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第48話:二人の草薙、交錯する狂気

若き草薙と、サイボーグのクサナギ。同一人物でありながら相容れない「技術者の矜持」が火花を散らします。

医療ポッドの中、アリシアたちのバイタルが安定し、管制室に微かな安堵が流れたのも束の間だった。

 突如、中央管制室の自動ドアが乱暴に開き、一人の男が飛び込んできた。


「所長! 佐野! 一体何が起きている!? 計測器の数値が理論上の限界を突破しているぞ! それに、この子供と奇妙な装置は――」


現れたのは、まだ三十代前半の若き技術者、草薙くさなぎだった。

 彼は吉川所長の下で主任技師を務めており、その冷徹なまでの合理主義から、以前より所長の「安全を最優先した廃炉計画」に公然と異を唱えていた男だ。

 若き草薙は、床に座り込むフィンと、異質な輝きを放つ医療ポッドを凝視し、その顔を驚愕と、隠しきれない知識への「飢え」で歪ませた。


「草薙……。来るなと言ったはずだ」

 吉川所長が苦々しく告げるが、草薙はそれを無視してフィンに歩み寄ろうとする。


「所長、これは何です? この高エネルギー体……魔素と核融合が完璧に調和している。これこそが、我々が、いや私が求めていた『完全な動力源』ではないのか!」


「やめるんだ、草薙! それは、僕たちの未来の……」

 佐野が制止しようとした瞬間、管制室の空間がガラスを砕くような音を立てて割れた。


次元の裂け目から溢れ出したのは、どす黒い魔素と、油の焦げるような腐臭。

 そこから、重厚な機械の駆動音と共に、一人の「怪物」が姿を現した。


「――久しいな、『私』よ。その若く、脆弱で、可能性に満ちた肉体が懐かしい」


現れたのは、未来から追ってきたサイボーグのクサナギだった。

 全身の九割以上が漆黒の複合装甲と人工神経に置換され、背中からは数本の機械腕マニピュレーターが触手のように蠢いている。その顔の半分は剥き出しの電子眼となり、赤く明滅していた。


「な……ッ!?」

 若き草薙は、あまりの衝撃に言葉を失い、数歩後ずさった。

 目の前に立つ化け物は、紛れもなく自分の「網膜パターン」と「声紋」を持っていた。だが、そこには人間としての矜持も、技術者としての倫理も、塵一つ残っていない。


「貴様……。私は、将来、そんな醜悪な姿になるというのか……?」


「醜悪だと? 愚かな。これは『進化』だ」

 未来のクサナギは、機械の指を鳴らした。それだけで管制室のシステムが上書きされ、モニター群が真っ赤な警告画面へと切り替わる。


「1100年後の私は、神に等しい。だが、あと一歩が足りなかった。この少年、フィンの胸に宿る『完成された核融合炉』……それさえあれば、私は時間の因果すら完全に掌握できる。過去の私よ、お前も所長の甘い言葉に毒される前に、私の側へ来い。お前の脳にある『草薙式演算アルゴリズム』を今すぐ私と同期させれば、この原発は瞬時に私の支配下に入る」


未来のクサナギの言葉は、若き草薙にとって抗いがたい「誘惑」でもあった。

 所長の廃炉方針を疎ましく思い、無限のエネルギーを夢見ていた彼にとって、目の前の化け物は、自分の理想が行き着く「究極の完成形」に見えたのだ。


吉川所長が絶叫する。

「草薙! 騙されるな! そいつは、お前の成れの果てかもしれないが、お前そのものではない! そいつのために、どれだけの命が……どれだけのサンテス族が犠牲になったと思っている!」


「サンテス族……? 人工生命体のことか? 所長、私は以前から言っていたはずだ。目的のための犠牲は、技術の進歩において『コスト』に過ぎないと!」


若き草薙の瞳に、危うい光が灯る。

 彼は未来の自分の姿に絶句しながらも、その圧倒的な「力」に惹きつけられていた。


「……マスター。若き草薙の脳波、同調率が上昇中。未来のクサナギによるハッキングが、過去の自分を『ゲートウェイ』にして、原発の基幹システムを食い破ろうとしています!」


サンテスの警告がフィンの脳内を叩く。

 フィンは、まだポッドの中で眠るアリシアたちの前に立ち塞がった。


「させない……。草薙さん、あなたは、まだやり直せるはずだ。吉川所長も、佐野さんも、あなたを見捨ててなんかいない!」


「黙れ、実験体ごときが!」

 未来のクサナギが背中の機械腕を伸ばし、フィンを捕らえようとする。


その時だった。

 若き草薙が、未来の自分の足元に転がっていた消火斧を手に取り、あろうことか「未来の自分」が接続していたメインケーブルを、渾身の力で叩き切ったのだ。


激しい火花が散り、未来のクサナギがノイズ混じりの悲鳴を上げる。


「何をするッ! 過去の私よ!」


「……勘違いするな」

 若き草薙は、冷汗を流しながら、軽蔑の眼差しを未来の自分に向けた。


「私は確かに無限のエネルギーを望んでいるし、所長のやり方は甘すぎると今でも思っている。だがな……『私』が、こんな錆び付いた歯車の塊のような姿になるなど、断じて認めん! 技術者なら、もっと洗練された、もっと美しい解決策を提示してみせろ! 1100年もかけて、結局『子供の心臓』を盗みに来るのがお前の到達点だというなら――お前は、私にとって史上最低の失敗作だ!」


「……よく言った、草薙!」

 佐野宏樹が叫び、コンソールを叩く。

「フィン君! 今だ! 過去の草薙が接続を遮断した! 今なら、サンテスの全リソースを叩き込める!」


「うん……ッ!!」


フィンの核融合エネルギーが、過去と未来、二人の草薙が激突する狭間で爆発した。

 黄金の光が管制室を埋め尽くし、未来のクサナギのホログラムが激しく乱れ始める。


だが、未来のクサナギは消えなかった。彼は次元の裂け目を力ずくでこじ開け、実体を持った機械兵の軍勢を、1100年前のこの部屋へと呼び込み始めた。


「……失敗作だと? ならば、その生意気な脳ごと、1100年後の私へ統合してやろう。過去も未来も、すべては私のパーツに過ぎないのだからな」


医療ポッドのハッチが開く。

 完全回復したアリシアが、新調された『光子駆動剣・エクスカリバー』を握りしめ、不敵な笑みを浮かべて立ち上がった。


「――おい、鉄クズ。あんたの顔、前から気に入らなかったんだ。特に、その『お前らの家族を傷つけても何とも思わない』ってツラがね!」


《鉄の梟》、復活。

 1100年前の中央管制室は、新旧の技術と、時を超えた家族の絆が激突する、史上最大の戦場へと変貌した。

「未来の自分が失敗作である」と断じる若き草薙、格好良かったですね! 彼なりのプライドが、決定的な裏切りを防ぎました。

しかし、未来のクサナギも引き下がりません。ついに次元を超えた軍勢を投入し、管制室は乱戦状態に。

次回、第49話。吉川所長、佐野、フィン、そして若き草薙の「四世代技術者」による、即興の廃炉作戦が始まります!

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