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3.少女の正体、戦う理由







 ギルドに戻って、意識を失ったエリミナを処置室に連れていく。

 すると駐在の治癒師が対応してくれた。その治癒師曰く、エリミナは突発性の魔力不足になっているとのこと。不安に駆られたが、一晩眠れば目を覚ますらしい。

 それを聞いて、ホッと胸を撫で下ろした。


「それにしても、あれはなんだったんだ……?」


 けれども、俺の中には一つの疑問が浮かぶ。

 それというのも、レッドドラゴンと相対した時のこと。エリミナと手を繋いだら不思議な力が湧き上がってきた。しかしそれは、とても自身に馴染むもの。

 握った自分の拳を見つめる。

 そして、その感覚はいまだこの手にしっかりと残っていた。


「アレは、俺がやったんだよな」


 気が付けば俺は、レッドドラゴンが魔素に還っていく様を見つめていた。

 最初は他の誰かが助けてくれたのかとも思ったが、その後に冒険者カードを見ると、そこにはレッドドラゴン一体討伐の魔法文字。

 つまり、それは俺があのドラゴンを倒したという証拠だ。

 受付の女性も、それには目を丸くしていた。


「これがギルド長の言ってた、潜在能力、なのか……?」


 でも、ハッキリとしない。

 そんな都合よく、その潜在能力というモノが開花するだろうか。

 そう思った時だった。目の前――処置室のベッドに眠るエリミナが、小さく声を発したのは。彼女は少しだけ苦しそうな表情を浮かべ、目を開いた。


「レオン、さん……?」

「あぁ、エリミナ。目が覚めたんだね」


 そして俺の名前を呼ぶ。

 やや汗ばんだ肌に、上気した頬。

 潤んだ瞳がこちらの顔を映していた。


「良かったぁ。レオンさんが無事で……」


 そしてエリミナは、柔らかな笑みを浮かべてそう言う。

 少女のその姿を見て少し胸が痛くなるものの、俺はこう訊ねた。


「ねぇ、エリミナ。もしかして、俺に何かしたの……?」


 質問は一つ。

 手を繋いだ瞬間に、何が起きたのか。

 エリミナは手を伸ばす前に何かを唱えていた。それはもしかしたら、俺の潜在能力がいきなり花開いたことに、なにか関係があるのではないか。

 そう思った。すると少女は、しばしの沈黙の後にこう言う。


「笑わないで、聞いて下さいね? 実は私は――」


 それは、思いもよらない告白だった。



「――女神、なんです」



 俺はそれに一瞬だけ言葉を失う。

 だが、どうにか声を絞り出してこう答えた。


「女神……。女神って、あの?」

「レオンさんが想像しておられるのは、きっと女神アリアンロッド様のことだと思います。あの方は、この世界を統べておられる方ですから」

「え、あぁ。うん……」


 女神アリアンロッド――それはかつて、大英雄アキラ・サトウに力を貸したと言われている。この世界で最も信仰を集める神様だった。その他にもたくさんの神はいたけれども、女神といえば誰か、と問えば全員がアリアンロッドと答える。

 かの女神は、この世界の住人にとってそれほどの存在だった。


「私はアリアンロッド様にお仕えする女神のうちの一人です。しかも数ある神の中でも、最も信仰が少なく、力の弱い女神なのです」


 まだ判然と状況理解できないこちらに、エリミナは続ける。

 そして、さらに申し訳なさそうな声色になってこう言うのであった。


「一つだけ、レオンさんに謝らなくてはならないことがあります」――と。


 そう前置きしてから、少女の告げた話は耳を疑うモノであった。



    ◆



「神々の戦争……?」

「はい、そうなんです。いま神々の世界では女神アリアンロッド様を長とする陣営、それに反抗する神々の陣営に分かれています」


 顔色も良くなり、身を起こしたエリミナは静かにそう語る。

 それはあまりにもスケールの大きな話だった。


「大英雄アキラ様が姿を消した頃です。彼というストッパーがいなくなったことにより、反抗する神々による謀反が発生しました。そして、人間界に降りて悪さをするようになったのです」

「悪さって、例えば……?」


 俺は唾を呑み込みながら、訊ねる。

 すると返ってきたのは、こんな言葉だった。


「例えば、魔物を操り――従わない人間の集落を滅ぼしたり、です」

「――――――――――っ!」


 それに俺は、心臓を鷲掴みされたような錯覚に陥る。

 まさかと思った。だから、気付けば俺はエリミナにこう訊いていた。


「その中に、ココル村、ってのはあるのか?」――と。


 すると少女は驚き、しかしすぐに目を伏せてこう答えた。


「はい。反抗する神々によって一番に滅ぼされた村が、そのような名前だったと記憶しております」――と。


 その回答に、俺は拳を握りしめる。

 何故ならそこは、今は亡き俺の故郷の名前だったからだ。

 つまり俺の大切な故郷、あの平和な村は――そいつらの横暴によって……!


「どうされたのですか、レオンさん。顔色が――」

「――いいや、なんでもない。それでアリアンロッド様は、なにか対抗策を講じたりはしていないのか? 好き勝手やらせてるわけじゃないだろ?」


 気遣うエリミナの言葉に、俺はやや強い語調で返してしまった。

 ハッと気づいた時にはもう遅い。しかし幼い女神は、神妙な面持ちで言った。


「……それが、私なのです」

「エリミナ、が……?」


 俺は首を傾げる。

 それはいったい、どのような意味なのだろうか。


「私の力は、同盟を結んだ者の潜在能力を引き出す、というものです。かつてのアリアンロッド様のように、英雄となる者を探せと、そう言われてきたのです」

「英雄……」


 俺の呟きに、彼女は頭を下げた。


「申し訳ございません。私はレオンさんを巻き込んでしまいました。ただ一つ理解していただきたいのは、あの時は貴方を救いたい一心だったのです」――と。


 俺はそれを聞いて、ようやくすべてに合点がいった。

 あの力、そして少女の唱えた言葉の意味を。


「今から同盟を解消しても構いません。レオンさんは、本当に――」


 沈黙を続けたこちらの意をどのように受け取ったのか。

 エリミナはそう切り出した。しかし、俺はその言葉を遮る。


「――その心配はないよ。大丈夫」

「レオン、さん……?」


 一連の話を聞いて、俺の決心は固まった。

 村を滅ぼされたから、という復讐の気持ちももちろんある。

 しかし、それ以上に俺の心に響いたのは、その後の少女の言葉だった。


「命の恩人の力になりたい、って思うのは変なことじゃないだろ?」


 そう。そうだった。

 あの時と同じ。俺を救ってくれたあの冒険者と同じだ。

 俺は相手は違えど、窮地を救われた。ならばそれに報いなければならない。


「俺でよければ、力を貸すよ。エリミナ」


 そう言って、俺は少女に手を差し出した。

 これは契約を結ぶようなモノではない。ただそれでも、もしかしたらそれよりも重要な意味を持っているかもしれなかった。


「……! レオン、さんっ!」

「わっぷ!?」


 するとエリミナは俺に抱き付いてきた。

 そのまま、俺たちは処置室の床に転がることになる。


「あわわわっ! すみません、大丈夫ですか!?」

「う、うん。なんとか……」


 苦笑いを浮かべる俺たち。

 まだよく分からないし、前途は多難だった。



 それでも何か。

 不思議と大丈夫だと、そう思えたのだった……。



 


次の更新は20時頃!

もしよろしければブクマ、下記のフォームから評価など。

応援よろしくお願い致します!!


<(_ _)>

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