再び魔法陣
暗い螺旋階段を手探りで、どのくらい降りたか分からなくなった頃、
「ここだ。」
アンソニー様が鍵を回す、小さな音が聞こえました。
扉を開けた気配がするけれど、中も暗い。
「%$#@!&£€」
アンソニー様が何かを呟くと、明るくなり、部屋の中がはっきりと見えるようになりました。
「魔法って、あるのねえ〜」
こんな時だけれど、感心してしまう。アンソニー様の話によると、聖女の産んだ王子にだけ、魔法の力が生じるのだそうです。
つまり、聖女召喚→王族と結婚→魔力で聖女召喚。を繰り返していることになりますね。
「魔法はあるけど、普段使うわけではないからね。王族のハイクラス感、、みたいな感じかな。」
アンソニー様は、肩をすくめてみせました。
「さあ、邪魔が入る前に、さっさと済ませよう。」
「はい。よろしくお願いします!」
部屋の中央に、大きな魔法陣が描かれていました。私がこの世界にやってきた場所。
「あ、ちょっと待って!着替えます!」
「そ、そうだね。あっち向いてるよ」
アンソニーが慌てて背中を向けました。私はその間に、隠し持ってきていたセーラー服に着替えます。
「僕一人では、決断できなかったと思う。」
背を向けたまま、アンソニー様が呟きました。
「絶対に成功させるよ。」
「頑張ってください。マリア様のためにも。」
アンソニー様は、今まで何年もかけて、国中の魔法と聖女の召喚に関する本を調べていたそうです。でも、王妃様に過去の記憶がなく、いつも穏やかにニコニコとされていたため、召喚してこの世界に来たということに関して半信半疑であったと。
私が現れて、ようやく信じられるようになったと話してくれました。
そして、逆戻りの召喚が出来るかも知れないということも。
「君がここを去ったら、魔法陣を破壊するよ。二度と会えなくなっちゃうけどね。」
「お名残惜しいです。マリア様によろしくお伝え下さいね。」
「ああ。今頃、マリーも頑張っているだろう。」
今頃、マリア様はエメラルダと二人で、アンソニー様の集めた魔法に関する本を燃やしているはずです。何十冊もあると聞いているので、こっそりやるには大変な作業です。
アンソニー様、マリア様のように引き裂かれる恋人達、そして王妃様や私のように記憶を失い、その悲しみさえ分からなくなっていく召喚聖女。そんな人が二度と出ないよう、魔法陣を壊してほしいという私の願いを、アンソニー様は笑顔で受け入れてくれました。
『母はおっとりした性格なのだと思っていたけれど、日々変化していく君を見ていて分かったよ。記憶と一緒に、思考力や感情が失われていった結果だったんだね。これは恐ろしいことだよ。君がいなければ、僕だけでは気付けなかった。ありがとう。』
と爽やかな笑顔で。ほんとに顔がイイ、、、
認めたくないけど、金髪イケメンは心もイケメンでした。
「準備OKかな?」
魔法陣の真ん中に立った私を、金髪イケメンが見つめます。優しい笑顔で。
「ああ、そうだ!マリア様とは、これからどうされるのですか?」
「んー、明後日、君との代わりに結婚式をあげられるなら、それが一番だけど、ダメならアムステール行きかな、、心配しなくても、僕がちゃんとマリーを幸せにするよ、、、さあ、元の世界の事を考えて!」
元の世界、、、実はもうほとんど何も思い出せません。笑顔だけ。名前も思い出せない少年の笑顔だけ。それでも、戻る道標になるかなあ
「%%$#&£※※※」
魔法陣からオーロラのような光が出て、私を包み込みました。
さよなら、アンソニー様、マリアさ、、、、
ここまで、お読みいただきありがとうございます(^^)
次回投稿が最終話になります。
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