『46億年の記憶』 ～命、それは奇跡の旅路～

わたし

　あれっ？　

　ママって意外にそそっかしいのね。

　沐浴実演で失敗しちゃったみたい。

　でもね、失敗は成功の母と言われているみたいだから、わたしを沐浴する時はうまくいくと思うわ。

　全然心配していないから大丈夫よ。

　ところでね、今、ママから抗体(こうたい)を貰っているのよ。

　抗体って知ってる？　

　感染を防ぐタンパク質のことよ。

　ヒトの体を攻撃する抗原(こうげん)を取り込んで除去してくれるの。

　そのことを抗原抗体反応っていうんだけど、抗体がないと大変なことになるの。

　〈おたふくかぜ〉や〈はしか〉、〈百日咳〉や〈猩紅熱（しゃこうねつ）〉が襲ってきた時にわたしを守ってくれなくなるのよ。

　それに、細菌感染やウイルス感染にもかかりやすくなるの。

　〈かぜ〉や〈インフルエンザ〉などね。

　だからそんな病気にならないように、ママは一生懸命になって抗体を渡してくれているの。

　自分で抗体を作れるようになるまではママの抗体がわたしを守ってくれるのよ。

　それから、腸の中にラクターゼという酵素が増えてきたの。

　これはとっても大事な酵素なのよ。

　どうしてかって？　

　それはね、ママの母乳に関係があるの。

　母乳に含まれる糖質の95パーセントは乳糖なんだけど、これを消化吸収するためにはラクターゼが必要なの。

　これがないと母乳を消化吸収できないのよ。

　だから産まれる前からこれを腸に蓄えているの。

　わかった？　

　出産準備はママだけがするんじゃないのよ。

　わたしも精一杯頑張っていることを覚えておいてね。