降り立つ者たち
____詳細不明 某所ビル屋上
「私はお前達のいずれかが倒れた時の代わり。いわば代用品……」
まだ夜が明けぬ暗がりの某所。
清風に煽られながら、二人の男女が空を見渡す。
少し前に男が現れ、共に感に浸る中。考え耽る女に語る。
「それまでは各々の役割の補佐を担当するのが私の役でね」
「かと言って、役に縛られるのは不得意でね。お陰でこうしてお守りに力が入るわけだ。ハッハッハ……!」
嫌みくさい解説をどうも。
風になびく髪を抑え、男の方を振り向く。
年は中年か、少し年季の入った声色に古ぼけた服装。
髪の乱れを気にしない、堂々として、やや適当というか。時の流れに逆らわない、老人は煙草をふかしながら忠告する。
「ふっ……とにかく死なんことだな。こちらとしても死なれては気分が悪い」
「サポートをしてその結果では、私の面目も立たぬしな?」
「誰が勝手に死ぬもんですか。こっちだって役割を取られるのは不愉快だわ」
まるで失敗するのを見越した言葉に反論する。
わざわざ機嫌を損ねに来たわけではないだろうに。
意に反する言葉を返すと、男は低めに笑った。
「フハハッ!良いぞ、その意気だぞソーナ」
「この運命の身だ、精々生きれる間は生きようではないか?」
「はぁ。あなたと話すのは不慣れと言うか、不規則で慣れないわね」
「それはお互い様と言ったところか……役割の代償による干渉とはまた面倒なものだな」
「仕方ないのものなのかもね」
「役割に必要な機能以外には制限がかかるわ。役割を通すのに必要な感情や思考以外は、奇行に走りかねない」
言い訳がましい論理に、両者はそれ以上に口を挟まない。この点、両者共に諦めか個人なりの理解で抑えているのか、どちらにせよ深くは言及しない。
「人間らしいのか、らしくないのか。それとも、らしく作られたのか。所詮、模造品と言ったとこか」
「元よりこの姿が擬態程度の効果が得られれば十分というなら、愚問だったが」
「上の考えることは分からないわ」
「……でもやることは決まってる。それに、そこがヒトと違うとこなのかも」
彼らなりの判断と理解。
正しい答え合わせなど存在しない。
ただ己の存在が薄れてしまわぬように、解を重ねる。
「結局、指導者に従うのみというか……これも『運命』と言えるのなら、なんとも使い勝手の良い言葉だな?」
「ヒトの考えることなんて知らないわよ……」
男の聞きなれた回答に嘆息する。
間もなく朝日が昇るという時、彼女の視界に新たに数が増える。
「アハハハハッ!!目ン玉ビヨンビヨンダー!」
「貴官の行動は怪奇そのものです。死体等本官は……っ!貴官!こっちに飛ばさないでください!!」
少しずつ見える輪郭、3つの存在が新たに現れる。
どれも最近見た顔だ。
紅い狂気、電界の狂気、影の狂気。
彼女にとって、あれらは苦手にしながら、仲間ではある。決して難には感じない、それこそ運命だろう。
「問題児達のご帰還か。あとは任せたぞ?」
「ちょ、ちょっと!……はぁ」
近づく姿に相反し逃げるようにして、男は彼女にそう言うと屋上から飛び降りる。
そして舞い上がる小さな影。
その姿は、すでにヒトの形ではない。
ビル群の隙間を朝日に照らされながら飛び去っていく。再び少し強い風に再び髪を抑え、照り光る朝日に目を細める。
とんだ運命……ね。
面倒な単語だわ……。
────我ら、飛び堕ちる者なり。




