3話 結婚
強くて優しい男性を探して、守ってもらおう。それが自分の出した結論だった。
本当は他人頼りではなく、自立して逃げ出したい。なんなら、国外にでも飛びたい。
けれど、侯爵令嬢グロリアという立場では、どこか遠くへ行くという選択肢も取れない。自分が家出したって連れ戻されるだろうし。
というわけで、私は第二王子シオドアに狙いを定めて、何度か会話しに行った。第一王子バッカスと違って、第二王子シオドアの方はまだマシと聞いているし。
「僕がグロリア様と婚約するメリットなど、あまりないと思います。もちろん、グロリア様は魅力的な女性です。しかし、バッカス第一王子様がグロリア様を好いていらっしゃいます。バッカス第一王子様の想いを、理由もなく邪魔したくありません」
シオドアはそのように言っていたので、脈なしだと思うけれど。シオドアは損得利益を重視して動く冷静な人だから、そういう対応になるよね。
でも、シオドア以外で、バッカスに対抗できそうな人間がいないんだよな。第一王子であるバッカスの権力は、あまりにも強すぎるし。
仕方がないので、シオドアのことは諦めた。そして、私はバッカスと婚約話を受け入れた。すると、バッカスは私に飽き始めた。
「婚約者のグロリアばっかり見ていると疲れる。俺はもっとこう、他の女達と遊びたい」
バッカスはそう言って浮気し始めた。バッカスが私に興味を抱かないこと自体は、もはや嬉しく思えてきた。一つ前の前世が怖すぎて、私はバッカスに好かれたくもなかった。
でも、このままだとバッカスとエミリーが、私に濡れ衣を着せて処刑へ持っていく可能性はある。なぜなら、二つ前の前世と同じ流れだからだ。
「よし。バッカスとエミリーの恋を、私は思いっきり応援しよう。私がエミリーをいじめたなんてウワサなんか絶対出ないよう、工夫してやる」
という決断をして、私は頑張ってみた。バッカスに対して、私はエミリーを勧めてみたし。エミリーに対して、バッカスに合う美少女だと褒めまくった。でも、うまくいかなかった。
「グロリア様が皮肉ばっかり言ってきて怖いんですっ。バッカス様、何とかしてくださいっ」
とある日の放課後の教室にて、エミリーは怯えたように叫んだ。なんでそうなる。
「いいえ。皮肉ではございませんよ。バッカス第一王子様とエミリー様の恋を応援するため、私は頑張っていただけです」
私は本音で言った。どうか誤解しないでくれ。
「なんだとっ。グロリアは悪女だな。よし、俺とグロリアとの婚約は破棄だ。ついでに、グロリアを処刑してしまおう。これでエミリーの安全は守られるなっ」
バッカスの言い分がひどい。家同士の相談もなしに、バッカスの意見だけで婚約破棄しないでくれ。バッカスが私を気軽に殺そうとすることも、本当にやばいと思う。教室内の他生徒達がドン引きしているじゃん。
「私はエミリー様に悪意を向けていませんし、危害も加えていません」
私ははっきり言った。でも、バッカスは聞く耳を持たなかった。
「うるさい。そもそも、俺はグロリアに飽きているから、グロリアを捨てても困らないんだ。グロリアなんて、ギロチンで首をはねられておけっ」
バッカスが暴言を吐いたあと、エミリーをそっと抱き寄せた。エミリーは嬉しそうな顔をして、バッカスを見上げた。
「バッカス様素敵です。私のこと、バッカス様の婚約者にしてくださりますよね」
エミリーが甘ったるい声を出す。エミリーの声を聞いて、バッカスは嬉しそうに笑った。
「もちろんだ。エミリーを婚約者にして、飽きるまで愛でよう」
バッカスの発言がクズすぎる。バッカスはエミリーも飽きて捨てるって、そう言っているようなものじゃないか。
というか、自分はどうやって巻き返そう。私は何を言えば生き残れるのかな。
でも、やっぱり今回も私は殺される運命なのだろうか。自分が死んだ場合、今度もちゃんと生まれ変われるのかな。正直、来世がある保証なんてないよね。
けれど、なんかもう頑張るの疲れちゃったな。私が何やっても、どうせ死ぬ運命としか思えなくなってきた。つらい。
「バッカス第一王子様がグロリア様との婚約を破棄するのであれば、僕がグロリア様と結婚します。ですので、グロリア様の処刑宣告を取り消してください」
不意に、第二王子シオドアの声が聞こえてきた。シオドアが教室に入ってきて、爽やかな笑顔を見せてくる。
なんでシオドアがそんなことを言うんだ。もしかして、今回の騒ぎはシオドアによってメリットがあるから、首を突っ込んできたのだろうか。
でも、自分の二つ前の前世のとき、シオドアの乱入はなかった。もしかして、私がシオドアに対して多少接触していたから、何か影響を及ぼしたのだろうか。
「ふざけんな。グロリアのことは処刑するって決めたんだ。シオドア第二王子なんかが俺の邪魔をすんな」
バッカスが不機嫌そうに言う。すると、シオドアは穏やかに微笑んだ。
「グロリア様の侯爵家は大金持ちですし、権力もかなりあります。そんな家のグロリア様を、くだらない理由で処刑しようだなんて。バッカス第一王子様の判断は明らかに間違っています。ですので、バッカス第一王子様は次期国王に向いていないでしょう。僕こそが次期国王になるべきです」
シオドアがそう言うと、周囲の生徒達が同意し始めた。この学園の生徒達は貴族や王族ばかりなので、彼らの意見は効果がある。
「グロリア様は悪いことをしていないように見えました。そんなグロリア様に処刑宣言をくだすバッカス第一王子様は、かなり怖い人ですよ。バッカス第一王子様を次期国王にしたくありません。今回のことは、親にも伝えようと思います」
そんなことを言う生徒が何人も出てきた。すると、バッカスが怒り出した。
「俺に逆らう奴はみんな死んでしまえ。今ここにいる奴ら全員処刑してやるっ」
バッカスがそう怒鳴った。でも、シオドアは動揺しなかった。
「バッカス第一王子様は正常な判断ができなくなったようです。兵士の方々は、バッカス第一王子様を捕まえてください。でなければ、バッカス第一王子様は兵士達も処刑し始めるでしょう」
シオドアの言葉を聞いて、兵士達は戸惑ったような表情を浮かべた。しかし、やがて兵士達は動き始め、バッカスを拘束した。
「おいっ。俺を誰だと思っている。俺は第一王子バッカスだぞっ。俺に刃向かう奴は全員、地獄へ送ってやるっ」
叫び続けるバッカスは、兵士達に連行されていった。これ、とんでもないことになったんじゃないか。
「シオドア第二王子様、助けていただきありがとうございました」
とりあえず、私はお礼を伝えた。すると、シオドアは何でもないような顔をした。
「いえいえ。グロリア様にお怪我がなくて、本当によかったと思います。学園卒業後、僕はグロリア様と結婚したいと思っているのですが。よろしいでしょうか」
シオドアが優しくプロポーズしてくる。シオドアがいい人かは分からない。でも、少なくともバッカスみたいに野蛮な危険人物ではなさそうだ。
「はい。私でよろしければ、ぜひともよろしくお願いいたします」
私はそう返事をした。すると、周囲の生徒達は拍手して祝福してくれた。エミリーだけが泣き崩れていたけれど、そこはもうどうしようもない。
そのあともシオドアと私の関係は良好で、学園卒業後には結婚式もちゃんと行われた。ちなみに、バッカスは失脚して、シオドアが次期国王となった。
シオドアはバッカスみたいに暴言暴力を振るってくることもなかったので、平穏な結婚生活が続いた。シオドアは冷たそうな印象があったけれど、意外としっかり愛してくれて、ものすごく幸せだった。




