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第40話:鋼の血と、千年の鼓動

明かされるサンテス族の正体。1000年の時を越えた宿命の中で、フィンは「人間」としての自分を見つめ直します。

アークスハイムの会見場に、重苦しい静寂が満ちていた。

 皇帝カイ・フォンティーナ・ランドルフ100世。その名に刻まれた「カイ」の響きに、フィンの脳内のサンテスが激しく共鳴する。


「……1000年前、我が先祖カインは、かつての世界を滅ぼした『所長』を原発と共に封印した。だが、伝承にはこうある。『1000年の後、サンテスの血を引く者が禁忌の鍵となり、所長を呼び覚ます』と。我らランドルフ一族は、その破滅を止めるために貴様らサンテス族を狩り続けてきたのだ」


皇帝の使者が語る真実は、あまりにも残酷だった。

 サンテス族とは、かつて人間が作り出した有機体アンドロイドの末裔。胸の奥に埋め込まれたマイクロ原子炉が、彼らに「不眠」と「魔素への耐性」を与えていた。彼らは、生まれながらにして原発再稼働のための「生体パーツ」として設計されていたのだ。


「……僕が、アンドロイド?」


目覚めたばかりのフィンが、震える手で自分の胸を触る。

 トクトクと刻まれる鼓動。温かい体温。けれど、サンテスが提示する自身の構造図には、心臓の隣で静かに、けれど永劫に燃え続ける核融合炉の輝きが描かれていた。


和睦を受け入れ、一行は帝都へと向かう魔導列車の中にいた。

 父ガイルの遺体返還、そして「所長」の完全封印。それが、この不毛な戦いを終わらせる唯一の道だと判断したからだ。


車窓を流れる景色を眺めながら、フィンは一人、葛藤の泥濘に沈んでいた。


(サンテス……僕は、人間じゃないの?)


『――定義によります。構造上、貴方の細胞の30%はナノマシンで構成され、エネルギー源は核融合です。ですが、マスター。過去1000年の世代交代を経て、貴方のプログラムは変異し、「生殖」と「感情の自律進化」を獲得しました。現在の貴方は、アンドロイドから進化した「新人類」であると解析されます』


(新人類……。でも、結局は『所長』を呼び起こすための機械なんだね。僕がいるだけで、世界を滅ぼす可能性があるんだ……)


フィンの指が、窓ガラスに触れる。冷たい感覚。

 もし自分がただの機械なら、この胸の痛みは何なのだ。死んだリンを思って流した涙は、ただの潤滑液の排出だったのか。父を愛おしいと思う心は、論理回路のバグに過ぎないのか。


「フィン。……そんな顔をするんじゃないよ」


いつの間にか、アリシアが隣に座っていた。

 彼女はフィンの小さな手を、そのゴツゴツとした、けれど温かい掌で包み込んだ。


「アンドロイドだか何だか知らないけどさ。私たちが一緒に食べて、笑って、喧嘩して……お説教までされたあの時間は、偽物だったって言うのかい?」


「……アリシアさん」


「心臓の代わりに原子炉が入ってる? 上等じゃないか。だったら、その熱でお腹を空かせた子供に温かい飯を作ってやればいい。人を殺す機械として作られたなら、それを裏切って人を救うのが、一番の『ざまぁ』だと思わないかい?」


アリシアの乱暴で、けれど真っ直ぐな言葉。

 フィンの瞳に、少しずつ色が戻る。

 その足元で、ハクと赤竜がフィンの「葛藤」を真似しようとしていた。


「クゥ……」

「キュイ……」


二匹は、自分の胸に手を当て、深刻な顔で自問自答するフリをする。

 ハクは「自分は狼なのか、それともモフモフの偶像アイドルなのか」という虚無を見つめる目。

 赤竜は「自分はトカゲなのか、それとも世界を焼く火種なのか」という哲学的な苦悩を浮かべた結果、眉間に皺が寄りすぎて、般若のような恐ろしい形相で固まってしまった。


「……あはは。二人とも、ありがとう」


フィンは、二匹のあまりに不器用で、けれど「自分を元気づけよう」という意志に満ちた真似を見て、ふっと笑みが溢れた。

 機械には、これほど滑稽で愛おしい模倣はできない。

 1000年の時が、彼らをただの道具から、魂を持つ生命へと変えたのだ。


「……サンテス。僕は、所長を呼び覚ます鍵にはならない。所長を……僕の家族が作った過去の過ちを、この手で終わらせる。それが僕の、人間としての使命だ」


『――了解。マスターの意志を、メインプログラムに上書きします。……目的地、帝都ヴァルガルドまで、あと三時間』


列車の汽笛が、荒野に響く。

 それは、過去の呪縛を断ち切るための、新しい時代の産声のようだった。

サンテス族が有機アンドロイドだったという衝撃の事実! しかし、1000年の歴史が彼らを「生物」へと進化させていました。

アリシアさんの励まし、そして従魔たちの「哲学的な顔芸」が、フィンの心を救います。

いよいよ第3章完結。舞台は帝都、そして「所長」が眠る原発へ!

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