103話 語られた魔族姉妹の過去。
「どうかしら♡私の淹れた紅茶のお味は?」
「美味しいです。」
「甘いお菓子とよく合いますね。」
「それはよかった♡」
「あっあの、ずっと聞きたかったんですけど…どうして私達をお茶会に招待してくれたんですか…?」
「アタシ達はあなた方、魔族にとっては脅威のはずですよね…?」
「確かにそうね。でも私はあなた達とは戦うつもりはないの。」
「戦うつもりがない…?」
「というより私から戦いたいなんて思ったことないもの。」
「本当ですか…?」
「本当よ。私はただこの城で妹のめぐたんと可愛いメイドちゃん達と楽しく暮らしていたいだけなの。」
「楽しく暮らしていたいだけ…?」
「私達姉妹がやっと手に入れた居場所だから…」
「やっと手に入れた居場所…?」
「私達姉妹はね…人間と魔物から生まれた子供なのよ…」
«人間と魔物から生まれた!?»
「・・・・・・・」
「ええ。でも両親はなぜか、私達が物心がつく頃にはどちらも居なくて、人間達からは魔物の子供だからと受け入れてもらえず命を狙われたりして、ほかの魔物達からはお前は仲間じゃないと見捨てられて、助けてさえもらえなかった…」
「そっそんな…」
「いくら人間と魔物の子供だからって…」
「でも優しい人は必ずいる者よ。傷だらけの私達が空腹で限界を迎えて倒れていたら、ある人間の女の人が救いの手を差し伸べてくれたの。」
「ある人間の女の人が救いの手を…?」
「その女の人は当時、冒険者にも関わらず魔物だった私達を倒さないどころか、自分の住んでた家に運んでくれて、傷の手当と食べ物を与えてくれたの。」
「そんないい人が居たんですね…」
「ええ。だから小さかった私達は彼女にとても懐いたわ。そしたら彼女は優しくこう言ってくれたの。」
"あなた達が大人の魔物として成長するまで、この家で暮らしなさい。"
「そして私達は大人の魔物として成長するまでの8年間、彼女と一緒に暮らしたのよ。」
「そうだったんですか…」
「あの楽しかった日々があるから今がある。あれから、色々あって私達は魔族になったけど…別に人間を憎んだり殺したいなんて考えたことはないの。当たり前じゃない。私達は人間に命を救ってもらったんだもの。」
«レア大佐…»
「あなた達だって同じはず。私達と戦いに来たわけじゃないのよね?」
«そうです。»
「それを聞けてほっとした。少し長話しちゃったわね。今日、あなた達をお茶会に招待した理由は簡単よ。直接会って、ソノサキユリちゃん。あなたにお礼が言いたかった。ただそれだけなの。」
「私にお礼ですか…?」
「崖から落ちた時、妹のメグたんが怪我しないように守ってくれありがとう。」
「お姉様…」
「メグたんもお礼を言いなさい。」
「ありがとうございます…」
「そっそんな私こそ…瀕死の状態だったのをメグ少佐に回復してもらったし…」
「どっどうしてそれを!もしかして意識があったんですか!?」
「あっいや、意識があったわけじゃなくて、何となくそうかなって…?」
「そっそうなんですか…?」
「うん。だからお礼が言いたかったのは私の方なんだよ。助けてくれてありがとう。メグ少佐。」
「ソノサキユリ…」
「あら。さらに顔が真っ赤になったわね。嬉しかった?」
「うっうるさいです…」
「よかったね。ユリちゃん。お礼がちゃんと言えて?」
「うん。」
「あなた達さらに気に入ったわ♡どうかしら!私の城でメイドにならない?」
«えっ!?»
「お姉様ったら…」
「それか私かメグたんのお嫁さん候補でもいいわよ♡」
«お嫁さん!?»
«レアお姉様!?»
「なっ何を仰ってるんですか!?」
「あらあら。メグたんだって満更じゃないくせに?」
「そっそんなこと思ってません!」
「ウフフフッ。冗談よ。」
「なっ何だ…冗談ですか…?」
「驚かせないでください…?」
«ふぅ。»
「もう、お姉様ったら…」
「きっとあなた達を必要としている人間は世界中に大勢、居るはずだもの、ここで留まらせるなんてしちゃ駄目よね。」
«レア大佐…»
「あなた達の旅の目的はやっぱり魔族と魔王様を倒して、世界を平和にすることなのかしら?」
「もしそうだと答えたら、アタシ達と戦いますか…?」
「ちょちょっと!」
「いいえ。それでも戦わないわ。あなた達とは戦いたくない。」
「そうですか。アタシも同じ気持ちです。」
「アリスちゃん…」
「私がもし戦うとしたら、この城を攻めようとする者、私の大事な妹やメイドちゃん達を傷つけようとする者が現れた時だけよ。」
「お姉様…」
«レアお姉様…»
「ユリちゃんの思った通りだったね。この人達は悪い魔族じゃない。」
「うん。本当にね。」
「あなた達…」
「そろそろ街に戻ろうか。」
「うん。そうだね。」
「もう帰るの?もっとゆっくりしていいのに?」
「世話になった人達に挨拶したら、すぐにでも次の魔族の城を目指して旅を再開しようと思っているので。」
「なるほど。それもそうよね。悪い魔族は世界中あちこちにいるもの。」
「このことを魔王やほかの魔族達に報告したりしますか?」
「するって言うと思う?」
「いえ。思いません。」
「私もです。」
「その信頼に応えてみせるわ。絶対に報告しない。」
«ありがとうございます。»
「またこの城に遊びに来てね。大歓迎するから。」
«はい!»
「ほら。メグたんも何か言ったら?」
「ソノサキユリ…さん…アリス…さん…あなた達のことを誤解してたみたいです…」
「気にしないで。」
「また会おうね。」
「絶対にいつか会いに来てください…約束ですよ…?」
「もちろん。」
「約束するよ。メグちゃん。」
「メグちゃん…ですか…」
「あらあら。見たことないくらい顔がほころんでるじゃない。」
「いちいち言わなくていいですから…」
「それじゃあ。」
「またね。」
「はい…お二人ともお元気で…」
「あっあの…ソノサキユリさん…」
「えっ?」
優梨が一人のメイドに呼び止められた。
「君って確か昨日、街中でぶつかっちゃった…?」
「覚えててくれたんですか!」
「レア大佐のメイドさんだったんだ…?」
「はっはい。」
「もしかして、手紙を届けてくれたのって…?」
「うちです…」
「ありがとう。あなたが手紙を届けてくれたから。あの二人とこうして話せたよ。」
「そっそんな…お使いを果たしただけですから…」
「君ともまた会いたいな。」
「嬉しい…うちもです…」
「ユリちゃん、行くよー?」
「はーい!じゃあ、行くね。」
「はい…」
(本当は好きだって伝えたかったな…)
「待たせてごめんね。」
「一体、何を話してたのかな?」
「そっそんな疑いの目をされても…?」
「まぁ、いいけどね。」
アリスは扉を開けて出ようとした。だがしかし…
「あれっ…?止まったりして、どうしたの…?」
「わからない…急に体が…」
【さぁ、きさまの出番だ。】
「ぎゃっ!」
「だっ大丈夫!?」
【ソノサキユリ…倒す…】
「えっ…?何を言って…?」
振り向いたアリスは赤い瞳をしていた。
「どうしたんですか!」
「来ちゃ駄目!!」
「えっ!」
【ファイアー・スマッシュ…】
「グハァッ!!」
«えっ!?»
(優梨さん!!)
優梨の腹部を殴ったアリスはまるで別人のように冷たい目つきをしていた。