勇者様を召喚したらお説教されてしまいました
私の名前はイリスフォード・ラン・ファングレス。ファングレス王国の第一王女です。
数年前から魔王軍の侵攻が始まり、次々と列強は滅び、魔国との境目は遂に我国と接するところまで迫ってきました。
十万の軍勢を投入し戦線を押しとどめることには成功しましたが、魔王率いる魔国の軍勢は次々と魔物を投入してくるため予断が許さぬ状況です。
我国が人間側の防波堤となる代わりに各国から支援を受けているのですが、それでも足りず、我国は存亡の危機に陥ってしまいました。
一縷の望みに掛け、世界各国から魔石を集め先祖代々伝わる大魔法、異世界召喚の儀を取り行うことになりました。
勇者様を召喚し、魔王を倒していただくのです。
「ピースメイカーのお兄さんが来たよ」
ピースメイカーとはなんでしょうか?
「さあ世界を救おうか」
私の父である王が玉座から声をかけます。
「おおっ勇者よ!よくぞ参られた!我名はツバイス・ラン・ファングレス。ファングレス王国の国王である」
「貴様っ!王の御前であるぞ、頭が高い!膝をつき頭を垂れろ!」
近衛騎士団の団長であるイー団長が声を荒げる。
「よいよい、異国の地からはるばる来て頂いたんだ。そのままでよい」
王がたしなめます。台本通りです。優しい王の演出です。勇者様は困った顔をしました。
「お兄さんこれでも他で王をやってたりするからかしずくのはちょっとまずいんだよね。てか、逆に皆頭が高いよ。お兄さんが立っているのに貴方だけ座ってるとかずるいし」
台本にありません。どうしましょう。
「うむ、王であったかそれは失礼をした。誰か椅子を持て」
「はっ!」
「高さはどうする気?その高い位置の方が偉いっていう文化うちにもあるんだけど」
「むっ、それは……」
玉座は勇者様が立ってらっしゃるところより三段は高い位置にあります。私も王の隣に立っています。どうしましょう。
「貴様、先ほどから王に無礼であるぞ!」
「言ったよね。俺も王をやってるって。貴様が無礼だよ。次やったら殴るからね」
「なんだと!」
「はいっアウト」
ドゴーン。
勇者様の姿が見えなくなったと思ったらイー団長の体が壁にめり込みました。
あわわっ、大変です。
「「「団長!」」」
「死んでないよ、治癒魔法使える人いる?治してあげて」
「「「貴様っ!」」」
兵士達が取り囲んで剣を向けます。
「無理なら俺がやるけど、早く治癒した方がいいよ」
魔法師団がかけつけ団長に治癒魔法をかけます。
「あーダメだね。そのレベルかぁ。それじゃ骨が変にくっついちゃうよ」
兵士達の輪の中にいたはずがいつの間にか壁際の魔法師団の後ろからイー団長を覗いています。どういうことでしょう。
「ちょっとどいて」
<<ヒール>>
「こうやってやるんだよ。はい、起きてぇー」
ペチペチ。
イー団長の頬をぺちぺちしています。あっ起きました。
「わっ、私はいったい……」
「俺が殴ってノックアウトして俺が治して復活しました。さて、そこで剣を掲げている皆さん死にたいの?」
あわわっ、どうしましょう。父が謝るわけにはいきません。ここは私が納めましょう。
「この度はご無礼を働き申し訳ございません。皆のもの剣を納めなさい!」
「「「はっ!」」」
よしよし、これで大丈夫でしょう。
「貴女誰?王から謝罪が欲しいんだけど」
大丈夫じゃありませんでした。はわわっ、お父様に目配せします。謝りましょうお父様。
「うむっ、失礼をした」
「失礼をしたって微妙に謝ってないんだよね。頭下げてないし。ごめんなさいって素直に言えないかな?」
「いや、それは……」
「はぁ、細かいことをグチグチ言いたくないんだけど、どっちが上か下かみたいなの皆気にするんだよね。あっ、皆ってうちの奴らね。俺が不当に扱われたとか知られるとめんどうなんだよね。だからはっきり言うけど俺が上、あんたが下。俺はとある世界のとある王より上の立場の人間なんだよ。めんどくさいことに。だから敬意を持って接してくれるかな。これはお願いじゃなくて命令ね」
「こっ、ここはファングレスだ!ファングレス王国にはファングレス王国の仕来りがある。余所者が大きな顔をするな!」
イー団長……。
「あれ?団長さん殴られ足りない?いいね、そういう根性ある人好きだよ俺」
「しっ、静まれ!」
お父様が声を荒げます。
「アーアー!」
王が静まれって言って声出した人初めて見ました。
「だから命令しないでってば、あーめんどくさい。とりあえず椅子まだ?ってか会議室みたいなとこでやらない?それか絨毯フカフカだし、ここで皆地べたに輪になって座って話しない?」
地べたに輪になって……ちょっと楽しそうです。
「私にも立場があるのだ。分かってもらえないか?」
「わかりますよ。でもこちらにも立場があるんですよ。どうも皆さん召喚された側が立場が低いと勘違いするんですよね。俺は皆さんに無理やり召喚された……のではなく、皆さんの神様から依頼されて召喚に応じたんですよ。本当は仕事なんで立場とか面倒なものはほっといて話を進めたいんですけど、周りが本当にうるさくて。せっかく幸せにした世界なのにあのときの俺に対しての態度がどうとかで滅ぼすだのなんだの言ってくるので。はぁ~昔はよかったなぁ~一人の勇者として世界を救うのに慢心するだけだった時代。懐かしいなぁ~」
遠い目をしてますね。なんだか色々大変なんですね勇者様も。
「あっ、そうそうこれは言わなきゃいけないんですが、いいですがよーく聞いてくださいね」
なんでしょう。魔法陣を指差してます。
「これ。召喚はできるけど送り返し、送還はできないですよね。召喚時に繋いだ先の座標を記録する仕組みもないみたいだし、召喚だけしか想定してないですよね。俺が仕事が終わった後、元いた場所に帰りたいって言ったときどうするつもりだったんですか?」
「む、伝承には魔王を倒せば元いた場所に戻れるとある」
「定番ですね。ちょっと待って下さい」
<<アカシックレコード・アクセス>>
勇者様の手に銀の四角い板が現れました。
「あれ?二人いるな。ちょっと表示しますね」
凄いです。空中に二人の魔族の女性が映し出されました。どなたでしょう?
「調べたところこの世界には魔王が二人います。貴方達が言っている魔王はどちらですか?」
「うっ、うむ……すまぬが魔王の顔を見たことはなくてな」
「そうですか構いません」
<<サーチ>>
「ふむふむ……あーこれ普通の人間ですね。特に転送される仕掛けとかはないですね。おっ、片方気づいた。やるな」
どういうことでしょう?
「これ倒しても元の世界に帰れませんよ」
「……魔王が送還の儀を行う秘宝を持っておるのじゃ」
銀の板の上で指を動かしています。
「ふむふむ……ないですね。調べたけど送還が行えるマジックアイテムはこの世界に存在しないですね」
お父様諦めましょう。元々伝承にも勇者様を送り返す方法は記載されてないのです。勇者様をやる気にさせる嘘なのです。魔王を討伐するまでの間にこの世界を好きになってもらって帰らなくてもいいやって思ってもらう作戦なんです。私から言いましょう。
「申し訳ございません、勇者様。帰る方法はございません」
「ですよね。ありがとうございます。はっきり言っていただいてすっきりしました」
「いえいえ。申し訳ございません」
勇者様が浮かび上がります。見上げる位置まで上がると空中で胡坐をかいて座りました。
「はい、お説教します。皆さん正座してください。正座わかりますか?」
わかります。素直に正座します。
「お父様正座ですよ」
「うっ、うむ」
お父様が玉座の上で正座しました。これで皆正座です。
「はい、よくできました。ではお説教です。貴方達が行った行為は犯罪です。具体的にいえば誘拐です。まあ魔王を倒した後に帰還方法を求めて旅をするのも王道ですが、これはやってはいけないことです。素直に正座をしたということは悪いことだと分かっているのでしょう。魔法陣を見る限り技術的にできなかった感じですかね」
「はい、そうです。魔法陣を改良する時間的余裕もなく申し訳ありません」
素直に謝りましょう。
「情状酌量の余地はありそうですが、アウトですね。昨今の召喚事情を述べますと、送還の準備もなく召喚するのは時代遅れです。人によってはそれだけでもう勇者として振る舞うことを辞めるでしょう。辞めるだけならいいですが逆に敵になることも考えられます。いくら切羽詰まっていたとしても短慮としか言えないでしょう」
「はい、申し訳ございません」
ひらにひらにです。
「またこれが大事なのですが、他の世界の住民を安全に返す保障もなく呼び出した場合、責任はその呼びだした側の世界の神様が取ることになります。つまり貴方達が信仰している神様が頭を下げに行かなければならなくなるのです。例えそれが格下の世界相手だとしてもです。そして、二度と同じことを繰り返さないようにときつい罰を受けることになります。そのため、送還の準備がない場合は通常、神のお告げを聞いた後に召喚を行います。そして、神が責任を持って送還するのです。神のお告げはありましたか?」
「いえ、ありませんでした」
「ではダメですね。過去にも同じことをしたことは?」
「この魔法陣は五百年前に作られ一回使用されています。その際には神のお告げがあったと記録されています」
「そうですか、よかったです昔はちゃんと運用されていたんですね。いいですか今後同じことが起きないようちゃんとメモしておいてくださいね。この魔法陣は神のお告げなしでは使用不可です」
「はい、わかりました」
「よろしい」
「今回、私たちの神様は罰せられるのでしょうか?」
「大丈夫です。今回は私に召喚のアクセスが来たときにレジストして、トレースして貴方達の神様に問い合わせをして、その場で正式な依頼として召喚を受けたのでお咎めなしです」
「よかったです」
「帰還に関してですが、神様にお願いして送還して貰ってもいいのですが、私は自力で帰れるので大丈夫です。ですので今回は誘拐事件ではありません。よかったよかった」
「はいっ」
「はい、それではお説教はここまでです。立っていいですよ」
「「「はぁ~」」」
なんとか乗り切りました。帰れるんですね。魔王退治の後、王女である私と勇者様が結婚する予定だったのですが、どうなるんでしょう?




