表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/37

第36話:サンテスの警告、見えない電脳戦

見えない「情報の戦場」。アイゼンの領主クサナギによる、卑劣かつ高度なハッキングがアークスハイムを襲います。

アークスハイムの地下深部。そこには、かつての魔導文明の遺構を利用した、この大陸最大の「中央魔導管制室」が存在する。

 無数の魔力回路が青白い光を放ち、血管のように壁を這う中、フィンは一人、巨大な水晶型コンソールを前にしていた。


「……サンテス。アイゼン側の動きは?」


フィンの問いに、脳内の電子音声が即座に応答する。


『――状況を報告します。方位0-4-5、アイゼン領内より、超短波による指向性通信を傍受。通信プロトコルは旧世界の軍事規格「レベル3」を使用。目標はアークスハイムの防衛ネットワーク――第一隔壁の「精神防護壁サイコ・ファイアウォール」です』


フィンの瞳が、青白い光を帯びて明滅する。

 アイゼンの領主クサナギ。彼は、帝国を武力で突撃させ、その混乱に乗じてアークスハイムの「脳」をハッキングしようとしていた。


「物理的な侵攻は囮……。本当の狙いは、この都市の機能を内側から停止させることだね」


『肯定します。現在、クサナギにより外部から「強制上書きコード」が送信されています。これを許せば、都市を囲む障壁は消失し、自動迎撃システムはすべて味方を狙う「叛逆者」へと変わります』


フィンは、コンソールに小さな掌を置いた。

 サンテスの演算能力をアークスハイムの防壁へと同期させる。目に見える火花こそ散らないが、そこでは光速の百万倍に及ぶ「電子の攻防」が繰り広げられていた。


その頃、都市アイゼンの最上階。

 クサナギは無数のホログラムパネルを操作し、愉悦に近い笑みを浮かべていた。


「……ほう、アークスハイムの防御プログラムが、私のコードを『理解』して弾き返したか。あの子――フィンか。期待以上の処理速度だ」


クサナギの指先が、鍵盤を叩くように高速で動き回る。

 彼はこの世界において、唯一「ことわり」を知る者だ。ドローン、放射能、量子AI。かつての世界の遺産を「力」として操る彼にとって、この中世的な世界はただの砂上の城に過ぎない。


「だが、あの子には決定的に足りないものがある。それは『悪意』と『経験』だ」


クサナギが黒いコマンドを入力した瞬間、アークスハイムの管制室で火花が散った。


「――っ、く……!?」


フィンが苦鳴を上げ、膝をつく。

 サンテスが警告を鳴らす。


『緊急事態。敵は正規の通信経路ではなく、都市に住む市民たちの「個人用魔道端末」を経由して、数十万のノイズを同時多発的に発生させています! これは……「DDoS攻撃」の魔導応用版です!』


都市の機能が麻痺し始めた。街灯が明滅し、エレベーターが停止し、市民たちの悲鳴が地下まで届く。

 善良な人々が持つ便利な道具が、知らぬ間にフィンを、そして都市を攻撃する「武器」へと変えられていたのだ。


「……ひどい。こんなことのために、技術を使うなんて」


フィンの指が震える。

 だが、その時。背後に立つ影が、そっとフィンの震える肩に手を置いた。


「フィン、一人で抱え込むんじゃないよ。私たちは、そのためにここにいる」


アリシアだった。彼女の背後には、ガルド、リッカ、そしてギバザといった《鉄の梟》の幹部たちが勢揃いしていた。


「リッカさん! アリシアさん……でも、これは魔法じゃなくて――」


「理屈は分からんが、お前の敵が『姑息な手口』を使ってることだけは分かった。……おい、リッカ。出番だろ」


ガルドが不敵に笑い、参謀リッカが眼鏡を指で押し上げた。

 リッカは、ネズミ獣人王家の血筋に伝わる、特殊な「共感覚」の秘術を持っていた。


「フィン君。君が『見えない盾』で防いでいる間に、僕がこの都市を駆け巡り、物理的に『ノイズの源』を特定して回る。……物理攻撃には、物理で返す。それが傭兵の流儀だ」


「ギバザ! リッカを運べ! アリシア団長、我々は管制室の物理防衛を!」


一転して、静まり返っていた地下室が戦場へと変わる。

 リッカはギバザの背に飛び乗り、音速を超える『神速』と『俊足』のコンビネーションで、都市中のハッキングポイントを潰しに跳んだ。


「……あ、ありがとう。サンテス、僕たちも『反撃』だ!」


フィンは、仲間の存在がもたらす心の熱を、そのまま演算能力へと転換した。

 一人では支えきれなかった情報の荒波も、仲間が物理的なノイズを削ぎ落としてくれるなら、耐えきれる。


フィンの意識の中で、サンテスのロゴが金色に輝き、逆侵食コードが生成される。


『逆解析完了。目標・アイゼン通信拠点「タワー・オブ・アイゼン」。――カウンター・プログラム、送出!』


「……なにっ!?」


アイゼン側。クサナギの操作パネルが、唐突に真っ赤なエラー画面に染まった。

 次の瞬間、アイゼンを象徴する巨大な時計塔が、物理法則を無視した「過負荷」によって、青白いプラズマを吹き出しながら沈黙した。


「……ハッキングを逆探知し、こちら側のハードウェアを直接焼き切ったというのか。……ふふ、あはははは!」


クサナギは崩れ落ちた機材の前で、狂ったように笑い出した。


「素晴らしい! 実に素晴らしいぞ、フィン! 君はすでに、私と同じ『神の視座』に立ち始めている!」


見えない電脳戦は、フィンの勝利で幕を閉じた。

 だが、クサナギの瞳には敗北の影など微塵もなかった。


「……これで確信した。力ずくで君を奪うには、生身の兵士では足りない。……『あれ』を出そう。アイゼンの真の守護神を」


アークスハイム管制室。

 戦いを終え、全身から滝のような汗を流して倒れ込むフィン。

 そんな彼の姿を、ハクと赤竜が心配そうに覗き込んでいた。


「クゥ……」

「ギュイ……」


二匹は、フィンの「疲れ果てて、安堵した表情」を一生懸命に真似しようとした。

 だが、その結果。

 ハクは死の淵から蘇ったゾンビのような「虚無の瞳」で口を半開きにし、赤竜は安堵のあまり喉から毒素を含んだ「紫色の中和ガス」を噴き出しながら、阿修羅のような形相で天を仰いだ。


「「「「死んでる!? フィン様が、あの魔物たちの毒気で殺されてるわぁぁ!!」」」」


駆けつけたメイドたちが、白目を剥いて次々と卒倒していく。


「あ、あはは……。僕は大丈夫だよ、みんな……」


フィンは苦笑いしながら、仲間の絆と、これから訪れるさらなる激戦を予感していた。

 アイゼンが見せた「技術」の底は、まだ見えていないのだ。

電脳戦という、これまでの魔法ファンタジーを越えた異色のバトルを描きました! フィンくんとリッカさんたちの連携、熱かったですね。

そして従魔たちの「真似」は、もはや周囲を殺傷するレベルに……(笑)。

次話、アークスハイム防衛戦・前哨。ついに帝国騎士団が、アイゼンの「贈り物」を手に現れます!

評価とブックマーク、ぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ