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王女ですが、可愛いウエイトレス目指します!  作者: 浦 かすみ


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旦那(仮)との遭遇1

ノロノロ更新ですが、ブクマと評価ありがとうございます




 朝は日の出と共に起床した。


 窓のロープを解いて、全開にして外の空気を室内に入れてみた。


「さむっ!」


 開け放つにはまだ季節が早かった。この世界には梅雨以外の春夏秋冬が存在する。今は冬の終わり、あちらの世界の暦で言うところの、暦の三月くらいの気候だ。


 さて、やることはいっぱいある。


 肩掛け鞄からクッキーの袋を取り出すとモグモグと食べた。小腹が空いたらこっそり食べようとお菓子を持ち込んでいて良かった。


 さて、私は別に離縁されたって構わないのだが、父や兄達がプレミオルテ公爵家に対して大暴れしないように、ここからは慎重に動かなくてはいけない。


 公爵家では食事も与えられず、放置されていたということだけはバレないようにしなければ……よし仕方ない。


 私は意を決して廊下に出た。


 やはり人の気配は無い。う~ん勝手に出て行っては難癖つけられるかもしれないし、一応断りをいれておくか。


 廊下を出て、昨日見かけた執事のおじ様を捜す。


 しかしだね、廊下……めっちゃ汚いね?廊下の窓ガラスは汚れて外が見えないくらいに濁っているし、見上げた天井なんて、蜘蛛の巣が張ってるよ。


 廊下に敷いてある絨毯も端の方は綿埃が溜まっている。このお屋敷はもしかすると普段は全然使っていない別邸なのかもしれない。


 やっぱり追いやられた感あるなぁ~覚悟してきたとはいえ、堪えるね。


 そうして、廊下を進んで従業員のバックヤードのような廊下を見付けて、灯りが見えたので部屋の中を覗き込んで見た。


 昨日会った執事のルベスとご年配のご婦人がキッチンの中のキッチンカウンターで、食事を取っていた。


 あら?ご自分達だけ朝食を食べてるのね。


 怒りより、この徹底した私を無視する姿勢に寧ろ関心するわ。


「あの、ちょっと宜しいかしら?」


 私が声をかけると、ルベスとご婦人は飛び上がらんばかりに驚いて私を顧みた。


「あ……あの」


 私はオロオロしながら、何かを言いかけようとしていたルベスの言葉を遮るように言葉をかけた。


「買い物に出かけてきます、夕方までには戻りますので王城に逃げる訳では無いので、騒がないようにして下さいませ、では」


 私が話している間に、ルベスとご婦人は一気に顔色を悪くしてしまった。


 私に怒鳴り散らしたりしないだけ、まだ良識のある方々なのだろうと思う。正直、もっと悪辣で残忍な苛めを仕掛けてくるのじゃないかと思っていたのだ。


 まあ一国の王女殿下に向かって、苛めはさすがに無いかな?


 私はそのまま屋敷の外に飛び出した。


 うん……やっぱりだ、他に使用人がいない。屋敷の周りに護衛の姿も見えない。


 でもさ~この扱いはあまりにひどいんじゃないかな?何度も言いますが、私だから粛々と受け止めているけれど普通の令嬢にはあまりに酷だし、気弱な女性なら下手をすれば、危険な状態(悲観して自死など)に陥ってしまうかもしれない。


 私の中で元々無かった、シュリーデ=プレミオルテ令息への好感度が今や地の底だ。


 いくら嫌いなローズベルガ王女殿下だとしても、必要最低限の礼儀ってあるよね?まだ面と向かって文句を言われる方が潔いってものよ。


 まあ今の段階で、ここにはいない人を下げたところで意味はない。


 私は肩掛け鞄の中から地図とコンパスを取り出した。


 備えあれば憂いなし!


 え~と今居る屋敷が公爵家の屋敷じゃなく別邸とだと仮定して、お城があっちに見えるから商店街は南の方角っと……


 私はコンパスの差す方向、商店街に向かって歩き出した。


 うん……ニ十分くらい歩いてやっと高級住宅街っぽい所の端の方に来たみたい。


 地図を開いて見てハッとして、左に建つ大きなお屋敷を見上げた。


「プレミオルテ公爵家」


 大きい……ここがプレミオルテ公爵家の王都の本邸か。門前や門扉、外壁に至るまでピカピカに磨き上げられている。高い外壁に阻まれて中は覗き見れないけれど、きっと庭も整えられて花々が美しいんだろうな……と妄想して、苦笑いが浮かんだ。


その時、大きな門扉が静かに動いて、中から誰かが出て来た。出て来た人と目が合った。


「!」


 まさかっまさかの……公爵家から出て来た人は、シュリーデ=プレミオルテ令息だったぁぁ!?


 シュリーデ=プレミオルテ令息は朝日を浴びて、白銀色の髪が神々しく輝き、何故だか驚いたような顔でこちらを見詰めている。その覗く瞳の色は夕闇色とでも言うのか、落ち着いた蒼色の瞳だ。


「……」


 怖いので私から先に目を逸らした。


 綺麗な人とは睨み合っちゃいけない、魂を抜かれるって誰かが言っていた気がする。


 不自然じゃない程度に足早に公爵家の門前を、シュリーデ=プレミオルテ令息の前を横切った。


 しかしだね、シュリーデ=プレミオルテ令息は見てる……めっちゃ見てる。めっちゃ見てくるんですが!?


 私が誰だか気が付いてる?いやいや、だって自分で言うのもおかしいが、年に数回開催される王家主催の夜会しか、私は出席していないし私の記憶が正しければ、シュリーデ=プレミオルテ令息にもその時くらいしかお会いしていないはず。


 しかも令息に会ったその時は、メイドのネリーとロエベが渾身の厚化粧メイクと、派手派手なドレスを装着してくれる。


 その姿で参加しているからこそ、今の私が“あの悪名の高い派手なローズベルガ”だとは気が付かないはずだ。


 一歩一歩と歩く度に、一定の間隔を開けてシュリーデ=プレミオルテ令息が付いて来る!?


 ス……ストーカー!?こんな絶世の美形がストーカー!?


 いや、世の中にはイケメンストーカーなる人物がどこかに生息しているかもしれないけれど、あの社交界一のモテ男が私をストーカー?


コツコツ……コツコツ……


 同じテンポでしっかりと私の後を付いて来る、よく考えれば婚姻しているので私の旦那様のはずのシュリーデ=プレミオルテ様。


 妻の後を堂々と尾行?する旦那……シュールな絵面だ。


どうしよう、これは私だとバレて問い詰めようと付いて来ているのかな?ああっもうっ!なんでこんな朝早くから出会うのよ?よく分からないけど、シュリーデ様って軍属だったよね?あ、もしかして軍の朝練に向かう為に早起きとか?なんてタイミングの悪さだよぉ。


コツコツ……カッ……


「!」


 その時、シュリーデ様が歩く速度を上げて私に近付いて来た。


「ひぃ!」


 私は走り出した。足に重力無効化、風魔法をかけて猛ダッシュをかけた。


「っおい!」


 一応、昨日から旦那のはずのシュリーデ様が声をかけてきた気もするが、後ろなんて振り向いていられるかっ!


「いやあああっ!!」


 私は走った。後ろからゾンビや肉食動物が追いかけて来る!そんな妄想をしながら全速力で走り切った。


「ひぃ……はぁ……ひぃ……げほっ」


 住宅街を走り抜けて、商店街に入り路地を抜けて……木箱が沢山置いてある路地の隅に身を隠した。


 付いて来てないよね?木箱の陰から路地の向う側を覗き込んだ。


 もう、なんなのぉ?無視するなら徹底的に無視すればいいのに。


「おいお嬢さん、こんな路地裏で何してるんだ?」


「ひぅ」


 急に背後から声をかけられて、慌てて後ろを向くとエプロンを着けた、白髪交じりのおじさんが私を見下ろしていた。


 このおじさんの出で立ちから察するに、この付近のお店の人かな?


「え……とその、男に追いかけられて」


「なんだってぇ!?」


 私がそう答えると、おじさんは傍に立てかけてあった箒を掴むと、路地裏から表通りまで駆け出し、辺りをキョロキョロと見ている。


 おじさんは暫く通りを見ていたが、私の所に戻って来た。


「見た所、変な男はいなさそうだな!お嬢さん、美人だから変なのに後をつけられたんだな?」


変な男!……いや間違ってはいないかもだけど、お嫁にいきたいナンバーワンの公爵令息を変な男扱い。


 一応旦那様なのに、私のせいで?評価とか男っぷりを下げに下げてしまった。


「兎に角、また変なのが来るかもしれないな~よしっいつまでもこんな所でいちゃいけないよ、ホラこっちから入んな」


「え?あの」


 おじさんに手招きされたので、恐る恐るおじさんの後に続いて、裏口から建物の中に入った。


 どうやらこの建物の中は肉屋みたいだった。


「わあ」


 肉屋のバックヤードってこんな風になってるのか。おおっ!これはモモガかな?一頭丸ごと吊り下げられているのは結構怖いな。


「おや?どうしたんだい?」


 大きな包丁で肉を切っていたおばさんが、裏口から入って来た私を見て目を丸くしている。


「いやなに、変な男に追いかけられて、このお嬢さんがうちの裏口のとこに逃げて来ててさ~」


 おじさんの説明に、おばさんは血相を変えた。


「ええ!?大丈夫だったのかい?変なことされなかったかい?」


 ち、血濡れの包丁を持っているおばさんが迫ってくる方が怖い、とは言えなかった。


 私が無言で何度も頷くと、おばさんはやっと包丁を置いてくれた。振り回されては近付けない。


「こんな綺麗な子だもんね!しかし朝から痴漢なんてねっ!警邏に言っておこうかね!」


 痴漢っ!?一応昨日から旦那(仮)で一応社交界の一番のモテ男なシュリーデ様が、当の本人がいないところで旦那(仮)の評価がガンガン下がっている。


「あ……あの、追いかけられただけで、その実害はなかったし、大丈夫です」


 警邏なんて呼ばれたら、ややこしい状況になってしまう。


 万が一にも私がローズベルガだとバレるとお父様(国王)やお兄様達(王子)がすっ飛んで来て、大騒ぎをしてしまう。


 因みに母はのんびりした天然な方なので、すっ飛んで来て騒いだりはしない。


 私は、大丈夫です~お気遣いなく~を連発しながら肉屋の表側に回り、ショーケースの中を覗いた。


 塊肉から薄ぎり肉、あっ!ウインナーっぽい腸詰めがあるね。美味しそう~よし、決めた!


「あの他の食料品を買った後で、お肉を買いに寄らせてもらってもいいですか?」


 私がおばさんにそう声をかけると、おばさんは破顔した。


「ああ、勿論だよ。でも商店街全体の開店時間はまだだから、少し待った方がいいよ?そうだ、朝は食べたのかい?」


「焼き菓子を少しだけ」


 今度はおじさんが、店の入口まで行くと私を手招きした。


「この通りを左に曲がったところに朝から開いている食堂があるよ。市場の若い連中が食べに来てて、騒がしいが味は保証するぜ。そこで腹ごしらえをしてる頃には、市場の他の店が開く時間になるよ」


 おじさんの笑顔に笑顔を返して、おばさんに頭を下げて表通りに出た。


 朝定食か~それは是非とも食べてみたいよね!


 自分の肩掛け鞄の中から財布を取り出して、財布の中を覗いてみた。


 金貨一枚と銀貨一枚が入っている。すぐ上のお兄様、ルベルガ兄に貰ったお財布に入っていたのだ。


 ルゥ兄様は私がしたいことを薄々勘付いているから、現金をくれたに違いない。


さて……さっき見た肉屋の一番高いお肉が一塊(百グラム?)が銅貨一枚ってなっていたね。


 多分、食事処でも金貨の出番は無いだろうし、定食如きで銀貨を出すのも気が引けるけど持ち合わせが無いし仕方ない。


 因みに貨幣価値は金貨→銀貨→銅貨→木貨だ。


 金貨は私の感覚では大体一万円くらいだが、この国は物価が安い。異世界の今の日本の十分の一くらいの貨幣価値だ。定食一食分は恐らく木貨七~八枚くらいだと思われる。


 定食屋で銀貨を出したらお釣りがすごいことになりそうだ。


 私は気合いを入れ直すと、定食屋に向かって歩き出した。



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