プロローグ:ドーナツと新幹線
はじめまして。実際にあった出来事をもとにした、ライトノベルの流れをお借りした人情噺です。全年齢向けで、笑って、ちょっと泣ける話を目指しています。どうぞよろしくお願いします。
(※最初は少し切ないお話から始まりますが、ここから主人公の『隠れ属性(経験値)』が爆上がりし、クスッと笑える前向きな人情コメディへと突入します。ぜひ数話お付き合いください!)
ドーナツが視界に入ると、涙が出てしまう。どうしても、思い出してしまうことがある。
仕方が無かったんだよ、どうすることも出来なかった。何度そう自分に言い聞かせても、離婚というリアルだけは、いつも鮮明に蘇ってくる。
倉庫の隅、段ボールに囲まれた狭い休憩スペースで、私はドーナツの箱を開けた。
中身は、私の好きなものばかりだった。くしゃくしゃとした、あの独特な見た目のフレンチクルーラーばかり。私の好みをちゃんと知っている人が選んだものだ。
その瞬間、涙が止まらなくなった。
(なんでだよ。私の大好きな物ばかり買って来てくれる優しさが、まだこんなにちゃんと残っているのに。それなのに、何故にして、こうなったんだろう)
お互いに、もっと歩み寄れたはずだった。今さらそう思ったところで、もう取り返しがつかないことくらい、分かっている。
(もう私たちは、赤の他人以下だ。修復なんてできない人に、優しくすんなよ。冷たくしろよ——そっちの方が、よっぽど楽なんだよ)
優しさが、一番痛い。終わっているはずなのに、まだ優しくされてしまうという矛盾が、心臓を締め付けてくる。
(——なんて、湿っぽいことを考えてる場合か。ドーナツはちゃんと美味しい。それだけは事実だ。)
もうどうにもならない。去るしかない。それだけは、はっきりと分かっていた。
——気づけば、手の中には、今日買ったばかりのドーナツがあった。涙で、指先が少し湿っている。
ここは倉庫じゃない。今の部屋だ。それなのに、涙は止まってくれなかった。
ふと、あの日の車窓の風景を思い出した。東京を離れ、故郷へ向かう新幹線。窓の外を過ぎていく景色は、進むごとに少しずつ寂しくなっていった。ビルが減り、田畑が増え、人の気配がまばらになっていく。まるでその景色が、そのまま自分の人生と重なっているようだった。
深い水の底に、ゆっくりと沈んでいくような感覚があった。
沈んでいく途中、俯瞰する心が、静かに問いかけてくる。
「——どこで、歯車が狂ってしまったのだろう。」
◇
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幕間:ステータス画面
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タイトルに免じて、一度だけ、こういう画面を挟ませてほしい。
俯瞰する心が、ゲームのロード画面のようなものを、勝手に脳内へ映し出してくる。
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【ステータス】
名前:位置井 智
出身:宮城県 気仙沼市
現在地:東京
年齢:非公開
特殊体質:オスミウム・クローの呪い
└ 頭痛/常時発動・治療法なし
└ 恋愛的な緊張に比例して悪化する(改善した試しなし)
基本スキル:
・傾聴の黄金比
・俯瞰する心(今、これ)
隠れ属性:
????????????
(※現在解析中。修羅場を経るごとに、少しずつ開示されます)
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以上、ロードは完了した。
このステータス画面から分かることは、正直あまり多くない。ただ、頭痛だけは持病として確定しているらしい。
さて、時計の針を巻き戻そう。すべての始まりは、板橋のとある家族との出会いから始まる。
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(結菜編・第0話:出会いと、電車の中の洗礼)
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家庭環境にあまり恵まれなかった私は、大学進学をあきらめ就職の道を選びました。
国家公務員試験を突破し、農林水産省・水産庁へ入庁。船舶機関員(予備員)として、現場の船と本部を行き来する多忙な日々を送っていました。
当時、霞が関ビル8階の水産庁で「お茶くみ」のアルバイトをしていたのが、私より1歳年上の結菜でした。
出会いのきっかけは、職場の後輩です。結菜にすっかり惚れ込んだ彼から「代わりに食事に誘ってほしい」と頼まれたのでした。先輩風を吹かせたかった私は事務的に結菜へ声をかけ、後輩が誘っている旨を伝えました。
当時の私といえば、女性に興味がなかったわけではありませんが、それ以上にバイクへ情熱を注いでいました。小遣いはすべて憧れのマシンのために節約。中型免許を取得したのち、当時の超難関、合格率数パーセントと言われた試験に3回目の挑戦でようやく限定解除できたことは、今でもひそかな自慢です。免許は大切に扱っていて、ここ何十年もゴールド免許を守り続けています。
◇
こうして後輩、私、結菜、そして結菜の友人の4人で食事会が開かれました。男子校育ちで女性との会話に免疫のなかった私は、終始無言で料理を口に運ぶばかり。
それでも何度か食事やダブルデートを重ねたある日、事件は起きました。横浜からの帰り道、そこそこ混み合う電車内で、結菜が盛大に虹色のキラキラをマーライオンのように逆噴射したのです。周りの後輩や乗客がすっかりドン引きする中、船舶機関員として、船底に溜まる油まみれの汚水や汚水槽の掃除に死ぬほど慣れていた私は、まるで動じることなく淡々と片付けを済ませました。汚物処理のプロフェッショナルな清掃を経験していた私にとって、そんなものは日常の延長に過ぎなかったのです。
この出来事がきっかけで、結菜は私に好意を寄せ始めることになるんです。
【ステータス更新】
へー、ゲロ処理で顔色一つ変えないとか、ちょっとは見どころあるじゃん。べつに褒めてないけど。
隠れ属性「やばい時にソッコー対応」耐性、上昇しといてあげる。ったく、私が見ててあげるから、さっさと進めなのだぁ
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。次回からしばらく結菜編の泥沼(苦行?)が続きますが、ちゃんと笑える展開に繋がっていきますので、よろしければブックマークして見届けていただけると嬉しいです。




