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幕間 バレル

 バレルは苛立っていた。


 青い死の影。

 そいつによって大切な宿敵(アルフレッド)は左手に怪我を負い、ヤツと同じ匂いのする少女も死の淵を彷徨うことになった。


 ……モヤモヤする。


 自分には直接関係ないし、首を突っ込むことではないだろう。そう割り切っていた、つもりだった。


(だというのに、何なのだ、この感情は――!)


 各階層では無数のモンスターが待ち構えていた。

 アルフレッドたちを帰路を阻み、二度と地上へと返さぬために。

 それがダンジョンの意志である。


 しかし。


「雄オオオオオオオオオオオオォォォォォォォッ――!」


 バレルは己が力を振るっていた。

 アルフレッドたちの先回りをし、モンスターたちを片っ端から叩き潰していく。

 自らの力を高めるためでもなく、母親(ダンジョン)への反逆でもなく。

 

(俺は何をしている。……何のために、何をしているんだ!?) 


 自分でも理解できない。

 いつのまにか胸に炎のようなものが宿っていた。

 それは激しく燃え盛り、今の彼を戦いへと駆り立てていた。


 三ツ首機械竜の首を、回し蹴りでまとめて削ぎ落とし。

 ティラノ・リニアレールの胴体を、鋭い鉤爪でズタズタに引き裂き。

 かつての同族、ウルフチェーンソーを無慈悲に喰らっていく。


 冒険者に例えるならランクA、否、それを越える領域の強さであった。


(いつからだ。いつから、俺はここまでできるようになった?)


 バレルは戸惑っている。

 つい先程までの自分に比べて、ずっとずっと、身体が軽い。なのに破壊力が増している。

 

(なぜだ)


 戦い方を変えたわけではない。

 ずっと格上のモンスターを餌にしたわけでもない。


 だというのに。

 今の自分は、何だってやれるような気がする。



「ブゥゥゥ――……ンンンンンッ……、ウヴヴヴヴヴヴヴ――ンンンン……――……」



 不気味な唸りを響かせるのは、バレルの何十倍もの体躯を誇る人造巨神。

 歪なまでに長い両手を振り回し、さらに全身からは魔導熱線砲を放つ。

 現状、人類が確認している中では最強とされるモンスターである。


 いつもならばバレルと言えど逃げの一手であろう。

 だがこの時だけは違う。

 

「雄オオオオオオオオオオオオォォォォォォォッ――!」


 右腕を振り下ろす。

 バレルがやったのは、ただそれだけだ。


「ブゥゥゥ――…………ゥゥゥ――……ン」


 人造巨神の駆動音が止まる。ガクン、と膝をついた。両腕がブランと垂れ下がる。

 そして巨体が左右に分かれて倒れた。爆発。


 何が起こったのか。


 (ブレード)状に変形させた魔導フィールドにより、人造巨神を切り裂いたのだ。


 

 * *



 現在、バレルは『耳と尻尾』亭の用心棒をしている。

 街でアルフレッドの匂いを追いかけるうちに辿り着き、ちょうど店で暴れている暴漢を取り押さえ――そのまま居着かせてもらっていた。

 ……周囲の人々はバレルを「ちょっと古風で変わったことのある、けれど腕っ節の強い獣人」と認識している。


「クリスマスだってのに、予定のひとつもないのかい?」


 店の裏でボンヤリしていると、看板娘のガラリヤが気さくに話しかけてくる。

 黒い髪に、金色のキツネ耳。今日も元気そうにピコピコ動いていた。


「予定はある。この店を守る」


「いやまあそうなんだけどさ、こう、カノジョとかさあ」


(ツガイ)か?」


「……ホント、アンタって古風だよね。いまどきそんな言い方をする獣人、どこにもいないよ?」


「なら、次からは直すとしよう」


 バレルは急速に今の社会に馴染みつつあった。

 そうやって"不純物"を取り込むことで強くなれると信じていた。

 ……ちなみにクリスマスについて彼に教えたのは、ガラリヤを初めとする『耳と尻尾』亭の人々である。


「ところでガラリヤ、ひとつ教えてほしい」


「ん? コイバナかい?」


「大事な人間の話だ」


 バレルは今日のことを話す。

 

 アルフレッドの知り合いが窮地に陥った時、それを教えたこと。

 けれど直接関係が無いので介入を控えたこと。

 結果としてアルフレッドもその知り合いも怪我を負い、心がひどくザワついたこと。いったい何故なのか。


 個人名を伏せつつ、ガラリヤにその答えを求めてみる。


 すると。


「簡単だよ」


(バレルからすると)とても賢い少女は、こともなげに答えた。


「友達の友達は、友達。そういうことさ」


「なるほど」


 バレルは理解する。


 1.俺にとってアルフレッドは大切な糧だ。

 2.アルフレッドにとって、あの少女は大切な糧だったのだろう。

  →3.だから俺にとっても、あの少女は大切な糧だ。


「俺はどうやら、大切にしたいものをたくさん持っているらしい」


 だとすればもっと強くなる必要があるだろう。

 もしも人造巨神が地上に出てきたら大変だ。

 いっそダンジョンを潰してしまおうか。


「なんつーか、アンタ、ホントに変わってるよな」


 クスリ、と微笑むガラリヤ。


「まるでこう、ダンジョンから地上に出てきたばっかりのご先祖サマと喋ってる気分だよ」


 それはまさに真実そのものを射抜いているのだが、もちろん彼女に自覚はない。


「他に訊きたいことはないかい? クリスマス大セールだよ、どんなくだらない質問にも答えようじゃないか」


「……なら、もうひとつ教えてくれ」


 アルフレッドの先回りをしてモンスターと戦っていた時、いつもよりずっと力を発揮できた理由。

 ガラリヤは街でのケンカと勘違いしつつ、こんな風に答えた。


「当然に決まってるじゃん。

 人間も獣人も、みんな誰かを守ろうとする時にいちばん力を発揮できるんだよ」




 ――その言葉は、バレルの中に深く刻まれた。


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