新婚さんですって!
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先ほどシュリーデにもらった軟膏の入った袋を抱き締めた。
彼が胸元から出してきていたから、まだシュリーデの温もりが残っている気がする。
どうしよう、嬉しい。ニヤけている顔のまま、マリリカの夢に戻るとウエラさんに抱き付かれた。
「やだぁ~ご主人って格好いいじゃない!店の前で、このっこのっ!!」
すると常連の女性四人にも囲まれた。
「私も、あんな風に外で抱き締めてもらいたかったわぁ~今じゃ間に子供がいるしね!」
「新婚さんなの?やっぱりね!いいわねぇ~」
「私もあんな男前に『寒いかい?温めてあげるよ』なんて言われたいわ!」
「ちょっと何貰ったの?えっ、手が荒れてるから軟膏?まああっ!なんて気遣いの出来る旦那なのぉ!」
「はは、はぁ。はい……ふぅ」
妙齢の女性達に囲まれて、反論?意見?などは言えるはずもない。只々黙って聞いて頷き返すか、首を横に振るしか出来なかった。
おねーさま達の中で私とシュリーデは、新婚ラブラブ、男前の警邏の副隊長とその妻というポジションに納まったようだ。
シュリーデのプライベートの事を根掘り葉掘り聞かれそうになったので、主人の仕事の事はあまり知らない、親の紹介で婚姻したと、やんわりとした返事を返しておいた。
「取り敢えず、ご主人がラクラの木の内部調査をして来てくれるんでしょ?その報告を待ちましょう」
ウエラさんはすっかりシュリーデをこちら側の仲間扱いにしているけれど、まあ敵ではないだろうし?いいのかな?助けてくれるかは分からないけれど。
夕方プレミオルテ家に戻って、シュリーデに貰ったハンドクリームを手に塗ってみた。
「良い匂い……それにリップグロスかな?唇がプルンとなって、色も可愛い」
鏡で自分の唇を見て、艶めいた淡い桃色の唇を見て嬉しくなる。
「姫様、シュリーデ様がお戻りですよ?」
部屋でニヨニヨしていた私の所へ、ロエベが声をかけてきてくれたので、急いで玄関先に移動した。
「おかえりなさいませ、シュリーデ」
「ただいま戻りました」
うはぁ~シュリーデってば相変わらず表情筋が死滅してる。ところで、ラクラの木の潜入の件はどうだったのだろう?と、聞きたいけど……
チラチラと見詰める私の視線に気が付いたのだろう、シュリーデ様は……
「食事の後に少し、お話ししましょうか?」
そう言って、ニヤリと笑った。
「!」
そのニヤリ笑い……表情筋が死滅した顔で無理矢理笑ったところで、悪役の邪悪な微笑みにしか見えませんから!!
シュリーデと食事を済ませた後、シュリーデの部屋に招かれた。
結婚して初!旦那のお部屋訪問だ。
ドキドキしながら部屋に入ると……ふああぁ!
THE男の子の部屋って感じの色味が濃い緑色と青色が基調の、シックで落ち着いた雰囲気の部屋だった。
センス良いなあ……
そして濃紺色のお洒落なソファにシュリーデと向き合って座った。
どうしたのかな?シュリーデが珍しく落ち着きなく、足を組み替えたり手でご自分の太腿を何度も擦ったりしている。
「近いうちにローズベルガは、俺の隣の部屋にう、う、移ってもらいますから……宜しくお願いします」
「ハァ?ん?」
移る……私が隣?
シュリーデの方を見ると、目線の先が横を見ているので私も同じ方向を見てみた。
シュリーデの隣に移る……それってシュリーデの隣の奥様の部屋ってこと!?
顔に熱が籠る。シュリーデの方をチラと見ると、シュリーデの耳が赤い……
二人して押し黙っている間に、静かに入室して来ていたリサとロエベが、お茶の準備をしてすぐ下がって行った。
何故、下がっちゃうのよぉ……気まずいよ
そして再びシュリーデとふたりきりにされた。
当たり前だが私は未婚の女子でもないし、目の前には旦那様。当然、ふたりきりにされても文句は言えない。
そんなもじもじ空間を有難いことに、シュリーデが先にぶち破ってくれた。
「ラクラの木に潜入して来た件ですが」
「は、はいっ!」
緊張してしまって大きな声を出してしまった。恥ずかしい。
シュリーデはひとつ咳払いをした後、胸ポケットから映画のチケットのような紙束を取り出してきた。
「ラクラの木ではこのような券を売り出しています」
シュリーデが手渡してくれたので受け取り、その券を見てみた。
「“ローズちゃんと一緒にお茶を飲める券(十枚綴り)”、“ローズちゃんとふたりきりで三十刻お話し出来る券”あら?“ローズちゃんに膝枕してもらえる券”膝枕ですか……あ、これが仰ってた券ですか?」
シュリーデは眉間に皺を寄せて頷いた。
思ってたよりハンドメイドの手書き感が満載で、チケット〇あみたいな、デジタルな感じではなかった。当たり前か。
「お父さんの肩叩き券みたい」
「え?」
思わず呟いてしまって、シュリーデに慌てて笑顔を見せて誤魔化した。
「ふざけた券でしょう?まったくけしからん。破廉恥で不敬で、何がローズちゃんの膝枕だっ!けしからん!破廉恥極まりない!」
シュリーデはやけに興奮しているのか、けしからん、破廉恥を連発している。
私と言えば思っていたより爽やかで健全な感じのする券で、本当にCDを買ったらついてくる特典の握手券とかみたいに感じた。
「何が一緒にお茶を飲めるだっ!俺なんてそんなしみったれた券を買わなくても毎日、ローズベルガとお茶が出来るんだぞ!」
「……」
何故そこで私を見て、ドヤリながらお茶を飲むんだ?それはそれ、これはこれだと思うけど。
私は萌とかよく分からないけれどそう、例えるなら一番分かりやすいのが“シュリーデ様とご一緒券”が実在するとすれば分かりやすいのではないだろか?
“シュリーデ様とカフェでお茶を飲める券”とか“シュリーデ様と一緒に観劇出来る券”とか“シュリーデ様と一日デート券”とか?
うわっ!いいじゃない〜“シュリーデ様にお姫様抱っこしてもらえる券”とか?需要があるよね!
「ローズベルガ?」
色々と妄想していた私は、ニヨニヨしていたのかもしれない。シュリーデが怪訝な顔をして私の顔を覗き込んできた。
「いえ、あの……この券を作った方の気持ちが分かるかもです」
「えっ!?」
ローズちゃんなる人が店員として存在しないのに、存在してると嘘をついて商売にしているのはいけないことだけど。
「この券を買って、憧れている方とご一緒出来る時間を得られるなら、高価なものでも買いたくなるかもです」
所謂、推し活ということよね?私だって好きなアイドルの推しの為にお金を貢ぐ気持ち、分かるもん。
「ローズベルガは、お金を払ってでもこの券を買いたいと?」
シュリーデがガクガク体を震わせている?どうしたの?
「う〜ん?この券というより、シュリーデの券なら分かるな〜と思いました。ほら、観劇にご一緒してエスコートして頂けたり、宝石やドレス選びにシュリーデがご一緒して選んで頂けるとか?それを考えたら女性達にはものすごく喜ばれますよね!」
「ロ……ローズベルガも喜ばれるのですか?」
シュリーデが妙に震える声で聞いてきたので、即答した。
「はい、勿論。非日常的な特別な空間を味わえますでしょう?こんな風にお茶を飲むのとはまた別の嬉しさがありますし」
それはそれでご令嬢方は喜ばれますしね!
続きを言う前に急に立ち上がったシュリーデに、驚いてしまって言葉を呑み込んでしまった。
シュリーデがいつもにも増して、表情筋の死滅した顔で私を睨んで来る!!
「俺も……俺もぉそ、そ……その券を使うっますっ!!!」
シュリーデが噛みながら叫んだと同時に、テーブルの上に置いていたラクラの木の券を掴み取った。
なんだ!?なんだ??と、慌てている私に向かって、シュリーデが券を目の前に突きつけてきた。
目の前に突き出されたのは“ローズちゃんに膝枕してもらえる券”だった。
「俺はこの券を使って非日常な空間を味わってみたいです!」
「……」
シュリーデからのイケメン無表情圧に怖くなって頷いて、只今シュリーデに膝枕をする為にスタンバイ状態です。
「どうぞ」
「はい、では失礼して」
シュリーデがソファに寝転がると、私の太腿に頭を乗せてきた。
し、しまったーーー!
膝枕をしてあげている時って、どこを見てればいいの!?右手でシュリーデの髪を触るのも失礼になりそうだし、左手はどこに置くのが正解なの?やだーー誰か助けてーー!!ロエベェ!ネリーィ!!
「……」
ちょ、ちょっと待ってよ!!シュリーデが世にも恐ろしい表情筋が完全死滅した顔で、下から見上げて来るんですけど!?どうしよう!?どうしたらいいのぉ!!
シュリーデは最初、瞳孔を見開いたまま私を見ていたが暫くすると静かに目を閉じてくれた。
助かった……この世の美を凝縮したようなお顔だけど、真顔で見られたら恐怖しかなかったわ。
目を閉じてくれたお陰で、シュリーデの顔をたっぷりと観察することが出来た。
はぁ~綺麗だな、いやぁ~こんな顔に生まれてきて最高だよね~髪もシルバ―ブロンドでめちゃめちゃ柔らかそうなんだよね、撫でてみたいけど流石に無理かな……フワフワしてそうなんだけどな。
「確かに……」
「ひっ!!」
急に目を瞑ったシュリーデに話しかけられて、変な声を上げてしまった。
シュリーデはゆっくりと目を開いた。
「これは非日常的な癒しを感じますね」
「癒し、ですか?」
シュリーデは私を見上げると少し目を細めた。
「はい……この券にはこんな意味があったのですね」
シュリーデは尊顔を崩すと、フニャとした笑顔を見せてきた。
笑・顔・の・破・壊・力!!
「!」
思わずモジモジと体をよじらせてしまった。
コンコン……
「!」
扉のノックの音にシュリーデは飛び起きた。
そして立ち上がろうとしてテーブルの角で膝を打ち受けていた。
打ち付けた時に鈍い音がした。
流石、表情筋を死滅させた顔を持つ男……無表情で対面のソファに秒で舞い戻って、何食わぬ顔で座っていた。
「失礼致します、湯の準備が出来ました」
私をお風呂に呼びに来たらしいナフラが、静かに扉を開けて入って来た。
シュリーデは兎も角、私は挙動不審な動きをしてしまっていたのだろう。そのまま自室に戻りお風呂場に入って洗面台の鏡を覗き込んだ時に、ナフラがニヨニヨとした微笑みを浮かべて私を見ていることに気が付いた。
「変なことはしてませんからっ!!」
お風呂場に私の裏返った声が響き渡ったのだった。




