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王女ですが、可愛いウエイトレス目指します!  作者: 浦 かすみ


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旦那(仮)との遭遇2



 夜会用のドレスを選ぼうと、確かにそう言われましたし、それを了承も致しましたしそれについては構わないのです。ただ、こんな状況になるなんて思いもしなかったと申しますか。


 今日は異世界で言う所の祭日、この世界の神様が誕生したという記念日なのだ。


 別にパレードとかは無いが、王城の中では式典を執り行っている。プレミオルテ公爵夫妻は参加されているが、子息であるシュリーデ様は不参加だし、私も王族の時は参加していたが、今は降嫁しているので免除されている。


 という訳で、屋敷にドレス工房の所謂、デザイナー先生をお招きして、ドレスのデザインを決めようとしているのだが……


「その首の開き具合が気になるな。そちらの意匠は背中が見え過ぎではないかな?それにこの色目は確かにローズベルガ殿下の魅力を引き立ててくれる絶妙な色ではあるが、それだと逆に目立ってしまって悪い虫を引き寄せ兼ねないと思うので、もう少し暗めの色が良いと思うのだが、それと……」


 誰かこの公爵子息を止めてくれ。


 確かにご自分でも割とよく喋る方だと言っていたし、メイドのリサもお小言魔王なんですよぉ~と称していたし、無口に見えて……という方なのだとは思う。


 今、ドレス工房の方々が数点持って来たドレスの試着をしているのだけれど、シュリーデ様が色々難癖……失礼、言葉を重ねてしまっている。


 だったらシュリーデ様はどんなドレスが好みなんだよ?言ってみろ!状態になってしまっている。


「どこの修道女ですか」


 ボソッとナフラの声が聞こえると、シュリーデ様はビクンと肩を動かした。


 ナフラはススッと音もなく私の横に移動してくると、パールピンク色のドレスを体に当ててくれた。


「まあっ!このお色目が素敵でございますよ!」


 確かに似合ってる。満足げに微笑むナフラと共にリサも横に来ていて、うんうん!と大きく頷いてくれている。いつの間にかデザイナーの先生や助手の方々に周りを囲まれていた。シュリーデ様はそんな彼女達に押し出されて、部屋の隅にいるようだ。


「この色と意匠が宜しいですね!」


「素晴らしいですわ!」


 シュリーデ様の意見と存在を無視して、次々にドレスや靴、宝飾品が決まっている。


 そしてお支払いの時にやっと、シュリーデ様の近くに行くことが出来た。


「ありがとうございます」


 サインをしているシュリーデ様の後ろに立ってお礼を伝えた。


 シュリーデ様はこちらを見て一瞬、目を見開いた後で小声の早口で呟いた。


「ドレス……お似合いでした」


 そう言ってくれた顔は無表情だけどね。でも、耳赤くなってたよ。


 こんな小さな発見でも、私の気持ちは少し上向きになっていた。ご機嫌でプレミオルテ家に帰り、屋敷の中に入って唖然とした。


 玄関ホールには王城で私の側付きだった近衛のパスバン卿(既婚)とレイモンド卿(婚約者有り)、メイドのネリーとロエベがいた。


「本日よりローズベルガ殿下の側付きとしてお世話させて頂きます。よろしくお願いいたします」


「み……皆」


 ブワッと涙が溢れた。


 ネリーが駆け出してきて、号泣しながら私に抱き付いて来た。


「ひめさまぁぁぁ」


私は泣きながらシュリーデ様の方を見た。シュリーデ様は……それはそれは美しく微笑んでいた。


神々しい笑みを受けて目が、目がぁぁ……


「王城で卿らが殿下の側付きだったと聞き及びました。私の一存ではありますが公爵家の方でも、とお願いしました。気心の知れた使用人がいれば殿下も心強いかと思います。殿下には長らくご不便をおかけ致しまして申し訳ありませんでした」


 すぐに笑顔を引っ込めると、また表情筋に仕事をさせない顔になってしまったシュリーデ様。


 部屋に戻り、公爵家の使用人と王城の皆との顔合わせをした後に、ロエベが私に聞いてきた。


「お噂で聞いていたシュリーデ子息と雰囲気が違いますね~」


「そうかな、どう違うの?」


 ロエベの代わりにネリーが元気良く答えた。


「夜会でお見掛けした限りでは、笑顔が多くて社交的な雰囲気でしたが、真面目そうですね」


「そうね、真面目ね」


「融通が利かないんですよ、坊ちゃまは!あら、いけない~坊ちゃまって言うと怒られるわ」


 そう言ってケラケラと笑うナフラの様子を見て、ネリーもロエベも笑顔になった。


 メイド達四人はすぐに、シュリーデ様をダシにして仲良くなったみたいだ。パスバン卿とレイモンド卿はコミュ力の塊みたいな方々だし、ここの護衛のお兄様達も気さくな方ばかりだし大丈夫だろう。


 という訳で、公爵家の使用人と私付きの使用人の皆で勤務のローテーションを組み直したようだ。


 翌日のマリリカの夢のバイト日には、ネリーとリサが随行し、パスバン卿と公爵家の護衛のソフさんとの組み合わせで出かけることになった。


「すごいですねぇ~ホントに働いていらっしゃるなんて!」


 ネリーが商店街を歩きながら、何かメモを取っている。何を取っているのか気になって覗き込もうとすると


「乙女の秘密ですぅ!」


 と、返して来た。後でリサが教えてくれた。


「商店街の菓子店や雑貨店、衣料店などの流行を調査しているのだそうですよ、城勤めのメイド達に○○のアレ美味しかったのよ~と自慢したいそうです」


 なるほど〜流行のあれ、私もう食べたし知っているし!と、ドヤりたいのかな?


 そうしてマリリカの夢に到着すると、ウエイトレスの制服に着替えて店に出た。


 その後……お昼を回って少しした時にウエラさんが


「ローズちゃん~お使い頼まれてくれる?」


 そう言って、メモ紙と巾着袋に入ったお金を手渡して来た。


「はい!」


 初、おつかいだ!


 メモを見ると、商店街で買い揃えられる食材ばかりだった。


「分かるかな?」


「はい、大丈夫です。いってきます」


 笑顔のウエラさんに見守られて、店の裏口から出るとパスバン卿とネリーがニコニコしながら近付いて来た。


「働いていらっしゃる姫様は嬉しそうですね~」


「しかし、その給仕服は少し丈が短すぎやしませんか?」


 パスバン卿は私の脹脛チラ見えドレスを見て、眉間に皺を寄せている。シュリーデ様と同じこと言ってるね。


「こういう斬新な意匠が市井で流行っているんですよぉ!パスバン卿は女の子のお父様なんですから、女子の好みそうなものは押さえておかないと~」


「そ、そうかな?」


 娘さんの話になると直ぐにデレデレし始めるパスバン卿。上手くネリーに転がされているのを、彼だけが知らない。


 そして、護衛とメイドの四人には少し離れた所から付いて来てもらうことにして、食材を買いに路地裏から大通りへと出た。


き……気のせいかな?私、目立ってる?


 何だか行き交う人に見られている気がして、目立たないように道の端を歩いてはいるんだけど、それでも振り返ってまで見られている?


「ん?」


 ひとりビクビクしながら移動して、果物店を出た所で大通りの一角で人垣が出来ているのに気が付いた。


 大道芸人でもいるのかな?


 人と人の隙間から覗き込むと……ええっ!?人垣の中心には警邏の制服を着たシュリーデ様が、膝を落として小さな子に向き合っている!?


 まさか、こんなところでお小言魔王が降臨して、子供にお説教しているとか?


 今、私のいる場所からはシュリーデ様の顔しか見えないので、子供の様子が分からない。


 ハラハラしながら見ていると、シュリーデ様が破顔した。しかも声を上げて笑っている。


「!」


 レア生物を発見したような心持ちになった。


 シュリーデ様が笑った、笑ってる。表情筋が仕事をしている!


 シュリーデ様は小さな子の頭を撫でると、何と肩車をしてあげているではないか!肩車っいいなぁ〜されたことないんだよね。一度はやって見たかった、この年ではもう無理だけど。


 なんだ……愛想笑いとかじゃなくて、声を出して笑えるんじゃない。あんなに柔らかい表情も出来るんだな。


 シュリーデ様は小さな子、どうやら男子を肩車したまま人混みの中に消えてしまった。


 いきなりシュリーデ様に会ってしまったが、見たことの無い一面を見れて少し嬉しかった。人垣から離れると、護衛の皆がさり気なく近付いて来てくれた。


「笑っておられましたね」


 パスバン卿の感想はそれですか?


「シュリーデ様は昔は良く笑う男の子だったんですよ」


もう一人の公爵家の護衛のソフさんが、目頭を押さえている。


「こっぴどくフラれたのが原因ですかねぇ」


 リサ!?それ有名なあの幼馴染の駆け落ち事件のこと?


 ここにいる皆も知っているようで、一気に気まずい雰囲気になった。言ってしまったリサも、しまったみたいな顔をしている。


 私も詳しくは知らないが、数年前にシュリーデ様の婚約者がシュリーデ様の幼馴染の子息と駆け落ちした……ということらしいのだ。


 シュリーデ様本人の口から真相が語られたことがないので、全部噂の域を出ないのだが、シュリーデ様がフラれて婚約相手に駆け落ちされた、というのが一番多く聞く噂だった。


 あんなにカッコ良くてもフラれちゃうんだね。


 でも、一般的には婚約者がありながらの不貞行為だ。


 幼馴染の侯爵子息と婚約者の令嬢、確か伯爵家だったはず、は糾弾されて今は社交界から遠ざかっている。


 やっぱりそれが原因で表情筋が動かなくなったのかな?


 それからおつかいを済ませ、マリリカの夢に戻ると、バードさんとウエラさんご夫妻が難しい顔をして調理場で固まっていた。


 店内にはお客さんがいないのかな、店先を覗くと誰もいないみたいだ。


「ただいま戻りました」


 裏口から調理場に入ると、ご夫婦は慌てて私の側に近付いて来た。


「大変なのよ~ローズちゃんの服が盗られちゃったのぉ!どうしようぅ~」


「え?え?」


 興奮状態のウエラさんのよく分からない言葉を、バードさんが補足してくれた。


「ラクラの木が給仕服を新しくしたと、大々的に宣伝しているって、お客さんが教えてくれたんだよ。それがローズちゃんが着てる服に意匠が似てるらしい」


ああ……なるほど、確かに特許も無ければ著作権も無いものね。デザインを真似されても仕方ないか。


「それだけじゃないのよ!ラクラの木に“ローズ”という給仕がいます!と、言い出したらしいのよ〜今日、いつも来てくれる警邏の男の子達がいるじゃない?あの子達が呼び込みを受けたんだって!それで試しにローズちゃんはいますか?って聞いたら、今日は休みだけどまた来てね♡って言われたらしくて、慌てて知らせてくれたのよ。これってラクラの木にローズちゃんがもう一人いるって思わせる作戦なのぉ!?悔しいぃぃぃ!!」


 ウエラさんが顔を真っ赤にして怒っている。


 デザインの盗用に続き、ローズという店員がうちにもいますよ~という匂わせ、私ってそんなに有名になってたのかな。


 ああ、今日やけに見られると思ったらウエイトレスの格好をして歩いてたからかな。


 困ったなぁ……バイト掛け持ちなんてしてないよ。




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