あれはフーフープー?
目的に向けて私たちの馬車の旅は続いています。
初めての野営のときはドキドキしました。皆で近くの森に入り枝を取ってきて、エリーが炎魔法で火をつけ、立ち上がる炎を見つめました。
辺りに明かりなどなく、揺らめく炎の明かりだけで照らされる世界は、闇を切り取るには心もとなくて闇の中から聞こえる些細な音が心臓を跳ねあがらせます。
周りを見れば温かい光で照らされた皆の顔が見えて、少し安心したのを覚えています。
野営をしたり、村に立ち寄り宿を借りたりしながら私たちの旅は大きな問題もなく進んでいきます。
勇者様が女装?していることもあり、特に騒がれることもありません。
立ち寄る村々で話を聞けば動物たちの声が聞こえるようになったことに対する困惑はあるものの上手くやっているようでした。皆、戦争がなくなったことを喜んでいました。
世界は、平和になっていました。
そんな確かな感触を目にする度、嬉しくなり勇者様を見れば勇者様も優しく微笑んでいます。
田畑が広がる地域が終わり、今は馬車から見える景色は緑豊かな草原です。緑、緑、緑、青。変わらぬ景色をぼーっと眺めていると、白いもこもことした動物たちが群れで歩いているのが見えます。
群れの先頭を見れば少女が歌いながら木の棒をふりふり歩いています。
「ヨーロロローヨーロロロヨー」
白いもこもこした生物もそれに合わせて歌います。
「「「「「ヒーヒーヒー」」」」」
草原の合唱団は楽しそうに歩いていきます。
「王女様、あれはフーフープーじゃないか?」
「ん。多分フーフープー」
あれが!まさかこんなところで目的のものに出会えるとは思えませんでした!
「勇者様フーフープーです!」
目を開けながら寝ている勇者様を肩を揺すって起こします。
「フーフープー?」
ぼんやりしている勇者様に説明します。
「あれがこの世界で一番美味しい食べ物です!」
そういうと勇者様の目が大きく開き、あれが!と驚いてくれます。
「羊に似ているけどなんか全体的に丸いですね」
頻りに何か頷いています。エリーが馬車を飛び降り少女とフーフープーに駆け寄ります。私たちも後を追って駆け寄ります。
「フーフープー食べさせて」
エリーが胸を張り少女にいうと少女は持っていた木の棒を構えます。
「お姉ちゃんたち誰!フーフープーはやらないよ!」
警戒させてしまいました。
「ヒーヒー!(俺たちを食おうっていうのか!)」
「ヒー!(やってやんぜ!)」
気づくとフーフープーに囲まれています。これはマズイかもしれません。ダンダがすかさず前に出ます。
「すまぬ。連れの言葉が足らなかった。フーフープーの毛をいただけないだろうか?」
そうです。私たちが欲しいのは毛です。
「ん。毛が欲しい」
少女はほっとした顔をしました。
「なんだ。毛なら毛と最初に言ってよ~。いいよ~。でも高いよ?安くしないよ?お姉ちゃんたちに払える?」
私は素早く革袋から金貨を取り出すと少女の手に数枚握らせます。少女はニヤリと笑うと、
「お姉ちゃんたちはいいお姉ちゃんたちだったんだね。いいよ~好きなやつの毛を剃っていってよ」
「ヒー!(そんな!)」
「ヒー!(俺は嫌だ!)」
「ヒー!(寒いの嫌い!)」
どうしましょう。嫌がっています。
「ヒーヒーヒー(綺麗に剃ってくれるならよろしくてよ)」
一匹のフーフープーさんが前に出てきて言いました。すんごいもじゃもじゃな子です。足まで見えないくらい毛が伸びきっています。毛並みは美しく太陽の光を反射して白く輝いています。お手入れを欠かしていないのがよくわかります。
「刈ってもいいだろうか?」
ナイフを手にダンダが問えば顔を上に向け品のある表情で応えてくれます。
「ヒーヒー(よろしくてよ)」
少女に確認すると頷いていたので、ダンダがそのフーフープーの毛を根本からナイフで切っていきます。
「ヒーヒーヒー!(涼しくて最高!)」
そういうと駆け出し群れの中へ戻っていきました。勇者様が不思議そうな顔をしています。
「毛を食べるんですか?」
「ん、そう。絶品」
「生でも美味しいですが、スープにするともっと美味しいんですよ」
さて困りました。世界一美味しいものならスープの方がいいと思います。しかし、私たちは料理ができません。困っていると、
「なんだ、お姉ちゃんたちスープが飲みたいの?なら家に来なよ。うちのじいちゃんのスープは最高だよ!」
少女が手のひらをこちらに向けながら提案してくれました。少女の手に金貨を置くとニコニコで「さあ行こう!」と言いました。たくましい子ですね。思わず笑ってしまいました。
「ヨーロロローヨーロロロヨー」
「「「ヨーロロヨー」」」
皆で合唱します。
「「「「「ヒーヒーヒー」」」」」
フーフープーも一緒に歌います。それにしても意外です。勇者様は音痴でした。
「ヨーニョロービョーロニョロヨー」
ご機嫌に歌っていますが全くの別物です。
「姉ちゃん綺麗なのに歌下手だな~」
「ヒー!(下手くそ!)」
「ヒーヒー!(もっと練習しろ!)」
「ヒーヒー!(私たちの歌をちゃんと聞いて!)」
散々な言われようですが、勇者様は気にもせず笑っていました。皆で笑い歌いちょっと踊りながら歩いていると、大きなテントが見えました。ここが少女ことカナの家だそうです。
「じいちゃん客―!」
そうカナさんがテントの中に声をかけると、おじいさんが出てきます。
「そうかい、そうかい、お客さんかい。まあ入りなさい」
大きな布でできた家は思っていた以上に広く天上も私の身長の倍以上ありそうです。
「じいちゃんフーフープーの毛のスープを作って!」
おじいさんはカナさんの言葉を受け、鍋を取り出すと準備を開始してくれます。
スープができるまで私たちはフーフープーと遊ぶことにしました。勇者様がどこからかボールを取り出すとそのボールをフーフープーに投げます。フーフープーが一斉にボール向かって走りボールを咥えて走ってきます。
「ヒーヒー!(私のだ!)」
「ヒーヒー!(俺のだ!)」
「ん。私の!」
なぜかエリーも混ざってボールを追いかけています。何回かやりエリーが盛大にマントを自分で踏みつけこけた頃テントから声がかかりました。
「できたぞ~!」
テーブルと椅子が用意されており私たち四人は座ります。
「異世界中継してもいいですか?」
勇者様がそうおっしゃったので大丈夫ですと答えます。
「お前たち世界で一番美味しい食べ物が食べたいかーーー!」
「「「うおおおお!」」」
「「「美味!美味!美味!」」」
お久しぶりの異世界の皆さんです。
「これがアーガレスト世界で一番美味しい食べ物だ!」
そう勇者様がいうとフーフープーが画面に映ります。
「羊か?」
「丸っこいぞ」
「綿あめか?」
口々にフーフープーの感想を言い合います。
「皆の者聞け!フーフープーは肉を食べるのではなく毛を食べるそうだ!」
「毛?」
「また髪の話している?」
「いやいや、毛は食べられないだろ?」
「てかヤマダ女子じゃん!」
「ヤマダちゃん来たーーー!」
皆が毛と勇者様に驚いていると目の前にお皿が置かれます。お皿にはフーフープーの白い毛の塊がおかれています。料理には見えない見た目をしています。
「お姉ちゃんたちまずは生で食べてみてよ」
そういうと少女はお皿に入った生のフーフープーの毛を指さします。勇者様が毛を手にします。
「感触はただの毛です。それでは食べてみます」
「どうなんだ?」
「旨いのか?」
「毛じゃないのか?」
皆が注目する中、勇者様の口の中にフーフープーの毛が吸い込まれます。
「これは!」
目を大きく丸く開く勇者様。
「肉だ!」
そうです。フーフープーの毛は肉の味がするのです!
「肉だと!?」
「毛なのに?」
「どんな肉の味だ?」
皆さん興味津々です。
「口に含んだ感触は綿あめ!しかし、噛みしめると腰の強い麺を彷彿とさせる!」
恍惚とした表情で勇者様が続けます。
「繊維の一本一本がまるで高級ウインナーのよう!噛みしめると肉汁が暴れ出す!」
モニターに肉詰めが割れ肉汁があふれ出す映像が流れます。
「実に肉!しかし、面白いのはここからです!鼻を抜ける香りがナッツのような香ばしい香りがする!」
モニターにナッツと呼ばれた豆の映像?が映ります。
「生で食べているのに獣臭くない!芳醇な香りを纏った燻製のよう!そして、そして……ピリッと辛い」
そうです。フーフープーの毛はピリ辛なのです。解説しましょう。
「お出ししたフーフープーの毛は下処理をしています。フーフープーの毛はそのままでは毒があるのです。特殊な下処理をして毒を適切に処理します。そうすることで毒の成分がピリッと辛い味になるのです」
「うまっうまっ」
「「「羨ましーーー!」」」
「俺にも食わせろー!」
「私は絶対に食べに行くわ!」
皆さん、聞いてませんね。まあいいです。ですが、ふっふっふっ、これで驚いていて大丈夫でしょうか?スープがまだ待っているというのに。




