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男達の裏話・色と独占欲

ウィリアムは数日後に迫った夜会の準備に追われていた。

侯爵家で催される夜会の代表主催はウィリアムの父だが、嫡男であるウィリアムも色々と準備の手伝いや手配に忙しかった。

そんな中執事のグレイに呼ばれて屋敷の一室へ向かえば、そこには見事な紫色のドレスが用意られていた。


自分の瞳と同じ色に染め上げた自領でも一番良い生地を使い、公爵家ご用達の仕立て屋に自ら赴き注文したそれは、落ち着いた色合いなのにフワリと広がる裾が愛らしい作りのドレスだった。

裾から腰まである刺繍はウィリアムの髪と同じ紫紺とエミリアの瞳と同じ菫色で、二つの色を合わせると素材の紫と合わさって綺麗なグラデーションを作り上げている。

全体的にシックな雰囲気のドレスだが、胸元のレースと同じデザインの背中部分の大きめなバックリボンが甘さをかもし出している。


ウィリアムはそれを見て満足そうに頷いた。

前々から自身の色とエミリアの色を合わせたら、きっと美しい色合いになるだろうとは感じていた。

しかし、婚約者でも無い立場上どうしてもそういった物を贈る事が出来ず、先日までいつかはと思うだけに留めていたのだ。

それがどうして急にこんな事になったかと言えば、クラークがエミリア欲しさに有力貴族の集まりでエミリアなら婚姻しても良いなどと言い出したせいだ。


今まで協定の下本人へのアプローチはしても、彼女の心を無視して周りを固めるような手法は一切取らなかった。

それなのにその発言が元で、周りの貴族達は王太子妃はエミリアなのではと噂をし始めたのである。

勿論王宮内にはエドガーと言う王に次ぐ最高権力者がいるので、簡単にクラークの思惑通りにはならないだろうが、王太子妃以外の可能性を示す事で、噂話の方向性を歪めようと考え付いたのだ。

一歩間違えば彼女の醜聞になりかねないが、それが理由で王太子妃への道が閉ざされるなら自分にとっては願ったりな上、あわよくば自身との噂に変更する事でエミリアに意識させたいという思惑もあった。


受けてくれるかどうかは正直賭けだった。

エミリアは優しいが淑女としての教育もしっかりしている。

受け取れないと断られる可能性は十分にあった。

しかし、彼女はこの懇願を快く受け入れてくれた。

もしかして彼女も憎からず自分の事を思ってくれているのではと一瞬期待したが、彼女の様子からウィリアムの領地の宣伝だと思われている事を察して、少し落ち込んだ。


それでも受け取ってくれると言ったのだから、それで良いエミリアがこれを着て夜会に来れば回りは勝手に想像を膨らましてくれるだろう。

出来るだけ当日はエミリアの傍にいるようにしよう、そうすればもっと噂は広まるはずだ。


「ウィアリム様」


そんな事を考えながらドレスを眺めていると、またグレイに声を掛けられた。


「どうした」


先ほどウィリアムをこの部屋に案内した後、グレイは職務に戻っていたはずだった。


「お客様がお見えです」


深々と頭を下げたままグレイが来客を告げるのを見て、ウィリアムは首を傾げた。

今日は来客の予定は無かったはず、こんな忙しい時に急な来客とはあまりに常識外れだ。


「忙しいと伝えて帰らせろ」


先触れも出さないとはあまりに失礼だ。

合う価値も無いだろうとグレイに追い返すよう伝えたのだが、グレイは渋い顔をするばかりで動こうとはしない。


「それが……」


グレイが重い口を開いて告げた名は、予想外なものだった。




玄関ホールに立つ来客にウィリアムは眉を潜めた。


「……殿下」


「やあ、ウィリアム夜会の準備は順調かい?」


爽やかに微笑むクラークはまるで、多忙な彼を心配した心優しい友人といった様子だ。

しかしクラークを良く知るウィリアムに、そんな見た目だけの仮面など通じない。

多忙過ぎてエミリアにすら会えないクラークが、わざわざ親切心だけでこんな場所まで来るわけがないのだ。


何か裏がある……


訝しげにこちらを見るウィリアムの様子に、クラークは食えない笑みを浮かべる。


「先触れを寄越さなかったのは悪かったよ、どうやら追い越してしまったみたいでね」


恐らく建前だ、ウィリアムに対策を立てさせない為にあえて急に来訪したに違いない。

そうまでして足元をすくいたいとは、エミリアの事か……


「君、今度の夜会用にエミリアにドレスを贈るんだって?」


まるで明日の天気でも聞くかのように、クラークは本題を切り込んできた。

どこでその情報を仕入れたのか、かなり厳重に情報を隠してきたはずなのに。

元々騎士であるウィリアムは、あまり心理戦が得意ではない。

他の男達に比べると、腹の探りあいは苦手だった。


エドガー辺りなら上手い事ごまかす事も出来たのだろうが、急な事態に動揺していたウィリアムは、それを隠しきる事が出来なかった。


「本当らしいね、良かった。実は私も彼女に何か贈ろうと思っていてね、あまりにデザインが違うと当日一緒に身に付けられないから、ドレスのデザインを知りたくて来たんだ」


『良かった』この言葉を聞いたウィリアムは、暫しクラークの真意を測りかねていた。


独占欲も強く嫉妬深いこの王太子殿下が、他の男に彼女のドレスを贈られて良かった?

クラークの思惑は分からないが、出来上がったドレスに害をなすような、非道な男では無いと知っているので、ウィリアムは黙ってドレスの保管されている部屋へクラークを案内した。


暫しそのドレスを眺めて、クラークが感嘆の息を漏らす。


「流石はベロア侯爵家、見事なドレスだね……」


「お褒めに与り光栄です」


「このドレスなら金細工でも大丈夫そうだね、刺し色に…………緑なんて綺麗だと思わない?」


素直な賛辞にウィリアムも礼を返す。

しかし、次の言葉に初めてウィリアムはクラークの本当の狙いを理解した。


やられた……


楽しそうに笑うクラークに悔しさを堪えきれない。

エミリアとウィリアムの色は良く似ている、グラデーションに出来るほどに。

だからこそそこにクラークの色である飾りを付けてしまえば、このドレスがエミリアの色かウィリアムの色かなど分からなくなってしまうのだ。


その上デザインまで揃ってしまえば、もうエミリアの色を模して作られたとしか周りは思わないだろう。


「忙しい所邪魔をして悪かったね、夜会当日を楽しみにしてるよ」


クラークは悔しそうに俯くウィリアムの肩を一つ叩くと、颯爽と侯爵家を後にした。


思いついたら書く状態の落ち無し話なので、今後も何か思いついたらUPしますが、現在はネタ切れなのでここでいったん完結表示に致します。

今後も思い立ったら足して行く予定ですので、その時はまたよろしくお願いし致します。

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