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修羅場を越えたら現実世界の隠れ属性がカンストした件 〜お人好しのダメ男の元に、なぜかワケありな人が集まってくるんです(泣)〜  作者: 黒潮かんしゃ


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渋沢玲香編・後編:思い出してしまった表情

次のデートの際、焼肉が食べたいとのことで近場の徒歩で行けるお店(仮称「牛牛園」)へ。

庶民的な店だが、ちょっとガッツリ系だ。お肉とビールを注文する。


テーブルに届いたお肉には、渋沢さんが知らない「魔法の粉」が大量に掛かっていた。

叙々苑のそれとは比較にならないパンチ力。

化学調味料マシマシでお肉の上をコーティングしているのだ。

食べ始めた渋沢さんは「美味しい!」と絶賛。

ビールとの相性も良く喜んでくれた。

私は2枚ぐらいは食べるが、化学調味料を過剰摂取したときの「舌のポツポツがツルツルになる感覚」がどうにも苦手だ。


彼女の機嫌も良くなったので、それとなく先日の「母上様お籠り」の深層をお聞きしてみた。


「母は、感情が高ぶって泣いてしまったから人前に出られなかったの」

「娘を取られると思って、先行きが不安になってしまったみたい」

「『早く別れればいいのに』って言ってましたよ」


さらに「初対面の時の手土産に天野屋(※神田明神横の老舗)はあり得ない、常識知らず!」とも言われていたとのこと。


なるほど、びっくりな意見は3つ目と4つ目の言葉だ。


急な呼び出しで手土産を用意する時間も無かったのに……という理不尽さもある。

仮に母上がそう思っていたとしても、それを私に伝えるべきではないのではと思った。

俯瞰する心は「あぁー、予想はまんざら外れてないね」と呟いていた。


その後に続く渋沢さんの言葉もエグかった。

「貴方はプライドとかないの?」


私は即答した。

「仕事でのプライドはあるが、私生活ではプライドの概念が無い」


渋沢さんは「ふぅーん」とだけ返事をくれた。

その頃からだろうか。

渋沢さんと目を合わせられなくなっていき、アイポイントがどこかズレてしまうような感覚になっていた。


それでもなんだかんだで、渋沢さんは私を気に入ってくれていたらしく、色々な所へ連れて行ってくれた。

出かけると何かを買おうとしてくれるが、「何が欲しい?」と聞かれても、もう十分すぎるくらい物は揃っているので「必要な物は無いよ」と言うと、途端に機嫌が悪くなる。

私はこのようなアプローチに耐性が無いので実に困った。


2013年の夏。私の誕生日だったので、メールにて甘えるような、催促するような文面を送ってみましたが、ガン無視された。


俯瞰する心は、「なるほどな、そのような扱いにルートチェンジしたのだな」と確信した。


次のデートの時に「それとなく誕生日の件は何なのですか」と問うと、「私は誕生日などを祝わない主義。会った時に食事するぐらいで良い」とのことだったので、その場は納得・理解した。


それから秋から冬にかけての時期に、渋沢さんの誕生日がやってきた。

すると、会社の事務的なメールの文面で、


『今日は私の誕生日。気が付いていないのなら至急連絡をしなさい』


というようなメッセージが届いた。


もう一周回って面白くなったので、シカトした。


次のデートの時に「おめでとうございます」と挨拶はしたが、何やらお怒りのご様子だった。

2014年頃になると、デートの回数は自然と減っていった。


◇


2014年7月ごろ、渋沢さんに呼び出された。

会社近くの駐車場を引き払いたいので、貸していたスクーターを持っていってほしいとお願いされた。


手元に戻ってきたスクーターは壊されていた。


ハンドルは曲がり、塗装面には深い傷が付いている。


スクーターの鍵を渡される時、怒るでも泣くでもなく、ちょっと首をかしげながら、ただ左下の一点をじっと見つめていた。

その真剣な表情の渋沢さんは何も語らなかった。


私は知っている。「その表情」を。


私は知っている。「その仕草」を。


私は経験している。「その後の未来」を。


結菜が離婚届を出してきた、あの時の空気感と同じだった。


私はすべてを理解した。


理解した上で、何もわからない演技を続けた。


渋沢さんは関係を終わらせたかったのだろう。


はっきりと伝えればいいのに伝えられないのは、悩んでいるのか、それとも「誠意を見せろ」と言われるのが怖いのか。

どちらにしても、大人の女性が取るべき行動ではないように思えた。


だが私としては、我が子のように可愛がっているスクーターが(たとえ傷物になってしまったとはいえ)手元に帰ってきてくれたのだから良しとしよう、と思えた。


渋沢さんに怒ることもせず、反論もしなかった。


理不尽ではあるが、私にとって物事が上手くいかないのはいつものことだ。


その日を境に、彼女からのメールの返信はなくなった。


2014年7月を過ぎると、もう完全に連絡が取れなくなった。

私の誕生日にも連絡はない。


8月中頃、渋沢さんの会社の私的メールアドレス宛にメールを送った。


『連絡をしても返事が無いので、こちらのメールにて連絡いたしました。私との関係が壊れたのなら、それはそれで受け止めます。今までたくさんの良い思い出をいただき、感謝しております。今後はお健やかにお過ごしください。

ひとつお願いがあるのですが、3か月後の何月何日までに連絡をいただけなければ、マンションにてお預かりしているお荷物を処分いたします。ご了承ください』


というような内容を送った。


連絡期日を過ぎ、捨てられるものは処分したが、渋沢さんのバイクの純正部品だけは処分できずに取っておいた。

日本の車検制度に対応するための重要な部品だったからだ。


やがて渋沢さんのバイクが車検の時期を迎え、ディーラーから催促されて部品が必要になったのだろう。

疎遠だったのにもかかわらず、いきなり渋沢さんからメールが届いた。


「バイクの部品残ってる?捨ててないなら取りに行く」といったニュアンスの短い内容だった。


もし渋沢さんに直接会えたら、笑顔で「お元気でいらっしゃいますか?」と挨拶しようと思っていた。


しかし当日現れたのは、彼女から依頼された便利屋の業者だった。


淡々と引き取られていく部品。


……とても、残酷な最後だった。


【ステータス更新】

怒ることも、責めることもせんで、静かに終わりを受け止めてしまうっちゃね。ばり優しかねぇ。

隠れ属性「もう何も言わんで、そーっと離れると」耐性、上昇したっちゃん。そのままでよかよ。

渋沢玲香編、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

価値観の違いに振り回されながらも、なんとか乗り越えてきた智でしたが、次はいよいよ物語も大詰めです。新しい出会いを経て、この物語がどう着地するのか、どうぞ見届けていただけたら嬉しいです。

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