始めた時、一人の仲間がぽつりとつぶやいた。
「これって『幸せの小人姫』じゃないか?」と…。
あら、人形からはランクアップ。しかし私は姫ではない。そしてやっぱりあちらから見ると私は小人なんだね。パニックになりすぎて逆に冷えたらしい頭で考えていれば、恐る恐る最初の男が近付いてくるじゃないか。
「これが『幸せの小人姫』か?ずいぶんみすぼらしい格好だが。」
悪かったね、びしょびしょの制服で。私だって好きでこんな恰好なわけじゃないのに。
恨めしそうに見上げれば、次々と男たちが私の周りを囲い込む。…興味津津だね、お兄さんたち。
「ちっちゃいなー」やら「まさか本物が見られるとは」だのいろいろ言い合っているけどね、もういいかな。いい加減寒いんだよ。とりあえずタオルの一枚くらいくれてもいいんじゃないかな。ああもうくしゃみ出そ「っくしゅん」出ました。
その途端「た、大変だ!」「タオルどこだ!」と慌てる男たち。ったく遅いっつーの。
そして初めに私を「小人姫」だとか言った男によって発見されたタオルを使って、漸くびしょびしょから生乾き程度にはなれた。でもまだ服が濡れていていて気持ち悪いなーと思っていれば、男の一人が「ああっ!」と叫び、部屋を飛び出していった。…何なんだ、とその場の全員が開けっぱなしのドアを見つめていれば、あっという間に戻ってきた彼の手にはリボンのかかったきれいな箱が。
「これ使ってくれ!」と言いながら開けた箱の中には、可愛らしいワンピースが。
…え、そういう趣味の人?と思いつつ見上げれば、どうやら周りも同じだったらしく、「お前…そうだったのか。」と温かい視線を送っていた。
「ちげーよ!妹にやるつもりだった誕生日プレゼントだよ!着替えないから困ると思ったんだよ!」
ですよね。お約束ありがとうございます。