Play finita est.
ダンジョンの揺れは地上にまで届いていて、おかげで地上もかなりの騒ぎだったらしい。
でも、バレルとカジェロがうまくやったのだろう。
朝までにはすっかり地震も収まっていた。
後に調査隊が派遣されたけれど、原因は不明のまま。
第十三区域に繋がるトンネルも見つからなかったらしい。
僕やリースレットさんは半年間の減俸処分になった。
ダンジョンへの立ち入りは禁止されていたわけだし、最悪の場合は降格や除籍、僻地への移動も覚悟していたんだけどね。
カジェロとはあれ以来、顔を合わせていない。
やっぱりダンジョンに糸をかけたあと、そのまま力尽きたんだろうか。
とはいえ欠片とはいえ"万魔の王"、神様だ。ヒョッコリ戻ってくる可能性もゼロじゃない。そう信じたい。
シーラさんも行方不明のままだ。
リースレットさん曰く、ノモスを出ることを仄めかしていたらしい。
あの人のことだ。きっとどこか別の街で、新しい研究でも始めているんだろう。
……ダンジョンで野垂れ死ぬ姿なんて想像できないし、したくない。
バレルのヤツだけれど、ダンジョンの管理人としてはかなりのサボり魔だろう。
「必要なルーチンはすでに組み込んだ。
ダンジョンは以前と同じように機能するだろうが、異常があれば教えてくれ」
僕にそう告げると、『耳と尻尾』亭のウェイター業に戻ってしまったのだ。不器用ながらガラリヤさんと仲良くしているらしい。
――ジリリリリリリリリリ!
家の中でギルドからの呼び出しチャイムが鳴り響く。
僕は食べかけのトーストを口に押し込むと、慌てて装備を身につけた。
鎖帷子、革鎧、そして、ボロボロのガントレット。
僕とシーラさん、そしてカジェロを結ぶ思い出の品。
防御性能はほとんど期待できないけれど、非効率を愛するのがランクAだ。問題ない。
玄関を飛び出し、自転車で疾走する。
冒険者ギルドの前でリースレットさんと顔を合わせた。
「おはよう、アルフ」
「おはようございます、リースレットさん。今日はちゃんと起きれたんですね」
僕たちの交際は続いている。
とはいえ手を繋ぐのがやっとだったりするんだけどね。
「ああ。君には情けない所を見せたくないからな」
「むしろお世話させてくれる方が嬉しいんですけどね」
「それは人並みの料理が作れるようになってからにしてくれ」
「リースレットさんに言われたくはないですよ」
穏やかな毎日。
カジェロもシーラさんも、もういない。
いつか奇跡が起こって再会できるかもしれないし、あるいは思い出のまま終わってしまうかもしれない。
寂しくないと言えば嘘になるけれど、一緒に過ごした時間は間違いなく今の僕を形作っている。
だから、大丈夫。
僕は歩いて行ける。これからも、ずっと。
これにて『迷宮都市物語』は完結です。
ご愛読ありがとうございました。




