83話 優梨vsリン(前編)
《会場の観客の皆さん、大変お待たせ致しました!
リン選手の着替えが終わりましたので、次の対戦に参りたいと思います!》
«ワァァ!!»
「いよいよ今度はユリの出番だべ。」
「ユリちゃんならリンを倒してくれるはず…」
「ああ、オラもそう信じてるべ。」
(あいつなら、アリスの仇を絶対にとってくれる…)
《リン選手!ソノサキユリ選手!フィールドに上がってきてください!》
(優梨さん、戦う覚悟は出来てますか?)
(もちろん、出来てるよ!)
優梨は深呼吸をすると、バトルフィールドに上がった。
「あの子、さっき会った時より魔力が格段に上がってる…今度は油断してたら倒されるわよ?」
「わかってる。最初から本気でやるってば。」
リンもバトルフィールドに上がった。
《それでは両者とも心の準備はいいですか!》
「あっ待って。この子にもハグしてあげるから。」
「えっ!」
リンは優梨を抱きしめた。
《素晴らしい!先輩として、アリス選手同様、ソノサキユリ選手の緊張をほぐそうとしているに違いありません!》
「相方があんなボコボコに倒されたから、怖気づいて戦いを放棄するかなと思ったんだけど、あなた意外と度胸あるのね?」
「私は逃げない、アリスちゃんのためにも私はあなたに勝つよ。」
「身の程知らずの雑魚が、すぐに力の差をその体に叩き込んでやるよ。」
「私は負けない。」
「ふん、お待たせ!もういいわ!」
《それでは模擬戦、第2戦を開始したいと思います!READY〜!GO〜!》
「遠慮なく行くわよ!ファイアー・ボール!」
リンは模擬戦開始早々、優梨に炎の玉を放った!
《模擬戦開始早々!容赦ないリン選手の炎攻撃がソノサキユリ選手を襲った!》
『ユリちゃん!!』
《果たして直撃してしまったのか!》
すると煙りが徐々に消えると、そこに優梨の姿はなかった!
«ガヤガヤ…»
「どこに行ったんだ…?」
「たしかにそこに居たわよね…?」
《一体、どういうことでしょうか…?ソノサキユリ選手の姿がどこにも見当たりません…?》
「あらら、もしかしたら、威力強すぎて、木っ端微塵に吹き飛んじゃったのかも。そうだったらごめん。成仏してね。てへっ。」
「そっそんな…?」
「大丈夫だぞ。」
「クマ子ちゃん…?」
「あいつなら。」
《あわわぁ…リン選手の言う通り、ソノサキユリ選手は木っ端微塵になったのでしょうか…?》
《そんわけないでしょ!!》
«えっ!?»
すると会場にいた全員が空を見上げると、優梨が天使の羽を広げて空に浮いていた!
「見ろよ…?人が空を飛んでるぞ…?」
「ああ…あんなの初めて見るよ…?」
「美しい…背中に羽があるなんて…」
「本当ね…まるで天使みたいだわ…」
《なっなっなんと!リン選手の攻撃が直撃したかに見えたソノサキユリ選手でしたが!不思議な羽を使い、空を飛んで攻撃を躱していたようです!》
«ワァァ!!»
「ユリちゃんがあんなすごい術が使えたなんて…?」
「当たり前だ。オラが惚れた女だぞ。」
「へっへえ、やるじゃん?空を飛んで攻撃を躱すなんて?」
「少しは私のこと認めてくれた?」
「はいはい、認めてあげるよ。」
「そっか。」
「それにしてもその天使の羽みたいなの?初めて見る術だけど、もしかしてあなたのオリジナルなの?」
「えっ!まっまぁ、そんな所かな…?」
「術名は何て言うの?」
「エンジェル・ウィングだけど…?」
「馬鹿だね、おまえ?」
「えっ…?」
「私が術を真似出来る上級スキルを持ってること、すっかり忘れてない?」
「そんな、まさか!?」
「エンジェル・ウィング。」
・・・・・・・・。
「あれっ…?エンジェル・ウィング!エンジェル・ウィング!!」
・・・・・・・・。
しかし何度、術名を唱えても、リンの背中に優梨と同じ天使の羽は現れなかった。
《どうした事でしょう…?リン選手、動揺した様子で固まっています…?》
「姉さんが術を真似するのに失敗した…?」
「どっどうして…?私のスキルで真似出来ない術がこの世にあるはずない…?」
(メアちゃん…?あの子が術を真似出来なかったのって…?)
(お察しの通りです!天使の術はこの世界ではそもそも存在しない術、天界の女神様が認めた者以外は
唱えても発動することはないんです!)
(そっそうだったんだ、よかった…)
「こんな得体の知れない術を唱えるなんて…あなたは一体何者なの…?」
「そっそっそれは、えっと…」
「その慌てよう、何か言えない事情でもあるの?」
「まっまぁ…」
「あっそ、いいわ。あなたが何者かなんて正直どうでもいいし。」
「そっそうですか…」
(いちいち言い方が刺さるな…?)
「それに。」
リンが話しながら接近戦を仕掛けてきた!
「あなたを早く倒して、こんなクソつまらないド田舎の町から、王都の街に帰りたいからね。」
「そっそんな風に言わないで!この町はアリスちゃんの大事な町で!」
「こんな何の魅力もない町が大事ですって?命をかけて守ったりしてくだらない。」
「可哀想だね…」
攻撃を躱しながら、優梨は哀れんだ表情をした。
「可哀想?意味わかんない?」
「そりゃ都会っ子のあなたにしたら、大したことないかもしれない、でもこの町に住む人達はみんな優しくて、あなたが知らないだけでいっぱい魅力があるのに、それを田舎ってだけで理解しようとしないなんて、あなたが可哀想に思えてきたよ…」
「何それ…?私が魅力もわからない駄目な人間とでも言いたいの…?」
「あなたには足りないものがあるんだよ。」
「調子に乗んなよ!」
「ぐっ!」
リンは素早さを上げてパンチをしたが、それを優梨は両手で受け止めた!
《リン選手!!いつ移動したのでしょうか〜!?
速すぎて全然見えませんでした!!》
「おまえみたいなFランクがAランクの私に説教のつもり…?一体、何が足りないって言うんだ、言ってみろよ…?」
「人を思いやる…優しさ…」
「チッ…うっぜぇ…いちいち言ってることが説教ぽくてダサいんだよ、おまえ…?」
「約束して…くれないかな…?」
「約束だ…?」
「私が勝ったら…アリスちゃんに町を悪く言った事を…謝るって…」
するとリンが攻撃をやめてその場を離れた。
「いいよ、謝ってあげる。」
「本当に?」
「そのかわり。」
「そのかわり…?」
「観客席から、あんたを応援してるくま耳の女の子いるでしょ?」
「クマ子ちゃんのこと…?」
「あの子、人の姿してるけど魔物なんだよね…?」
「それがどうしたの…?」
「私があなたに勝ったらあの子をちょうだい。」
「えっ!?」
「私のペットにしてあげるから。」
「ふざけないで!そんなお願い聞くわけないじゃない!」
「あっそ、だったら約束しないかな?」
「あなたって本当に性格わるいね…」
「私に勝てばいいんだよ?勝てればね?」
「・・・・・わかった…」
「交渉成立ね。」
(クマ子ちゃん、勝手に決めて…ごめん…)
(近くにクマ子さんが居たなら、きっとこんな風に言うと思います!『気にするな、思う存分戦って、あいつを倒せ!』って!)
(メアちゃん…声真似上手すぎだよ…)
(もうやるしかありませんよ!)
(そうだね、私…頑張るよ!)
優梨は決意を新たに戦闘態勢をとった!