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07.やまと


 朱莉さんの弟も妹も、とっても可愛かった。

 特にりくくんは、よく歌姫に会いに来るようになった。

 こんこん、と入口をノックして僕が扉を開けるのを待ち、暗い廊下をとことこと一人で真っ直ぐ歩いてくる。

 そして、いつも朱莉さんがするように、灯りをつけるため歌うのだ。

 その歌声は弾むように楽しげで、とても柔らかかった。まるでかぐやに会えるのが嬉しいと歌っているかのようだった。

 道化機械(コーラス)に乗る時はいつも思考(コギト)だと言っていたけれど、きっと制御(カネレ)を務める事も出来るはずだ。さすがは、そらちゃんと双子なだけはある。

「やあ、りくくん」

「ヤマト、かぐやは元気?」

「ああ、元気だよ。今朝も守りの歌を聞いただろう?」

 りくがモニターを覗き込むと、かぐやもそれに気づいて蕾が綻ぶように笑う。

「こんにちは、りく」

「かぐや、今日もきれいな歌声だったよ。いつもロサ・ファートゥムを守ってくれてありがとう」

「りくもここを守っているんでしょう? マスターに聞いたの。りくは、とっても強いんだって」

 マスターっていうのは僕のことだ。かぐやは、自分を作った僕の事をそう呼ぶ。

 かぐやの言葉でりくくんは照れたように笑った。

 その表情を見るだけでほほえましく思う。

「みんなを守る歌を歌うから、優しい歌声なんだね。ボクはかぐやの歌が好きだよ」

「ありがとう、りく」

 にっこりとほほ笑んだかぐやは、再び目を閉じて、守りの歌を歌い始めた。

 かぐやの声を堪能したりくくんは、僕の方を見て肩をすくめた。

「ヤマトはさ、あかりちゃんの言うとおり、だらしないし頼りないし、なんかどっか抜けてるけど」

 う、朱莉さんは僕の事をそんな風に思っていたのか。

 ちょっとショック。

「かぐやを創ってくれた事だけは、すげえと思う」

 その言葉を聞いて、僕の心のどこかにほんの少し引っかかる小骨のような違和感をぬぐえなくなる。

「……ありがとう、りくくん」



 僕はかぐやを創った。

 かぐやの事は大好きだし、これからも大切にしていくと思う。

 でも。

 もし僕がかぐやを創った理由を知ったら、かぐやはいったいどう思うのかな? 僕をマスターと慕う彼女は、いったいどう思うのかな?

 ロサ・ファートゥムを守るために創られたと信じているこの無垢な歌姫は、僕の中のひどく個人的な動機を知ったら、いったいなんて言うのかな?

 それを知ってもやっぱり優しい声で歌うのかな。



「じゃあ、そんなかぐやの事が大好きなりくくんだけに、こっそり教えてあげる」

「え? なに?」

 無邪気な笑顔に、僕の打算をぶつけるのは卑怯かもしれないけれど。

「かぐやの歌が優しいのは守りの歌を歌うから。でもね、かぐやは――」

 無垢な青い瞳を見下ろしながら。

「守る歌も知っているけれど、実は、崩壊の旋律も歌う事が出来るんだ」

 それを聞いて、りくくんは大きく目を見開いた。

「ウソだ」

「本当だよ」

 そう言うと、りくくんは不満げに頬を膨らませた。

「でも、かぐやはそんな歌を歌ったりしないだろう?」

「そうだね。絶対に歌わないように、って教えてあるから」

 それを聞いてほっとした顔をしたりくくんの頭を撫でようとすると、するりと逃げられた。

「また来るよ。ヤマトじゃなくて、かぐやに会いに」

「たまには僕に会いに来てよ」

 やーだよ、と舌を出したりくくんを見送って、僕は肩をすくめた。



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