2.レッドドラゴンとの戦い、目覚める力
幼い俺は倒れていた。
霞む視界に映ったのは、多くの魔物が闊歩する村。
何が起きたのかは覚えていない。それでも、故郷である場所が、魔物によって蹂躙された事実はあった。そして俺はたまたま生き残っただけ。
もうじき、家族と同じ場所に行くことになる。そう思った。
『良かった。キミはまだ、生きているんだね』
その時だ。不意に声が聞こえた。
男性のそれは、しっかりと憶えている。俺は、曖昧な意識で訊ねた。
『あな、たは……?』
いったい何者なのか。
それを、静かに問いかけた。すると彼は小さく笑って――。
『……なに、ただの冒険者さ』
――そう、答えたのである。
それこそが、俺の冒険者としての原風景。
憧れであり、目標であり、たどり着きたい場所であった。
◆◇◆
ドラゴンがけたたましい叫び声を上げる。
先日、偶然にも倒したワイバーンなんかとは格が違った。
コイツは竜種族に分類される魔物の中でも桁違い。赤い鱗はその辺りの金属より遥かに強靭で、せめてもの弱点といえば腹部くらいか。そこには鱗がない。しかし、その腹を裂くには当然ながら懐へ潜り込まなくてはいけなかった。
「それに、潜り込めたとして……」
俺の持っている剣が、その分厚い皮を破れるか。
それが問題だった。
「いや、駄目だ。勝とうとするな――俺はあくまで時間稼ぎだ」
しかし、そこで改めて自分に言い聞かせる。
そうだった。この戦いは、勝利するためのモノではない。
一人の少女を守るため。俺が理想とした冒険者としての在り方。それを体現するための、存在意義を示すための戦いだった。
そう。それは――。
「あの時の、あの人みたいに!」
――かつて自分の窮地を救ってくれた、あの冒険者のように。
あの人も、決して強いわけでもなかった。決して特別なわけでもなかった。ただその胸にあったのは勇気。そして、決意だった。
俺はそれを受け継いだ。あの日、あの場所で。
いつか、貴方のような冒険者になってみせると、そう誓ったんだ。
「きた……っ!」
レッドドラゴンは俺に目がけて【ブレス】を放ってくる。
一直線に伸びてくるそれを、横に転がって回避。続けて薙ぎ払うように繰り出された、太い腕での攻撃は後方に飛び退ってかわした。
どうにか、逃げるだけなら可能らしい。
それでも体力がいつまでもつか、それが問題だった。
――ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!
逃げ回るこちらを小賢しく思ったのか。
レッドドラゴンはその巨体を揺らしながら、一気に距離を詰めてきた。回避は不可能――それならば、一か八かだ。俺は一つの魔法を詠唱した。
「【岩石の穂先】――っ!」
その直後、地面が大きく隆起する。
レッドドラゴンにとってそれは、些細なモノだったかもしれない。もちろん、それをもってダメージを与えられるとは思っていない。
だけれども、時間を稼ぐにはちょうど良かった。
狙い通りにドラゴンは瞬間の迷いを見せたのだから――。
「――――――――っ!」
もしかしたら、今なら一撃を加えることが出来るかもしれない。
そう判断した時にはもう、俺の脚は勝手に走り出していた。倒せるなんてことは微塵も思っていない。それでも、せめてもの時間稼ぎを出来るなら!
「【付加魔法:炎】――っ!」
剣に魔法をかけ、ドラゴンの腹部へと潜り込んだ。
そして――。
「喰らええええぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
――――斬!
肉を断つ生々しい感触が手を伝った。
その後に、音を失った世界でドラゴンがのた打ち回っていた。
致命傷だったらしい。その巨体を前後左右に揺らし、もがき苦しむ。
「あ……っ!」
気を抜いた。
完全に、たまさかの勝利の余韻に酔っていた。
暴れるドラゴンの腕が振り下ろされる。俺を目がけて。
――――あぁ、ここで終わりか。
最期の最後に大金星を挙げたのに、誰にも知られずに終わる。
それは何とも、自分らしい。そう思った。
「さようなら、エリミ――」
短い時の仲間だったけれども、守れてよかったよ。
そう思って、少女の名を呼ぼうとした。
その時だった。
「我、エリミナ・シルフィードは、レオン・シークヘルと同盟を結ぶことを宣言する! 汝、それを受け入れるならば我の手を掴め!!」
少女の声が、聞こえたのは。
彼女は何かを叫びながら俺の方へと駆けてくる。そして――。
「――諦めないでください、レオンさん! 私の手を取って!!」
そう、言った。
不思議な時間だった。
少女から手を伸ばされる。俺は――。
「――――――――!」
無我夢中に、それを取った。
その刹那――俺たちは、眩い光に包まれる。そして、
「間に合った……!」
少女のその言葉と同時に。
俺は迫りくるドラゴンの腕に、向かって剣を払っていた。すると――。
「これ、は……?」
――次に見た時。
目の前に転がっていたのは、全身を切り裂かれたレッドドラゴンの姿。
そして、立ち尽くす俺の身体にすがり付き、気を失っているエリミナだった。
なにが起きたのか、それは分からない。
それでも、危機的な状況から脱したのだと、それだけは分かった。
緊急更新。
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