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修羅場を越えたら現実世界の隠れ属性がカンストした件 〜お人好しのダメ男の元に、なぜかワケありな人が集まってくるんです(泣)〜  作者: 黒潮かんしゃ


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甥兄編:3つの躾と、ギターと文化祭

気仙沼駅から徒歩3分の貸家。待っていたのは母・甥兄(中学生になったばかり)・甥弟(小学生)の3人。姉は隣のアパートで新しい男性と同居しており、複雑な家庭状況だった。甥2人とは生まれた時から父親代わりの関係で、私は何の抵抗もなく接することができた。


私が甥達に徹底して教えた3つの躾がある。


・誰かに会ったら、そちらの方を見てニコッとして挨拶をしなさい

・脱いだ靴は揃えなさい

・人が美味しそうなものを食べていたら、はっきりと「美味しそうですね、私もちょっとだけ食べたい!」と言え


「家庭環境が悪い子であっても、これで他人に良い方に誤解してもらえるんだ」と、私はいつも教えていた。


離婚後も私は結菜家から内職的に仕事を請け負い、成果物を送り返す形で収入を得ていた(当時の物価としてはそこそこの単価)。


甥兄と甥弟はとても仲が良く、びっくりするほどしっかりしていた。私は3人で観られるレンタルビデオを借りてきて鑑賞会をした。「天使にラブソングを」「ダイハード」「ランボー」「ゴースト ニューヨークの幻」など、小学生でもギリギリ内容がわかるような海外映画ばかりだった。


◇


当時ジャパニーズポップスが流行っており、甥兄はなんと音楽を演奏する方に興味を持ち始めてしまった。困った。私は楽器を弾くのが全くダメだったのだ。


私は、それでも「わからなければわからない側の戦いがある」と持論を展開した。誰かに教えるための言葉のようでいて、実はずっと、自分自身に言い聞かせてきた言葉でもあった。甥兄は、本屋で見つけた歌詞・楽譜付きの雑誌(スピッツや、当時大流行していたPuffyの「アジアの純真」などが載っていた)を参考に、ギターを欲しがった。


私は縛りを課した。お小遣いを貯めて買うこと。その前に、家にある楽器(縦笛・ピアニカ・ハーモニカ・カスタネットという日本義務教育の遺物)で演奏してみること。譜面が読めるようになったら、ギターを買うことを許す。


甥兄は耳コピーでいい加減に音を出してくる。私は笑いながら「最高だよ!良いよ!イケてるよ!でもちょっと雰囲気が違うような気もする!」と励ます。二人で音楽雑誌を見ながら「なんか違うのはこの辺だよね」と真剣に唸る。


私は甥兄に尋ねる。「中学の音楽教師は居るのか?」「いる!」「では、音楽教師に相談しましょう。放課後に職員室に行き、直談判せよ!」「音楽教師は女性か男性か?」「女性!」「第一関門突破だな(ニヤり)」


私は甥兄に懇々と作戦を伝授する。


・まず「譜面の読み方を教えてください」とはっきり言うこと

・理由も明確に言うこと。「ギターが弾きたいけど、親(智)がピアニカも演奏できないのに『寝言は寝て言え』と言われた」

・「音楽家は情熱(パッション)に弱いからイチコロだ」と告げる

・余り言い訳じみたことは言うな。ド直球150キロど真ん中のストレートを放れ


真剣に聞き入る男子中学生。私の怪しい作戦を純粋に真に受けて、次の日の放課後に本当に職員室に行ったらしい。女教師は驚きつつも喜んでくれたそうだ。


教師の許可が出た後、私は甥の好きなアーティストの中古CDを教材として購入。漫画本も少年誌から青年誌まで大量に買い与えた(「文字は進めにくいけど漫画なら自然と知識が付くよね。インターネットが無い時代は本で情報収集が基本だから」)。


甥兄はピアニカを狂ったように練習した。正直、下手すぎて上達が今一つと思うこともあったが、私は否定せず、とりあえず褒める。「昨日よりは良くなってる」と励ます。また頑張ってしまう甥兄。その繰り返しだった。


2ヶ月も経つと、とても上手にピアニカを演奏できるようになった。音楽の女教師のおかげ。「やはりテクニックは知っている人に教わるのが一番です。私は励ますだけ」と、私は笑った。


ギターを買う権利という縛りは最初から無いので、そろそろ次のステージに上がっちゃう!?と伝えると、甥兄は喜んだ。すぐにギターを買って練習を始める。甥弟も兄に憧れているので、同じルートをたどった。


劣悪な環境であっても、趣味というのは心の支えになる。心の逃避所のようなものだと私は認識している。ギターを買えば同級生も興味を持つ。当時の男子中学生にとって、ギターと、なぜか皆がチェーンで首から下げていた十字架のペンダントは、どうしても憧れてしまう最強のモテアイテムなのだ。


◇


文化祭のステージに立つというので、甥兄は外で練習を始めた。「まぁイイね。モテ街道まっしぐらだ!」


なんやかんやと甥兄の同級生が集まって、バンドを組んで演奏していた。全部の音がバラバラでびっくりするくらい。真面目だったのは甥兄くらいで、みんなイキり倒した弾き方だった。


しばらく黙っていた私だが、つい一言口を挟んでしまった。「皆さんイイ感じだけど、特にサビのところはイイ、できたらなんだけど、もう少し細かく1小節ずつ合わせた方がまとまると思う!」


「やってしまった、要らぬことを言ってしまった!」と思ったが、素直な子達だった。「うん、やってみる!」


そこで甥兄が、皆を怒らずに褒めながら指導し始めた。びっくりした。それはかつて私が結菜や彼らに教えてきた、「困っている時に他人に助けてもらいやすい状況を作る戦略」そのものだった。もう甥兄には私の手助けは必要ない、と熱いものが胸に込み上げてきた。


【ステータス更新】

弾けもしないのに全力で教える不器用な愛、尊い以外の言葉が見当たりませんわ。

隠れ属性「知らなくても教える力」耐性、上昇。これが"光"ですわ……。

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