第37話:アークスハイム防衛戦・前哨、白銀の雷光
帝国騎士団vs特権部隊《鉄の梟》。新兵器が火を吹く、圧倒的な無双戦が開幕します。
アークスハイムの北方を守護する第一防衛境界線。そこには、かつてない異質な「軍勢」が集結していた。
ヴァルガルド帝国の精鋭「鉄血騎士団」。本来、彼らは重厚なプレートメイルに身を包み、魔石を動力源とする鈍重な魔導戦車を伴うはずの集団だ。しかし、経済制裁によってその機動力は死に絶えていたはずだった。
だが、今、防壁を監視するアークスハイム正規軍の兵士たちは、己の目を疑っていた。
「……何だ、あれは。騎士たちが……浮いているのか?」
帝国騎士たちの背部には、アイゼンから提供された「高出力外部燃焼式ブースター」が無理やり換装されていた。魔石を必要とせず、大気中の魔素を強引に圧縮・爆発させて推進力を得るその装備は、使用者の肉体を顧みない禁忌の兵装だ。
『全機、最終リミッター解除。目標、アークスハイム第一外郭門。……突撃せよ!』
ゾルザル将軍の冷徹な号令と共に、数千の帝国騎士たちが爆音を撒き散らしながら加速した。かつての「重騎士」の概念を覆す、弾丸のごとき突進。その速度は、アークスハイムが誇る自動迎撃石弓の旋回速度を遥かに上回っていた。
ドォォォォォン!!
激突の瞬間、第一外郭の堅牢な石造りの門が、物理的な衝撃と熱線によって飴細工のように捻じ曲がった。
「ひぃっ、防壁が突破された! 予備兵装を出せ! 早く――」
「退きな、お前たち。ここからは《鉄の梟》の仕事だ」
パニックに陥る正規軍を掻き分け、一人の女性が前に出た。団長アリシアだ。彼女が右手に持つ『光子駆動剣・エクスカリバー』が、待機状態の静かなハミング音を響かせている。
「野郎共! フィンの技術が本物か、帝国に分からせてやるよ!」
アリシアの号令と共に、傭兵団の幹部たちが動いた。
まず飛び出したのは、オオカミ獣人のギバザだ。彼はフィンの「反発駆動ユニット」を全開にし、迫りくる帝国騎士の真っ只中へと飛び込んだ。
「遅いんだよ、鉄クズどもが!」
ギバザの姿が掻き消える。次の瞬間、先頭を走っていた帝国騎士三名の首が、同時に宙を舞った。ギバザの脚力が生む爆発的な加速に、アイゼン製のブースターすら追いつけない。
一方、敵の魔導重装甲兵が放った大型の火炎弾が、副団長ガルドを直撃した。
「旦那ぁ!?」
団員の悲鳴が上がるが、着弾の瞬間、ガルドの胸部に装着された魔道具から、透明な光の幾何学模様が展開された。
「……ふん、熱くも痒くもねえな」
『重力偏向盾』。
直撃した火炎弾は、ガルドの肉体に触れる直前で物理的な「ベクトル」をねじ曲げられ、明後日の方向へと霧散した。ガルドは盾を持たない両手に一本ずつ、鉈のような双剣を握り締め、不動の守護神として立ち塞がる。
「道を開けるぞ。――リッカ、合わせな!」
「了解しました。……掃除の時間ですね」
参謀リッカが、黒いカーボンファイバー製の長剣を抜き放つ。
ガルドが双剣で敵陣を豪快に切り開き、その隙間にリッカが「神速」で滑り込む。一秒間に十回を超える超高速の刺突。精密機械のように急所のみを貫くその剣筋は、アイゼン強化装甲すら豆腐のように切り裂いていった。
防壁の上。フィンはサンテスを通じて戦況を俯瞰していた。
脳内には、味方のバイタルデータと、敵の兵器のエネルギー波形がリアルタイムで投影されている。
(サンテス、アリシアさんの『エクスカリバー』の励起状態は?)
『――問題ありません。フォトン収束率98%。マスター、最大出力放射の許可を』
「……。アリシアさん、今です!」
フィンが叫ぶ。通信用耳飾りを通じて声を受け取ったアリシアが、薄く微笑んだ。
「待たせたね。――輝け、カリバーン!」
アリシアが細剣を天に掲げた瞬間、周囲の魔素が急速に一点へと吸い寄せられた。
細い刀身が、一瞬で数百メートルに及ぶ「光の巨剣」へと膨れ上がる。それはもはや物理的な武器ではなく、純粋なエネルギーの断罪であった。
「――っらぁぁぁぁ!!」
アリシアがその光を薙ぎ払う。
轟音すら置き去りにする光の奔流。前方へ展開していた帝国騎士団の一個大隊が、叫ぶ暇もなく光の中に溶け、蒸発していった。後に残ったのは、ガラス状に焼けた地面と、完全な空白だけだった。
「……化け物め。これが、《鉄の梟》の力か」
後方で指揮を執っていたゾルザル将軍が、冷や汗を流しながら呟く。
アイゼンの技術供与を受け、無敵だと信じていた帝国騎士団が、たった数名の傭兵によって一方的に蹂躙されている。
だが、その様子をアイゼンから観測していたクサナギは、モニター越しに静かに笑っていた。
「素晴らしいデータだ。出力、収束率、そしてフィンの演算誘導……。……さて、前座(帝国)の役割はここまでだ」
戦場が一段落し、アリシアたちが息を整えている時。
フィンの足元では、いつもの「それ」が始まっていた。
ハクと赤竜の幼子が、アリシアの「エクスカリバーによる一撃」を真似しようとしていたのだ。
「クゥ……ワン!」
ハクが、アリシアの鋭い剣筋を真似て、右の前足を高速で振り抜いた。
だが、ハクは伝説のフィンリルの末裔。その一振りは、真空波を生み出し、周囲に残っていた帝国の残骸を粉々に粉砕しただけでなく、その余波で味方の陣地の一部までをも消し飛ばした。
「ギュイイイィィィッ!!」
赤竜の幼子は、エクスカリバーの「光の奔流」を再現しようとした。
小さな口をいっぱいに開き、喉の奥から「光子ブレス」を放つ。それは美しくも凶悪な紫色の閃光となり、帝国の敗走兵たちが逃げ込んだ森ごと、一瞬で灰に変えてしまった。
二匹は、誇らしげにフィンを見上げ、満面の笑みを浮かべた。
ハクは牙の隙間から不気味な青い放電を漏らしながら目を血走らせ、赤竜は「自分の破壊力に悦んでいる」かのような、怨嗟に満ちた邪悪な笑みを浮かべて。
「「「「うわあああぁぁぁ!! 魔王の……魔王の子分たちが本気を出したぞ!!」」」」
生き残った帝国兵だけでなく、アークスハイムの正規軍までもが、二匹の「可愛すぎる真似」という名の殺戮演舞に恐怖し、脱兎のごとく逃げ出した。
「あ、あはは……。ハク、竜ちゃん……、もう少しだけ、手加減してくれると嬉しいかな」
フィンは、もはや恐怖で誰も近寄らなくなった「白銀の戦場」の中心で、苦笑いを浮かべるしかなかった。
前哨戦は、アークスハイムの圧勝に終わった。
しかし、フィンの脳内ではサンテスの警告音が、これまでで最も激しく鳴り響いていた。
『――緊急警告。方位3-6-0。地下より巨大な熱源が接近。これは……コードネーム「ガーディアン」。アイゼンの真の守護神が、起動しました』
地響きが、アークスハイムの地下から響き渡った。
アリシアさんのエクスカリバー、まさに「約束された勝利」の威力でしたね!
しかし、従魔たちの「真似」のスケールが大きくなりすぎて、もはやどっちが敵か分からない状態に(笑)。
次回、ついにアイゼンの真の兵器が姿を現します。地下からの接近……一体何が来るのでしょうか。
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