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出来損ないはクビ

「ブルーメ・クンツェ、本日限りでお前はこの名門アンゲーベン商会から解雇する」



そんな青天の霹靂のような言葉がブルーメに降ってきたのは、徹夜3日目、言葉が言葉として理解できないほどヨレヨレぼろぼろになって作業をしていた最中のことだった。


それはどういう、、とブルーメが問うより早く、商会の跡継であるアンゲーベン男爵子息イディオット・アンゲーベンがブルーメを睨みつけた。


「ブルーメ、お前はこの商会のお荷物なんだよ。お前の作業効率の悪さを見てみろ、周りの魔工士は皆、仕事を定時で帰っているのにお前は残業ばかりで、おかしなこだわりが強い。しかも小汚い。どこに目があるのかわからないような伸ばしっぱなしな頭をして服装も毎日同じ。我が商会の品位が落ちる。お前のような出来損ないに払う金はないんだよ」



残業ばかりなのは周りの魔工士が、移民でこの国での身分の低い俺に仕事を押し付けて帰るから。


それにおかしなこだわりと言うけど、魔工具の品質や動作のチェックに時間をかけるのは当たり前だ。そういった細かい工程を面倒くさがる魔工士がブルーメに目をつけ、押し付けた仕事を自分の手柄にする。

服装は一着しかないが正規の制服だし、仕事に追われているから髪を切りに行く時間も取れないのだ。


そんなブルーメに仕事を押し付ける周りの卑怯者たちに声も上げられない、それは身分格差というたった4文字に集約されている。誠実に仕事をする者が馬鹿を見るクソな社会を表す言葉だ。



こんな馬鹿でも貴族で、逆らえば自分の首が明日には胴体と離れてしまうかもしれない。そんな考えが頭をよぎり、ブルーメは唇を噛み締め、言いたい言葉を言うことも出来ずグウと喉を鳴らす。



「わかったなら荷物を纏めてさっさと出ていけ。一瞬でも早くな。」



周りの魔工士はそんなイディオットとのやり取りをニヤニヤしながら見つめている。



「……わかりました。今までお世話になりました」



震える声を喉から絞り出し、背中を向け店の入口へと歩を進めるブルーメに魔工士の一人が笑いながら口の端を醜く上げた。


「やっとこの名門商会から汚い移民がいなくなるな。空気が綺麗になる」



ブルーメはわなわなと震える手をぎゅっと握りしめ、その後どうやって店から帰ったか覚えていなかった。









「はあ……今日から無職か。あの男爵の馬鹿息子、今月の給料も払わず追い出しやがって……労働ギルドに訴えてやるぞ。けど、これからどうするかな……」


街外れの森の中のボロボロの一軒家でブルーメは怒りの混じった溜息をついた。




ブルーメ・クンツェは、この国、グリンベルクでは移民である。


隣国ノルトフルスの精霊の100年の怒りと言われる災禍を逃れグリンベルクへと来た。

唯一の家族であった母は渦中でブルーメを守るために命を落とし、ブルーメはひとりぼっちとなった。


グリンベルクでは、移民は平民と同等、と国の法では謳われているが、実際は賤民と同等の扱いだ。


ブルーメは優秀な魔工士であった母に幼い頃から叩き込まれた魔工技術があったため、なんとか魔工商会の下働きになることができた。


下働きとして働くうちに、その魔工技術への精通ぶりを当時の魔工士長に認められ、ブルーメはアンゲーベン商会の魔工士となった。

そこまでは良かった。


魔工士となったブルーメのその博識さが仇となったのだ。


ある時、イディオットの仕事のミスを指摘してしまったことをきっかけにブルーメに対するイジメが始まった。


イディオットが無茶な仕事量をブルーメに押し付けたりしているうちに、周りの魔工士も跡継であるイディオットがやるならと自分の仕事を押し付けたり、嘘の報告をしたりと、イジメは徐々にエスカレートしていった。


移民のくせに生意気だ、と。


それでもブルーメは誠実に仕事をこなした。魔工士に取り立ててくれた前魔工士長の恩に報いるために。


その結果がこれである。


「ははは…もう笑うしかないわ」


空笑いしながらベッドに仰向けになりネズミのかじった天井の穴をぼんやりと見つめていた。

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