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出来損ないと追放された魔工士、ゴミから作った魔工具で成り上がったら手フェチの王弟殿下の執着が重すぎた件  作者: ぺそぺん


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出来損ないはクビ 徹夜三日目の魔気酔いと失業


あの日、目の前にそれはそれは美しい銀の花が唐突に降ってきた。



手が、印象的だった。



一纏めにしたさらさらな銀の髪、雪のように白い肌、吸い込まれそうな青紫色の大きな瞳。


花のようなひとだと思った。


それなのに手だけ、骨ばってとても大きい。


アンバランスでやけに印象的だった。




ああ、あの骨ばった大きな手は技師の手だ。


美しく循環する銀色の光はまるで、音楽のようだ。


あの手が、どんなふうに幾何学模様をなぞるのか。

骨ばって長い指はどんなふうに、自分の作品をさわるのか。



あの手が。私にふれたなら、どんなふうに。



閉じ込めたい。



私の、銀の花。


 

偶然を必然にしようと、決めた。




「ブルーメ・クンツェ、本日限りでお前は解雇する」



男爵子息イディオットが睨みつけたのは、伸び切った銀髪を適当に一括りにした小柄な男。


徹夜三日目のその男は、髪の下にあるだろう目をゴシゴシと煤で汚れた腕で擦った。

厭らしく口元を歪めた魔工士たちが、今から始まるだろう断罪劇をニヤニヤしながら待ち構えている。


「ブルーメ、このアンゲーベン商会のお荷物が。お前の固定する魔工具は毎回数値がバラバラだ。微調整だと?馬鹿らしい。魔工具は安定・再現・効率だ。再現性のない個人技など前時代の遺物なんだよ。」



ぼやぼやと視界が霞み、言葉が言葉として理解できない。

魔気の揺らぎが二日酔いみたいに頭に響く。


あと魔工具は――全部それぞれ違うんだ。



「わかったなら荷物をまとめてさっさと出ていけ。一秒でも早くな。移民と同じ空気など吸いたくもない。ゴミはゴミ箱がお似合いだ」


「あー今まで…移民の俺を世話していただいてありがとうございました。ただ、俺が今まで確認していた魔気電池は、魔気の揺らぎが個体ごとに違うので、固定を一定にすると……」


「ああ、五月蠅い。わかったわかった。お前のそのくだらんこだわりのせいで魔気電池の出荷数が増やせないと聞いている。職人の勘で品質に差が出る製品などいらん。今後はその作業もマニュアル化してくだらん時間は削減することにする」


眉間にシワを寄せ、ぎゅっと握り込んだ手のひらからは血が滲み出ている。目が少し覚める。


もしも、イディオットの言うマニュアル化が、個体差を考えずに周波数を無理やり一致させるモノだったら。

その同期した魔気の固定が、もしも外れたなら――


口を開くより前に、店を追い出された。



ふらつく足どりで歩く最中、俺は願った。


どうか。

自分が微調整し続けた魔工具たちがその命を正しく使えますように。

だって魔工具は――生きてるから。



その夜、イディオットと魔工士たちは目障りなブルーメの追放を喜び、宴会を開き祝杯をあげた。


それが、破滅への祝杯だとも知らずに……




「はあ……今日から無職か。今月の給料、払えよな。あの男爵の馬鹿息子……クソったれが」


踵の削れた靴を片足だけ床に転がしベッドに崩れ落ちる。


「こんなの母さんに張り倒されるな」


街外れの森の中の古い一軒家。

ギシギシと軋む手作りのベッドに突っ伏して、ブルーメは怒り混じりの溜息をついた。




ブルーメ・クンツェは、移民である。


隣国ノルトフルスの精霊の百年の怒りと言われる災禍を逃れ、この国、グリンベルクへと来た。

唯一の家族であった母は渦中で命を落とした。

そしてブルーメはひとりぼっちになった。


このブルーメの母という人は、とびきり優秀な魔工士だった。


「身の回りのものは何でも魔工具になる・無駄なものは何一つない」


そのモットーを有言実行し、魔石の魔気を少しでも無駄にしようものなら容赦なく息子を張り倒した。

なのでブルーメも母譲りの気質がそこかしこに見え隠れした。


流れ着いたグリンベルクの王都で、運よく拾ってもらった魔工商会。

そこで下働きとして働くうちに、ブルーメは商会の魔工士となった。


そこまでは、まだ良かった。


「あの、その接続、おかしいです」


ある時、イディオットの仕事のミスを良かれと思い指摘してしまった。

優秀な大学を出て、数字に強く、それなりの魔工士であると自負のあったイディオットは激昂した。


手始めに仕事量を通常の10倍にされた。ブルーメにとっては楽しいご褒美のような時間。

悠々と仕事をこなすブルーメに苛ついたイディオットは、他の魔工士も巻き込んで何が何でもねじ伏せようとした。



「ハッ…あーもう笑うしかないわ」


ごろんと仰向けになると、ところどころネズミが齧ったぼろ板の天井の節を一つずつ数えながら、三日分の湿気と熱が籠もる部屋の窓を開けようかどうか考えた。


ぐうう~


こんな時でも正直な自分の腹の音に思わず笑ってしまった。



「なんか腹、減ったな……ははっ馬鹿らしい……よし!メシだ!」




イディオット達の宴会と時を同じくして、王国内のギルドではある掲示が一斉に貼り出された。


この国の最高学府、王立学院にこの人ありと言わしめた怪物教授の突然の引退。

その、ポスト争奪戦。


条件の一文にはこうあった。



「既存にとらわれない理論もしくは技術の提示ができる者」



あの怪物教授の後任。

ハイレベルな試験になると、国内の学者や技術者、研究員は湧き立った。


――森のボロ家で腹を減らしている貧乏魔工士が、この最高学府に新風を巻き起こすことになるとは。


誰が知っていただろうか。



翡翠の瞳の男が、わずかに口角を上げた。


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イディオットむかつく!
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