勇者様悪ノリですよね?
勇者様が皆を見渡します。
「では会議を続ける。次の議題はなんだ?戦争についてか?」
「次は私たちよヤマダ」
耳の長い女性、エルフの女王が挙手します。
「よい述べよ」
「エルフ族族長エールシアよ。私たちはエルフの国の設立とエルフの奴隷解放を願うわ」
「わかった。まずはエルフ国家の樹立について議論しよう。国土はどうするつもりだ?」
「今私たちが住んでいる森をそのまま貰う予定よ」
「エルフが住んでいる森か、大陸南西部だな。この土地を現在所有しているのは……」
「我がバブリッシュ王国だ」
口髭がダンディなピンドン国王が答えます。
「良いのか?」
「良い、良いのだ勇者殿。幾千年と続いたエルフとの諍いだが我が代で終わりとする。我がバブリッシュ王国はここに正式にエルフの国の樹立を認める!」
「我らが宿願が叶うのか?」
「エールシア様あああああ!」
「長く生きてみるもんじゃ」
木々の生い茂る森の中にいる耳の長い男性や女性が次々と映っていきます。皆突然の降って湧いた幸運に戸惑いと喜びを表しています。
「それでは決を取る。エルフ国の樹立賛成するものは挙手を」
皆手を上げます。手から光が出て空で一つになり弾けます。可決です。
「聞きなさい!我が同胞たちよ!千年の戦いはここに終止符が打たれた!私たちは今ここに独立する!国名はサンジェルネ!我がエルフ族の言葉で孤高なるものを指す!人族よ、覚えておけ!」
「「「サンジェルネ!サンジェルネ!サンジェルネ!」」」
良かったです。エルフの皆さんが幸せになりました。
「では次はエルフの奴隷解放問題でよいか?」
「待った!次は我らだ!」
「いや我らだろうが!」
「何言ってんのよ!うちだって決まってたでしょ!」
大変です!大混乱です。どの部族も我らだ我らだと先を争うように声を荒げます。取っ組み合いが始まり……そうだったんですが、体が透けるので相手が掴めませんでした。良かったです。話の内容から察するに皆さん建国がしたいようです。
「ちょっと待て、貴様ら部族の長よ。全ての部族の長が国を望むのか?」
「我らはもう疲れたのだ、王よ。安住の地が欲しい」
「我らもだ、外敵のいない安住の地が」
「「「安住の地を!」」」
「豊かな土地を求めて右へ左へ。子供や老いたものもいるのにだ」
「貧しさはこりごりだ。豊かな土地が欲しい」
「「「豊かな土地を!」」」
「我らは王のご意向に沿いましょう!」
「「「王と共に!」」」
「大体わかった。よい、では土地を明け渡しても良いという国はあるか?」
「余の国、ライメイレンがそれを承ろう」
「ほうグラファか、ライメイレンがそれを成すか」
「昨日の会議で決まったことだ。戦争を引き起こした罰として我が国は領土を各部族に譲渡しよう」
「どこだ?」
「我が国の領土の西部の山間だ。未開発だが川もあり森もある」
勇者様がスクリーンに青々した草が茂る牧草地を表示します。
「そうだ。そこから西へ行くと川がある」
「これか」
小舟を使わないと対岸には辿り着けなそうな広い川が映ります。
「そうだ。北へ行くと森がある」
画面上の景気が映り変り、森が表示されます。木の実や茸など山の幸が映し出されます。豊かな森のようです。
「良い場所のようだな。だが何故今の今まで開発がされて来なかった?」
「それは……」
勇者様が銀板を弄っています。また何かを調べているようです。
「なるほどな。開発団は何度も送っているがその尽くが謎の死病で死んだか」
「なんだと!?」
「聞いてないぞ!」
各部族が驚愕の中、非難の声をグラファ皇帝に投げかけます。
「そこは行ってはならん土地だべ」
「んだんだ。呪われてるだ。地元の人間は近寄らないだ」
「皇帝様その土地はダメだべ!」
ライメイレンの民たちでしょうか。口ぐちにその土地はダメだ呪われていると言います。皆さん必死に止めてくれます。
「戦争の罰でそんな土地を渡そうとしていたのか!」
「ふざけんなライメイレン!」
「わしらを殺す気か!」
グラファ皇帝に民衆が怒りをぶつけていきます。
「はいグラファ、民たちの半数が非難している座布団一枚没収」
勇者様がグラファ皇帝の背後に一瞬の内に現れると素早く座布団を引き抜きます。グラファ皇帝が前につんのめりました。両手を地につけグラファ皇帝が言います。
「聞け!民たちよ!余は言うつもりだったのだ!ピースメイカー殿よ、死地をどうにかしてくれと!」
考えてはいたんですね。
「なるほどね。できるよ。でもダメだね。これは他にできる人がいるよ」
「誰だ!?」
「どういうことだ?」
「ピースメイカーさん以外に誰ができるっていうの?」
ベールで顔を隠した全身黒づくめの女性が画面に映ります。
「え、私!?いやワレか?どういうことだストロバリオスよ」
骸骨を頭に被っていませんけど、彼女はエビフト団の団長さんでしょう。
「ん?呪われてるんだよ。その土地は過去に創造神によってエビフトが四肢を切断された土地なんだよ。それでその時に呪われたってわけ」
「聖地じゃない!伝承は本当だったのね!ちょっと待ってエビフト様にとっては忌々しい土地、聖地認定取り消し、取り消しよ!」
両手をばってんにして必死に弁明しています。
「ちょっと待って下さい。本当に彼女が呪いを払うことができるのですか?解呪なら私が」
「あー聖女様じゃまだ無理かな。レベルが足りてないよ」
「そうですか……」
「エビフト団の団長、呪いに関しては変態的に達者なんだよ。これこの世界で一番ね」
「やったわ!聞いたか愚民共よ、ワレが一番だ!エビフト団をまとめこの世に混沌と恐怖をもたらすワレが一番だ!呪いは友達だ、裏切らない!同胞よ、喝采を叫べ!」
「「「うおおおおおおおおおおおお!エビフト!エビフト!エビフト!」」」
何故でしょう。聞いてて、少し悲しくなってきました。
「二番手じゃダメなのかのう?」
リンネさんが問います。
「ダメだね、一番と二番じゃ実力が隔絶してるよ」
「そうか」
リンネさんが難しい顔をします。
「エビフト団の団長よ、この通りだ。地の解呪を頼む」
グラファ皇帝が立ちあがり頭を下げます。
「フフフ、ハァハッハッハ―!皇帝があの皇帝がワレに頭を下げるか!いいぞ!愚民よ、解呪を……し・て・あ・げ……ません!アハハハハ!泣け!叫べ!ワレは混沌の使者なり!」
「ふざけるな!」
「できるならしてよ!」
「「「「「「「ブー!ブー!ブー!」」」」」」」
「はい、座布団一枚没収ね」
勇者様がサッと座布団を引き抜くとシュタっと着地を決めました。俊敏です。憎たらしい。
「愚民共の賛同なんていらないわ!いいわ!いいわ!甘美!甘美よ!なんて麗しい時間なのでしょう!愚民共の悲鳴、阿鼻叫喚!ああいいわ、ゾクゾクするわ……足りないわ、まだ足りないわ。聞け愚民共よ!ワレが悪なり!魔族?同胞を奪われ奴隷にされたくらいで戦争を起こす愚か者どもが悪?鼻で笑っちゃうわ!家族がいるんじゃない!同胞が大事なんじゃない!魔王?臣下と共に魔族の世界を作るんでしょ!仲良しこよしじゃない!違うのよ!悪とは!悪とは理不尽!圧倒的なまでの理不尽なのよ!正体は不明!理由も不明!ただ振り回される暴力!それが悪よ!」
「良い事いうのお」
リンネさん!?
「いい愚民共聞きなさい!正義?悪がいるから存在するんじゃない!平和?悪がいるから愛しいのでしょう!?いい悪は栄えるのよ!悪は栄える定めなのよ!笑え悪よ!世界は悪を必要としている!」
「いいじゃねえか、良い事いうな嬢ちゃん」
顔に傷を持った強面の男性が。
「ギャハハ!いいね!悪は栄える最高!」
尖った舌をチロチロ出す魔族が。
「平和の会議だっていうから適当に見てたがどうしておもしれえじゃねえか」
次々と団長さんの言葉に同意する人々が現れます。
「いいね、良い事言う。座布団一枚あげちゃう」
勇者様!?団長さんの下に青の座布団が一枚敷かれます。
「そうであろうストロバリオスよ!聞け!悪を称するもの共よ!ワレは邪神エビフトを復活させこの世を滅亡へ誘うぞ!ワレよりも悪はいるか!」
「アハハハハ!最高!ダメだ勝てねえ」
「お前が一番だ!」
「お前は俺に喧嘩を売った!しかし、いいだろう。負けを認めてやろう!本当に邪神エビフトを復活させることができるならな!」
「できる!ワレがこの会議で邪神エビフトの復活を勝ち取ってみせよう!期待せよ愚民共!圧倒的な恐怖に震える未来が来ることを!打ち震えよ、平等を信奉する為政者共よ!全ては平等に死がもたらされるだろう!誰の手によってだ?貴様らが信奉する神という存在によってだ!神によって平等に恐怖と死が混沌と闇がもたらされるだろう!嬉しいだろう笑え!」
「いいね、熱い。それも世界平和だね。もう一枚座布団あげちゃう」
団長さんの座布団が二枚になります。勇者様ノリノリです。不安になってきました。悪ノリですよね。皆さん悪ノリが過ぎますよ。
「勇者様悪ノリですよね?」
「どうでござろうな。過去魔王ヤマダが似たようなことを言っていたでござるよ」
「そんな!?大丈夫ですよね、皆さん!」
「どうかしらね。ヤマダは悪神とも呼ばれているからね」
「悪童の方が本人喜ぶけどな」
「ヤマダは悪も大好きだからな」
「それな!だからヤマダはうちの世界の王なんだよ!」
「覚えておくといい。ヤマダは八方美人。悪にも正義にも良い顔する信用できない人間だ」
「あー新規さんかな?それがいんだけどなー」
「そうそう、その塩梅が絶妙なのよ。人間って案外そういうものじゃない?」
「人間とは多面的でござるよ。ヤマダはそれを体現しているでござるよ」
「結局のところ大丈夫なんでしょうか?」
「そうね、世界の選択次第かしらね」
「そうだな、世界会議の結果次第だろうな」
「生きるも死ぬも選ぶは自分たちでござるよ」
「そんな……」
すごい不安になってきました。
「ヤマダよ、エビフト団はこう言っておるが正義のヒーローとしてお主がやってくれんかのう」
リンネさんそれです。それが聞きたかったです。
「呪いに関してだよね?それはダメだね、自分の世界は自分で守るだよ。それに我は正義のヒーローではない。ただの人間である」
「まあお主ならそういうと思っておったのじゃ。なら全会一致したらどうじゃ?」
「いいよ、ただし解決期限次第だね」
「一カ月以内じゃな?良いな皆よ、聞いたな?手を挙げよ、ヤマダに呪いの解呪を頼むんじゃ」
手が挙がります。皆さんの手が挙がりました……おかしいです。光が出ません!
「誰ですか!?」
聖女様が叫びます。
「ワレだ!アハハハハハ、いい気味だ!良いか聞け!貴様らが王と信奉するストロバリオスが自分たちの力でと言ったのだぞ!いいのか王と崇める連中よ!」
「「「それは……」」」
「貴女が協力すればいい話でしょう!」
聖女様その通りです!もっと言ってやってください!
「力足りぬ犬が吠えるわ!無様!いいわ、いい!なんて良い宴なのでしょう。ストロバリオスよ。よくやったわ!」
「はは~お褒めに預かり恐悦至極」
やっぱり勇者様悪ノリしていますね。ひどいです!
「これは良くない流れですね」
「グッド宰相!そうなのです勇者様が悪ノリして!」
「それもそうですが、このままでは全ての議題が可決できず勇者様の任期が終わってしまいます」
そうですね。まずいです!
「うむ、では呪いの解呪、邪神エビフトの復活に全会一致することでしてはもらえないかのう?」
リンネさん!
「話をすげ替えないで頂戴。それはワレが全ての議題を反対することなく挙手することで叶うという話だったでしょうが」
「そうだったかのう。お主さっき挙手せんかったじゃろ?」
「それは……」
「お主はさっき良いこと言ったからのう。わしは評価してるんじゃよ。全会一致を邪魔しないでエビフトの復活。これは良いな?」
「ええいいわ。昨日そういう話で決着着いたものね」
「そうじゃ。その上でじゃ。これはどうじゃ。エビフトが治める混沌と恐怖の世界にお主たちが住めるというのは?」
「どういう意味?」
「そのままの意味じゃよ。新しく世界を創ってエビフトが治め、お主たちはそこで暮らすんじゃよ」
「そんなことできるわけが……」
「ヤマダよ、可能かのう?」
「リンネ……いいね!面白い座布団一枚」
リンネさん青の座布団が一枚追加されます。元々座っている座布団と合わせて二枚目です。
「それは出来るという事かのう?」
「いいね、やりましょう」
「やったわ!エビフト様の世界ができるのね!あっでもちょっと待って愚民共に恐怖と死をもたらすのが……」
「それは行きたいという奴にもたらせばよいのではないかのう。魔族と魔物に相当数おるのじゃ。どうじゃ恐怖と混沌の世界じゃ。お主たちの希望通りじゃろ?」
「ワオーーーーーーーン!(リンネ様!)」
「がおおおおおおおおお!(リンネ嬢!)」
「贄は人間がいいのですが、強者だと奢る愚か者を屠るのも一興。良い落とし所かとリンネ様」
銀の巨大な狼が、獅子の頭に蛇の尻尾に羽が生えた魔物が、執事服を着た悪魔が応えます。それを皮切りに次々に魔物や魔族の賛同の声が集まります。
「うーん残念半数にはいかないね」
「まあの、平和な世界で伸び伸びと生きたいと願う魔族や魔物も多いからのう」
「ちょっと待て、魔族や魔物だけか?」
「強者だと奢るだとお前だろ魔族!俺が屠ってやるぜ!」
「俺も行きたいぞ」
「興味あるな」
人間の皆さんの中にも行きたいっていう人がいるみたいです。どうしてでしょう。混沌と恐怖が支配する世界ですよ?
「聞いてくれ皆!この世界はもうダメだ!魔物が殺さないでくれって懇願するんだ!それが聞こえちまうんだ!俺はこんな世界はもう嫌だ!」
「「「は?どういうことだ?」」」
革鎧姿の冒険者でしょうか?彼が言います。
「魔物の声が聞こえちまうんだよ!もう冒険者やってらんねえよ」
「なんだと!?」
わっ大きい声です!代表者の中の筋骨隆々な武骨な男性が反応します。
「おやっさん俺も確認した。ダメだ、ホーンラビットが殺さないでって泣きながら訴えかけてきやがった」
「俺も確認した」
「俺もだ」
「なんてことだ!勇者ヤマダよ!困る困るぞ!冒険者の職を奪わないでくれ!」
「名前と所属を」
「俺は冒険者ギルドで今はギルド長を勤めているボール・ゴーンだ!どうにかしてくれ!」
「会議の結果次第だねー」
「そんな!?」
「ふう、今更じゃな。良いか聞け人族よ。ずっとじゃ、ずっとなんじゃ、魔物はずっと言っておったんじゃ。お主らには聞こえなかったか?わしにはずっと聞こえたおったぞ!いいか!聞け人族よ!お主らは殺し過ぎた!よいか魔物にも家族がいるんじゃ!父を失い子を失い泣くんじゃ!言葉が伝わらんと諦めておった。しかしじゃ!世界は変わった伝わるんじゃ!聞け!魔物の声を!魔物もお主らと変わらずこの世界に生きる住民なんじゃ!」
「ゴブゴー!(リンネ様!)」
「ワンダフル!(リンネちゃん!)」
「ブルッブルッ!(もう食われないブル!そんな世界が来るブル!)」
ゴブリンの声が、フェンリルでしょうか?の声が、レッドブルの声が聞こえてきます。勇者様が魔族や魔物を治療しているときに薄々気付いていましたが、これはもうダメですね。レッドブルのお肉美味しかったのですが残念です。もう食べられないんですね。
「俺っちも新しい世界行こうかな。純粋な命の取り合いがしたいんでね」
「「「スバルお前もか!」」」
S級冒険者のスバル・イイダさんです。
「おやっさん、ピースメイカーさんに頼んでもダメだぜ。ピースメイカーさんは言ってただろ?この世界に生きる全ての住民って魔物も住民ってこった」
「だが……」
冒険者ギルド長のボールさんが項垂れます。
「しょうがないのう。提案してやるわい。良いか新しい世界には弱いものは殺されて当然という考えの連中が行く。戦いを当然のものと考えるもの。戦いを好むものたちじゃ。つまりじゃ今までと変わらず冒険者は戦いを挑むといい。彼らはお主らの期待に答えてくれるじゃろう。その上でじゃ。帰れればいいのじゃろう?行きたいものが行き、帰りたいものはこの世界に帰って来れる。そんな世界を創ればいいんじゃ。ヤマダよどうじゃ可能か?」
「いいね、燃えるね、叶えましょう」
「行き来出来る。それでじゃ加えて平和なこの世界には悪意があるものは来れないとする。どうじゃ世界は幸せになりそうじゃろ?どうじゃヤマダできるかの?」
「悪意の検知ね、いいね、やりましょう。リンネ座布団一枚」
これでリンネさんは三枚目の座布団です。
「リンネよ、その話我も乗ったぞ。我も新たな世界へ赴くとしよう」
座布団の上に小さいイカさんがいます!クラーケンさんいたんですね!
「海に生きる動物、魔物や魔族よ!聞いたな平和な世で生きたければこの世界に!今まで通り闘争の日々を生きたいなら新世界へだ!」
「「「ギョギョギョ!(平和な世界へ!)」」」
「「「ギャギョギョ!(闘争の世界へ!)」」」
人魚さんや小さな魚さんたちがこの世界へと、銛を持った魚人族やサメたちが新世界へと叫びます。勇者様が病気を治したオリュンダ国の国王が手を挙げました。
「ちょっといいでしょうか?私の名前はオリュンダ王国国王ルーベンスと言います。魔物や魔族、人族に関しては良いでしょう。戦いたいものだけが、行きたいものたちだけが行き、この世界は平和になる。帰って来たければいつでも帰れるようにする。そして、新世界からこの世界への侵略は悪意を持つものを弾くことで防ぐ。そこまではいいです。何故なら魔物や魔族、人族であれば世界全体で見れば個体数も少なく世界のバランスに影響が少ないと考えられるからです。しかし、魚など動物を含めるのはまずいと思うのです」
どういうことでしょう。皆が静かに話に耳を傾けています。
「小魚を食べる大型の魚が新世界へ行くことになれば、この世界で小魚が増え過ぎ小魚が餌とする海の栄養が尽きるでしょう。また新世界でも問題が起きます。小魚たちが平和な世界を望みこの世界を皆が選んだら新世界へ行った大型な魚の食べるものがなくなってしまいます。魔物や魔族の食べ物となる鹿などの動物たちもそうです。平和な世界を望み皆が行かなければ新世界に行った魔物や魔族は飢えで同族で食い合うような今よりも悲惨な世界となるでしょう」
「その通りです!神は言いましたこの世界に生きる全ての生き物は我が子だと!この世界中で手を繋ぎ共に生きていける未来を考えるべきなのです!他の世界を創りそこに追いやるなど真の平和ではありません!無理なことをしようとするから歪みが出るのです!正しくこの世界で皆が生きるべきなのです!」
「聖女様、私はそこまでは言っていません。私は新世界は賛成です。但し動物はこの世界にも新世界にも等しくいるべきだと言っているのです」
「動物は救わないというのですか!?」
「もっと言えば植物もです。植物、動物は我らが生きていく上で必要不可欠な環境です。欠かすことはできないのです。そして全てを救うことはできないのです。植物の代表者の方はいますね。どうでしょう今までの議論を聞きどういう意見をお持ちでしょうか?」
「私ですね」
緑の髪に茶色の肌をした少女に見える女性が手を挙げます。
「私は植物の王を勤めております。名はなく種族名であるドルイドと呼んで頂ければと。質問にお答えします。植物は個であり全、全であり個。全てが消失しない限りは生きているという価値観なのです。新世界でもこの世界でも構いません。等しく森に生きる生き物に恵みをもたらしましょう」
「慈悲深いお考えです。ありがとうございます。皆さまがいるおかげで我々は生きていけるのです。共に生きていきましょう」
「はい人族の王よ、伐採だけではなく植林もしてくださいね」
「かしこまりました。心に刻みましょう。ヤマダさん、この世界には動物の王はいないのでしょうか?」
「良い質問ですね。それに今までの話も着眼点が良い。座布団一枚あげます」
ルーベンス王の元に青の座布団が追加されます。
「ありがとうございます」
「そうですね、残念ながらこの世界には動物の王という動物全体の声を代弁できる存在はいませんね」
「そうですか残念です。クラーケンさんどうでしょう?今までの話を聞いてお考えを聞いても?」
「むむ、魚たちは我らの食糧である。それだけの繋がりしか持たぬ。この場には我しかおらぬため先ほどは動物も含めたが良くはなかったのか」
クラーケンさんがしょんぼりしています。
「ではどうしましょうか……」
「ヒヒン!?(僕らは救われないの!?)」
お馬さんが鳴きます。
「ブヒブヒ!(野生は大変だな、俺らは人間に世話して貰ってるぜ!)」
農場にいる豚さんが答えます。農家の人が驚いています!
「モーモー(あら貴方食べられる運命じゃない。私は乳を恵んでるだけよ)」
別の農場にいる牛さんが話しに加わります。ごめんなさい、たぶん貴女も乳が出なくなったら食べられる気がします。
「コケーコッコ!(新参者たちが、いいか人間に飼われている奴は等しく食われる運命なんだ!)」
「ブヒブヒ!(知ってる。知ってたぜ!でも俺はそれを誇っている!三食昼寝付きで最後は美味しく食べて貰えるんだ!最高じゃないか!人間は言うんだぜ、毎食俺らに感謝の言葉を!)」
「モーモー(私も知ってたわ、薄々ね。私の母もある日連れていかれて戻って来なかったわ。ただ野たれ死ぬより人間に喰われる方が意味のある死でいいのかもね)」
「コケーコケー!(俺は嫌で逃げ出したぜ!でも捕まっちまった。でもな、その時言ってたのよ、俺を捕まえた女の子がさ、良かった鳥さん見つかってってちょっと嬉しくてさ。いつも世話して貰ってる恩もあるのにな)」
「ブブヒブヒ!(いいかお前ら!しゃーねえ食われてやるだ!)」
「モーモー!(そうね、美味しく食べなさいね!)」
「コケコー!(俺は育ててくれた女の子に感謝している。だから食べられてやる。食べる奴、少しくらいは感謝してくれよな!)」
「お前ら!」
「おらの牛よ!」
「鳥さん!」
農場の人達が抱きしめています。ジーンと来ました。
「ブーブーブー!(けっお坊ちゃんお嬢ちゃんがヤマダ俺の声を拾え!って拾ってるな!)」
また農場の豚さんです。さっきの豚さんとは別の豚さんで少しやつれているような気がします。
「ブーブーブー!(いいか良く聞け!三食昼寝付き!?ふざけるな!俺なんか絶食だ!しかも山入って自分で旨そうな茸見つけても人間がそれを奪いやがるんだ!)」
「モーモー!(ひどいわね!)」
「コケー!(なんて人間だ!)」
「ブヒブヒ(俺はやっぱり恵まれた環境にいたんだな)」
「ブーブーブー!(いいか人間なんて糞だ!終いには俺は食われるのか?ふざけんな!)」
農場の人が慌てています。分かりました。多分この豚さんはトリュンヌという珍しい茸を取るために育てられているトリュンヌ豚さんです。香りが高く高級なトリュンヌは豚さんのお腹を空かさせて匂いを嗅ぎ付けさせ見つけると聞いたことがあります。それでしょう。農場の人が抱きしめて慌てて説明しています。お前は誇り高いトリュンヌ豚なんだと。トリュンヌを見つけたら褒美としてご飯たらふく食わせてやるから勘弁してくれと。
「ブーブーブ(なんだあの茸探しが俺の仕事だったのか?しかも超高級品で俺にしかできない?言ってくれれば良かったのにそれなら腹が減ってなくても見つけてやるよ。後、見つけたらご褒美くれよな)」
「やる!これからは腹一杯食わせてやるから!勘弁してくれ!」
「ブーブーブ(ならいいけどよ)」
解決です!良かったです。次はまた別の牛さんです。
「モーモーモー!(私の子供を奪うのをやめて!)」
「うあああああ!勘弁してけろ、モー子!子牛は高く売れるんだべ!」
「モーモーモー!(嫌よ!返してよ!)」
「すまねえ、分かっただ。もう子牛は売らねえ。老いて死ぬときは売ってもいいかあ?」
「モーモーモー!(しょうがないわね。それならいいわよ。二度としないでよね!)」
「……なるほどヤマダさん対話が必要ということですね」
「そうじゃな、対話が大事という話じゃな」
ルーベンス王とリンネさんが動物との対話が必要だと解きます。
「どうだろうね。どう捉えるかはこの世界の住民に任せるよ」
「うむ、では次は野生動物たちの話が聞きたいのう。野生に生きる動物たちよ、お主らは今までの話を聞いてどう思ったのじゃ?」
「グオオオオオ!(食えるものなら喰らってみろ!)」
大きな熊さんです!
「ピーピーピー!(捕まる方がいけないのよ!)」
綺麗な鳥さんです!
「ピョンピョン(僕らは食われないように耳が長いんだよ。知らなかった?)」
兎さんです!ピョンピョン言ってます、可愛いです!でも内容はちょっと偉そうに喋ってます。
「なるほどの。まさに野生じゃな、弱肉強食が沁みついておるんじゃな。そうじゃないものもいるのかのう?のんびりと伸び伸び草を食い生きていきたいと思うものはおらんのかのう?」
「シカシカ!(それが理想だよね!)」
鹿さんがシカシカ言ってます!
「ヤマダよ、鹿はシカシカ鳴かんじゃろ?」
「あー我の魔法の影響、ちょっと現実の鳴き方と違いが出るかもだけど勘弁して。喋っている内容は本当だから」
「まあ内容は疑っておらんのじゃ。魔物たちで確かめたからのう。それでどうかな鹿さんよ」
「シカシカ(僕はのんびり暮らせるなら暮らしたいかな)」
「シーカシーカ!(俺はスリルがある今の生活に満足してるぜ!)」
「シーカシーカ!(生きてる実感湧くもんな!)」
「シカシカ!(私は人間に可愛がられたいわ!)」
「様々なんですね」
ルーベンス王がしきりに頷きます。
「ヤマダよ。今まで疑問に思っておったことなんじゃが、これはお主が選んでおるよな?お主の主観が入っておらんか?」
「良い質問だね、リンネ!座布団一枚!」
リンネさんこれで座布団四枚です。単独トップです。
「全ての声を聞くことはできるよ。やってみる?」
「うむ」
「では皆のもの!神の世界を体感するがよい!」
ガーガーガー!
「「「「「「「うおっ!」」」」」」」
うわぁっ!思わず耳をふさいでしまいました。ひどいです。一瞬で様々な声が聞こえました。声が重なり合って分からない……いえ今思い返すと絡まった複数の紐が解けるように一つ一つの声が何を言っていたかわかります。全ての声を拾えたわけではありませんが、様々な動物が様々な意見を言っていました。同じような意見も沢山あったと思います。
「これはひどいですね。複数の声が重なり合って……」
「じゃが、なんとか判別が付くのう。なるほどのう。分類して代表の声だけ拾っておるのか」
「そんなとこ、まあ我が選んでいるというのもその通りだよ。主観も存分に入っている。だが、これも熟練の技だ。我の選択を楽しめ」
「神様はこうやって皆の声をお聞きになられているのですね」
「生真面目な神様はね」
「我の進行が気に喰わないようなら明日は交代すればよい。声を拾う役目も望むなら代わろう。リアルタイムではなく時間差が出てしまうが、もう少し聞きとりやすくする方法もある。全ては皆の選択次第だ」
「なるほどのう。進行を止めてしまって悪かったのう。今は野生動物たちが様々な意見があるというところじゃったな。だが、基本的には弱肉強食が沁みついておるんじゃったか」
「そうですね。大きく分類すると野生でそのまま生きたい。安全にのんびり生きたい。人間と共に生きたいでしょうか?」
「そうですね、そうでした」
聖女様が頷きます。
「わしが聞いた感じだと人間じゃなく魔族と一緒を願う声もあったのじゃ。後、強くなりたい魔物になりたいというのもあったのう」
「なるほど、ヤマダさん野生でそのまま生きたいは全体の何割程度か分かりますか?」
「我が答えよう。この世界の陸に生きる野生動物は今の生活に概ね満足しているようだ。全体の約七割だ。今出た分類で答えると安全にのんびり生きたいが一割、人間と共に生きたいが一割、残り一割をリンネが言った魔族と共にと魔物になりたいなどが占めている」
「全て叶えてあげましょう。動物は代表がいないのです。私たちが代弁しなくては」
「魚たち海の動物たちも気になります」
「そうですね。聞きましょう」
「また全員の声を聞くか?」
「はい、私たちが聞かなくては!」
「では行くぞ!海に生きる動物たちよ!3、2、1だ。3、2、1で希望を言え!聞きたいものよ、耳をすませ!聞きたくないものは耳をふさげ。行くぞ3、2、1!」
ガーガーガー!
ダメです。すごい情報量で目が回ります。
「ぷはっ!ダメじゃトビトビ鳴いておるのが、空を飛びたいって言ったのが面白くて残りの二割ぐらいを零してしもうたのじゃ」
「私は六割程度でしょうか。ヒラヒラと鳴いている生物がドラゴンになりたいって言っているのが気になってその後が頭に入りませんでした」
「私は全然ダメですね、音の重なりが不快で頭に入ってきません。ヤマダさん分類するとどうなるのでしょうか?」
「分かりやすいように先ほど使った分類で述べよう。そのまま生きたいが五割。安全にのんびり生きたいが二割、人間や魔族と共に生きたいが二割、残り一割が空を飛びたいやドラゴンになりたい人魚になりたいなどの願いだ」
「なるほど、安全にのんびりは陸の動物の場合は一割、海の動物は二割ですか。思ったほど多くないですね。これならそのまま生きたいに新世界へ行ってもらって安全にのんびりと人間と魔族と共に生きたいがこちらの世界でバランスは取れるかもしれません」
「この意見の分布は今時点のものじゃ。次に生れてくるものは他の世界を望むかもしれん。そのときのためにも自由に行き来できるようにしておくのがよいじゃろう」
「対話をすればいいのです。どちらかのバランスが悪くなったらお願いをして移住して貰えばいいのです。人間や魔族が支えればいいのです!」
「いいね、三人とも。三人にそれぞれ座布団一枚」
ルーデンス王、聖女マリアンヌ様、リンネさんにそれぞれ座布団一枚です。これで三枚、三枚、五枚です。リンネさんが一歩リードしています。もう日が沈んで来ました。今日はまだ月が真上に上るまでとのことで時間がありますが、正直本日中は厳しくなってきた気がします。




