勝手な言い分
更新遅れ気味で申し訳ありません。ぼちぼち、ざまぁのパンチを繰り出せるような展開になってまいりました。誤字ご報告ありがとうございます!
「それに関しては、皆を気鬱にさせる情報がある」
ファンナ様の肩を抱いたままのベリオリーガお兄様がそう言ったので、場が一気に緊張感に包まれた。
「ラナウェル伯爵家から、ギルバート=コンフラス侯爵子息を侯爵家に戻してはどうだろうかという打診というか、相談が持ち掛けられたそうだ」
「相談!?何をギルバートは勘当されて、弟のエギルードが侯爵を継ぐことが決定されている!今更何を言って」
シュリーデが叫んだので、皆が更に慄いている気がする。
「これは侯爵とエギルード子息から私が直々に相談されたことで内密に頼む」
ベリオリーガお兄様に皆が頷き返した。
「アエリカ嬢の元婚約者のシュリーデがローズベルガと婚姻して、もう醜聞も収まったことだと判断してギルバートを戻しても構わないだろう、という内容の書簡が送られてきたそうだ、おまけに」
まだあるのか?とベリオリーガお兄様を見詰めた。
ベリオリーガお兄様は肩を抱いたファンナ様を見下ろしている。
こんな時になんだけど、ファンナ様がうっとりとベリオリーガお兄様を見詰め上げている気がして、甘ったるい雰囲気に見えて仕方が無い。
「ギルバートを侯爵家に戻し、アエリカ嬢と婚約式を大々的に執り行って、周りに祝福してもらいたいと言っているそうだ」
「はぁ!?周りに祝福だとぉ?」
先程からシュリーデが声を上げて怒っているので、私は黙って座っているのみだ。
それにしてもだ、言うに事を欠いてそれは何よ?
もう醜聞も収まってるし、いいだろうって何を勝手に言ってるの?こうやって破棄された二人が苦しんで怒っている状況に貶められているのに、自分達の気が済んだから戻りま~す!なんて軽々しい気持ちで発言してんじゃないわよ。
ベリオリーガお兄様が大きく息を吐いた。
「先程からのファンナ嬢の話を聞いていて、これもアエリカ嬢からの悪癖の嫌がらせだと確信を得た」
私はシュリーデを見た。シュリーデも私の方を見ていて頷き返してくれた。
「嫌がらせ……まさか、大々的な婚約発表の場にファンナ様を引っ張り出して」
「!」
私がそう言いかけてファンナ様を見たら、ファンナ様は息を呑んで顔を真っ青にしている。
「これ以上の嫌がらせがあるかっ!散々奪っておいて更にそれを見せつけるだと!?ベリオリーガ殿下まさか、ギルバートを侯爵家に戻すことを了承したのではないでしょうね!?」
私の旦那様、激おこだ。
ベリお兄様はシュリーデの剣幕に圧されたのか、落ち着け落ち着けと、シュリーデに声をかけている。
そんな中、ルコルお兄様がファンナ様に聞いた。
「ファンナ嬢は、アエリカ嬢に目を付けられた原因に心当たりはあるの?」
ファンナ様は首を散々捻っていたが、溜め息をついた後、力無く首を横に振った。
「分かりません、本当に分からないのです。同じ伯爵位ですし、茶会や舞踏会でお会いする機会は多かった方だとは思うのですが、個人的な交流もありませんし、友人が共通しているかと言えばそうでもないですし」
私は思わずファンナ様の後に続いて口を開いた。
「ルコルお兄様、必ずしも接点があるから恨んだり妬んだりするとは限らないのよ。目が合っただけ、偶々視界に入っただけで、笑っていたのが目について、なんてくだらない理由で恨みを持つおかしな人もおりますのよ?」
「な……何だか具体的だな?」
ルコルお兄様が珍しく饒舌な私に、驚いているみたいだ。
学歴、生まれに妬みを感じる、必要以上に僻んだり明るくて綺麗な人に一方的に劣等感を抱いたり、陰キャ気味の私に暗い思考を語らせたら右に出る者はいない。
「ファンナ嬢がアエリカに付き合う必要はありませんよ」
シュリーデがバッサリと切り捨てた。
陽キャの方々は暗い奴なんて捨て置けよとは言いますがね、陰キャな奴は無視されたらされたで、逆恨みするんですよ。
まあアエリカ嬢が陰キャかどうかは分からないけれど、人の物が欲しいという心理は分からないでもない。
人が食べているお菓子がやたらと美味しそうに見えたりでも、それをその人から盗ってまで食べたいなんて絶対に思わないし、欲しければ自分で何とか手に入れる。普通の人はそう考えるはずだ。
私がひとり、そんな根暗思考に囚われている間に、お兄様達の間で作戦が練られていたみたいだ。
「よしっ!じゃあそれでいこう!」
ベリお兄様の大きな声で、ハッと意識が覚醒して、ソレって何だろう?と内心思いつつシュリーデを見詰めた。
私の視線に気が付いたシュリーデは、少し微笑みを浮かべた。
「ローズは何もしなくていいからね?」
しまった……何を何もしなくていいのでしょうか?完全に聞き逃しているよ、どうしよう。
「や~忙しくなるなぁ」
何が忙しくなるの?ルコルデードお兄様。
「私は構わないのだが、ファンナ嬢は構わないのかな?」
何を構うのですか?ベリオリーガお兄様?
「その、本当に宜しいのでしょうか?私では、はい、はい」
ベリお兄様はファンナ様の耳元で、何かを囁いている。
何故ファンナ様とベリオリーガお兄様はそんなに見詰め合う必要があるのぉ?
「ローズ、今度の休みにドレスを見に行こうか?」
ええっ!?シュリーデはまた私のドレスを買うのぉ?何に使うの?
ああ……聞きたいけど、またぼんやりして聞いてなかったのか!とベリオリーガお兄様に怒られそうでよく分からないけど頷いてしまった。
陽キャ達の圧に呑まれて、取り敢えず同調してしまう、そんな私は陰キャ女。
翌日から私の周りは忙しそうだった。
そんな中、シュリーデに誘われて夜会用のドレス一式を買いに出かけていた。
「そのデコルテはもう少し見えていたほうが良いのではないか?それと……」
でたーーっ!
早速ドレス選びに口を挟んで来た、シュリーデ。
しかしだね、先日ドレス選びをした時にデコルテ開き過ぎ~とか文句言ってなかったっけ?
私の背後に立って、お前はデザイナーかっ!というツッコミを入れたいくらいに、鏡越しに私のドレスの右から見たり左から見たりとても忙しそうですね!
そう……そして今日はそれだけではない。
なんと……
「ちょっと、シュリーデ!あなたの選んでいる意匠、同じようなものばかりじゃないのっ!?ローズベルガ殿下はもっと華やかで、はっきりしたお色目が似合うのよ!」
「……」
そう、シュルーデに扇子を突きつけて怒鳴る女性。
プレミオルテ公爵夫人、つまりシュリーデのお母様で私の義母だ。先程からこの親子の口喧嘩が止まらない。
「ですが、この色合いだとローズの髪の色が映えない、そうだよな?ローズ?」
「何を言ってるの、そんな袖の意匠より今はこれ!この意匠が流行りなのよっローズベルガ殿下の淡い金色の髪にはこちらの少し薄いこの色合いが最高でしょう!そうですよね?殿下?」
シュリーデって顔立ちはお父様のプレミオルテ公爵閣下に似ているのだけど、性格ははっきり言って公爵夫人とそっくりなのね。似た者同士だから意見が対立する時は、強烈な反発を生み出している。
困ったなぁ……親子二人の意見が真っ二つに割れてるな。セクシードレスにするか、可愛い系にするか。
そんな旦那か義母かどちらの意見を取り入れるか、と悩んでいる私の背後にメイドのナフラがいつの間にか佇んでいた。
ナフラがソッと私の耳元に囁いた。
「うん、うん?はい、はい」
私はナフラに言われたままの言葉を、シュリーデと義母に向かって叫んだ。
「ドレスの意匠はお義母様のお薦めのもので、ドレスの生地の色はシュリーデの瞳と同じ物が良いですわ!そして装飾品はお義母様に、靴はシュリーデに。お二人には私に似合う最高のものを選んで頂けると信じておりますわ」
そして、最後に微笑んで見せてだったよね?チラリとナフラを見ると、力強く頷いてくれたので頷き返してシュリーデとお義母様に、私に出来る精一杯の笑顔を見せてみた。
「!」
プレミオルテ夫人と息子は同時に目を見開き固まった後に、ほぼ同時に叫んだ。
「任せろっローズに最高のものを!」
「お任せ下さいな!」
そして、一目散に店の展示棚に向かって駆け出して行った。行くタイミングも一緒で、方向も綺麗に同じ方向だ……流石、親子。
「ああやってお任せしておけば、最高級品の物を競い合って選んで下さいますよ」
ナフラがそう言ってニンマリと微笑んでいる。ちょっと怖いと思ったのは内緒だ。
そう言っていたナフラの予言?通りに、シュリーデとお義母様はシュリーデの髪色と瞳の色をふんだんに取り入れたドレス、アクセサリー、靴を揃えて見事な手腕を見せつけてくれた。
どちらも小言魔王なんだけど、タッグを組むと最強なんだねぇ~としみじみと実感した。
そんな親子との逢瀬の次の日……
長兄のベリオリーガ王太子殿下立ってのお願いを受けて、赤髪の美女のファンナ=マーガレド伯爵令嬢とのお茶会が催されることになった。
しかも何故か私とファンナ様のふたりきりで!
私的には重要な事なのでもう一度言うと、ふたりきりなのだ!
「……っふう」
朝からずっと緊張しっぱなしだ。アウェイ(マーガレド伯爵邸)で戦いたくないのでホーム(プレミオルテ公爵邸)でお茶会を!との条件を出して、私がホストをすることになった、でも失敗したと思った。
陰キャ気味の自分が、明るくお出迎えしてゲストに話題を提供し、恙なく楽しい茶会に導く……
無理っ無理っっむりーーー!!
「何でもいいからベリお兄様も同席してっ!」
ベリオリーガお兄様に縋り付いてお願いしたが、何だか呆れたような顔を向けられて、はっきり告げられた。
「公務があるから無理だ。ファンナ嬢は令嬢方から好奇の目に晒されて、沢山の令嬢がいる会には参加したくないと言っている。その点ではお前も似たり寄ったりだろう?ふたりで静かに話し合ってこい」
いやちょっと待ってよ?ファンナ様の裏切られて傷付かれた乙女心と、私の根っからの陰気心じゃ気持ちの有り様が違うというか、そもそもふたりきりでも緊張しちゃうというかぁぁ。
「……お待ちしておりました」
私は何とか笑顔を作ると、なけなしの王族の気品をフンッ!と出し切って踏ん張って優雅に座って、ファンナ様を迎え入れた。
静かに入室されて来た赤髪のファンナ様は、流れるような美しいカーテシーをした後に顔を上げられた。
ナフラとローザが給仕を済ませ、部屋の外に出るまで私もファンナ様も一言も会話が無いままだった。
とてもじゃないが私から話しかけてなんて豪胆な事は無理なので、ファンナ様から話してくれないかなと、期待していたがファンナ様は長い睫毛を伏せたまま、膝の上で手を組み、まるで祈りを捧げているみたいな雰囲気だった。
よく見るとファンナ様の手が震えている。もしてかして緊張しているのかな?ああそうか私ってば悪名高い王女殿下だったよね、すっかり忘れてたわ。
思わず笑みが零れた。そして小さく笑い声をあげてしまっていたのだろう、ファンナ様が私の声に気が付いたのか、静かに顔を上げてこちらを見た。
本当にファンナ様は綺麗なご令嬢ね。
「ファンナ様も緊張なさっているのね?私もすごく緊張しているの」
私の言葉を聞いたファンナ様の目が大きく見開かれた。
よ……良かったー!取っ掛かりの会話は声が裏返らないで話し出せた。
私は唾を何度も飲み込んでから、口を開いた。




